第30話 堀内(高校編)
高校生になり、クラス分けを見ると、中学の時の友達が数人いた。
家の近所で公立とだけあって、みんなのねらい目の高校だ。
しかしそこには、ストレス発散機である天之原はいなかった。
どうやら別の高校に行ったみたいだ。
ストレスの捌け口のくせに生意気な。
そんな思いが募っていた。
こうなれば新しいのを探すしかないな。
席に着いたら、自分の周りの席の奴と話し仲良くなった。
あとは、ストレス発散機を誰にするかだが。
そこで気弱そうな奴を数人見つけて1人に絞った。
方法は天之原の時と同じでいいだろう。
そう思い何をターゲットに忍ばせるか考えていると、中学生の時と違い、財布と携帯を持っていることに気付いた。
中学生の時は、それらを持ってくることは禁止されていた。
体育の授業を狙って、誰かの財布か自分の財布を机に忍ばせばいいと思ったが、スマホのカメラを女子更衣室に仕掛けておくのも面白そうだと思った。
しかし前者の方が楽か。
そう思い周りを見てみると、身に着けている財布なんて都合よく盗めないことに気付いた。
俺の財布を忍ばせるか!
移動教室の際、皆が教室を出たのを確認し、素早くターゲットの机の中に財布を忍ばせた。
そして、授業が全て終わり先生が教室から出て皆が帰ろうとしたとき、計画を実行した。
「あれ!?俺の財布がねえ!!」
みんなチラチラ見ている。
そしてターゲットは俺の財布を見つけたようだ。
完璧な流れだ。
「これもしかして堀内君の財布?なんか俺の机に入ってたんだけど」
来た!
「あ!!それ俺の財布じゃん!何、お前俺の財布盗んでるんだよ!!」
「え!?いや、盗んでないよ。わからないけど俺の机に入ってたんだよ」
「あ!?とぼけるなよ!悪いことしたらごめんなさいだろ!」
その瞬間
「え?あいつ財布盗んだのか?」
「このクラスに泥棒居るのかよ」
皆そいつのやった行いに対しての嫌悪感を口々にしていた。
完璧に計画は進んでいた・・・はずだった。
しかし次の瞬間、1人が予想外な行動を起こした。
「あれれ~堀内。移動教室の時、そいつの机の中に財布入れてなかった?」
・・・えっ!?
なんだこいつ、なんでそれを知ってるんだ。
冷や汗が出てきた。
「そんなわけないだろ!そもそも俺が何でそいつの机の中に財布入れなきゃなんねーんだよ!」
「じゃあ、これはなにかな~?」
そう言うと、スマホの画面を見せてくる。
その瞬間、顔が青ざめた。
そこには、俺が机に財布を忍ばせてる場面が写っていて、その瞬間が全て動画に収められていた。
財布を忍ばせた俺は、にちゃりと顔をニヤケさせ言葉を発した。
「これで、いいストレス発散機ができるぜ!苛め抜くぜ〜!!」
独り言も撮られていた。
「なんだよこれ、最低じゃね?」
「うわ~、マジ引くわ」
「堀内、こんな奴だったんだな」
そんな言葉が次々出てくる。
「えっ?いやそんなつもりじゃなくてな。間違えてそいつの机に入れちまってたんだな俺。すまんかったな~。・・・お前」
苦し紛れの言い訳だ。
名前を言おうとしたがそもそもターゲットの名前を知らなかった。
「おいおい、そんなわけねーじゃん。なんでわざわざ移動教室なのに財布を机の中に入れるんだよ。それに、ストレス発散機や、いじめるとか言っちゃってるよね~」
「え!いや・・・それは」
反論できない。
なんせすべて記録が残っているから。
「最低だなお前!」
「こんな奴とクラスメイトだったのかよ」
皆から批判の声が出た。
「ちがう!・・・そうだこいつ動画編集して声入れたりしたんだよ!俺はやってない!!」
「あのさぁ~堀内。悪いことしたらまずごめんなさいだろ!?常識知らないのかよお前!?」
「なっ、ぐぅっ!!」
違う。
なんだこれ。
それを言うのは俺だ。
何が起こってるんだよ。
そのとき、そいつは、にやっと笑っていた。
その瞬間分かった。
こいつらはストレス発散機を俺にするつもりで、この状況を作り出したんだと。
そして、さぞ俺の転落っぷりが面白かったのだろう。
そいつは俺に近づいて来て、俺にだけ聞こえる小声で話しかけてくる。
「これからよろしくね!サンドバックちゃん♪」
その瞬間怒りが込み上げてきた。
「・・・ざけんなよ!」
「あ!?何かな堀内?」
「ふざけんなよ!その立ち位置は俺のもんだ!!」
そう言い、殴りかかった。
だがその攻撃はかわされた。
「あ!?何すんだよお前!本当のことばらされてどうしようもなくなって逆上しやがって!」
「うるせえ!」
そう言いもう1発殴りかかる。
しかしそれも躱され、次の瞬間、顔面に激痛と視界に星が散った。
そして気付いたら、しりもちをついていた。
な・・・ぐられた!?
「最初に手を出したのお前だからな~、おら!」
そして、腹に蹴りが炸裂する。
「ぐっ」
くそ痛い。
「おい、お前らもやろうぜ。こいつ超よええわ」
その言葉で数人増え、暴力の嵐が降ってきた。
この先、休憩時間の度ずっと休みなくいじめられ、最終的にはクラス皆のストレス発散機となっていた。
そうなるまで1週間はかからなかった。
早いものだ。
そして夏休みが来た。
俺は、コンビニに向かっていた。
つらい、毎日が辛い。
学校にもう行きたくない。
でも高校は出ておきたい気持ちもある。
今の高校に入れたのは、中学生の時に頑張って勉強をした結果だ。
ストレスもたまったが、それは毎日天之原で発散した。
高校に入ってもストレス発散しながらいい大学に進学する予定だった。
俺の計画は完璧だった。
なのになぜ。
今では皆にいじめられストレスがたまり、勉強もろくにできておらず、赤点もいくつか取った。
そして今後増えていくことだろう。
最初の頃は、どうしていくべきか考える余裕はあったが、それはいじめられる度に無くなっていった。
夏休みも楽しめない。
なんせ友達すべて失った。
何もやりたいことが思いつかないし、今まで楽しかったことをやっても全然楽しくない。
まるで心が死んでいるみたいだ。
夏休みは時間が豊富にある。
2学期からどう挽回するか考えるべきだろうが、何せもう心の中には恐怖心が宿っていて、それどころじゃなかった。
2学期始まるとまたあの学園生活が始まる。
そう思うだけで苦痛だった。
卒業まで耐えれるだろうか。
その瞬間、天之原の事を思い出した。
「あいつ、これを3年間も耐えたとか、化け物かよ」
今の俺にはそうとしか思えない。
俺には無理だ。
こんなこと3年間も絶対耐えれない。
どうやったら3年も耐えれるんだよ。
もう1日も耐えれる気がしない。
「俺、今まで天之原にこんなにひどいことしてたんだな」
いじめは、体のダメージはすぐ治るけど、心のダメージは永遠に治らない。
それを思い知った。
物理的に人を殺したら罪に問われて死刑になったりするけど、心を殺したら死刑になったりしないよな。
俺はどちらも同じ殺人ではないのかと思い始めた。
何せ今の俺、生きた屍みたいだからだ。
それなら俺は・・・。
「天之原を殺したってことにもなるのかな。ははっ、次会ったら謝らないとな。・・・ほんと俺って。何やってるんだろ」
その瞬間ドン!という音とともに激痛が走り、意識がだんだんと遠ざかる状態に陥った。
目の前の光景に意識を向けると、車と人そして目の前に自分の血が広がっているのが見えた。
(轢かれた!?やべえ・・・意識が保てない)
それが、堀内の最後であった。
そして、目覚めると霊界にいたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます