第36話 線路は続くよどこまでも

 皆さん、ご存じですよね、この歌。


 電車に乗ってるのがうれしくって、ランラン言ってる、アレです。


 日本で作られた歌じゃないですね。アメリカだという話もあります。実際は違うかもしれませんが、こっちでも歌われています。


 私も子供の頃はよく学校などで歌わされましたが……真実をメルヘンでコーティングした「森のくまさん」とならんで、嫌いな歌のうちの一つでした。電車も別に好きじゃないから全く共感しないし、歌詞の半分はランラン言ってるだけだし。


 けど……アメリカでこの歌を聞いてから好きになりました。キャッチーなのなんなのって。曲が、じゃないですよ、歌詞が。


 こんなの童謡として聞かせていいの? という話もありますが、子供って結構ブラック大好き。大人の世界を垣間見るというのでもいいんじゃないでしょうか。


 では歌詞です。となりのは月森の意訳で、ニュアンスこめてます。


I've been working on the railroad(俺は鉄道で働いている)

All the live-long day.(朝から晩まで生きてる間は)

I've been working on the railroad

Just to pass the time away.(ひたすら時間をやりすごす)

Can't you hear the whistle blowing,(汽笛が聞こえんだろ)

Rise up so early in the morn;(起こされちまうんだよ)

Can't you hear the captain shouting,(キャプテンが叫んでんのが聞こえねえか)

"Dinah, blow your horn!"(ダイナ、汽笛を鳴らせ)

Dinah, won't you blow,

Dinah, won't you blow,

Dinah, won't you blow your horn?(ダイナ、何度も言ってんだろ! なんで汽笛を鳴らさねえんだよ)

Dinah, won't you blow,

Dinah, won't you blow,

Dinah, won't you blow your horn?(なんで鳴らさねえんだ?)

Someone's in the kitchen with Dinah(誰かがダイナと一緒にキッチンにいる)

Someone's in the kitchen I know(俺の知ってる誰か←思わず邪推する月森)

Someone's in the kitchen with Dinah(誰かがダイナといるんだよ)

Strummin' on the old banjo!(古いバンジョー弾いてるぜ←ほんとにそれだけ?)

Singin' fee, fie, fiddly-i-o(フィディアイオー、って歌ってる)

Fee, fie, fiddly-i-o-o-o-o

Fee, fie, fiddly-i-o

Strummin' on the old banjo.(古いバンジョー鳴らしてる←権力者の息子?)

(出典:wikipedia)


 これだと、乗り物好きでもない月森がぐっと前のめりになります。


 いやあ、この歌を日本に持ってきて訳した人の苦労がうかがえます。まさかブラックな職場でやりがいもなく、ただ時間を過ごすために働いてて、サボってる人をチクっちゃう……みたいなこと、子供向けには書けないですよね!


 ちなみに、歌詞の中のダイナに関するところ、おかしいと思いませんか?


Dinah, blow your horn!

 これは汽車の名前がダイナ、という風に思わせますよね。

 でも次の文ではダイナは誰かとキッチンにいて、仕事をさぼってるわけです。


 ダイナは汽車の名前なのか、人の名前なのか。


 私は、


 ダイナがホーンを鳴らす係だから、『おまえの仕事』の意味でyourが使われてると思ったんです。


 というのを娘に言いました。娘は言いました。


「乗り物は女性名詞を使うの。だからダイナ、って名前を付けてんのよ」

「えー。でもダイナはキッチンにいるじゃん」


 するとじろっと見てきました。


「あのねえ、この時代の鉄道夫たちは学校も行かせてもらえなくて、一日中重労働させられてたの。一食500キロカロリーぐらいのごはんを何日かに一度しか食べさせてもらえなくてお腹は減ってるわ疲れてるわで、辻褄考えて歌なんか歌えないのよ。回らない頭でテキトーなこと言ってその場をしのいでるだけ」


「でも私、読者の皆さんに意味を……」


「歌詞そのものに意味なんかない。歌を歌って疲れと空腹を紛らわせる。それがこの歌の本当の意味」


 信じるか信じないかは、あなた次第です。




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