第29話 堀内(中学編)

お腹が減っていた俺は、ギルドでご飯を食べていた。

肉料理だが、漫画で見る漫画肉的なものじゃなくて、普通にステーキだった。

白米もまた美味しい。

それらの食事のおいしさに感動していると、堀内が話しかけてきた。


「お前って、なんで死んだんだ?」


唐突だった。

まぁ確かに、話すにも話題がないか。


「もしかして、自殺とかか?」


あぁ、そうか。

堀内とは会話する機会がなかった。

まだ言ってなかったな。


「いや、実は俺まだ生きてるんだ。なんか、現世で寝ると、こっちに来れるようになってさ」


自殺未遂の件は伏せておくことにした。


「は?まじかよ。そんなことあるのか」


びっくりした表情をしており、中学生の時のような険悪な態度は全くない。

本当にどうしたのだろうか、


「堀内は、どうしてこの世界に来たの?」


中学生の時だったら、何を話しかけても、「調子乗ってんのか?」とか言っては殴られたものだった。

その時の事から考えて、思い切った内容を聞いたかもしれない。

そしたら堀内は難しい顔をし、固まってしまった。

しかし、しばらく待っていると思い唇が動いた。


「まず、中学の時ひどいことして、すまなかったな」


まさかいきなり謝罪されると思っていなかったのでびっくりした。

そして、堀内は語りだした。




******************************************

中学に入る前、俺は親の仕事の都合で大阪に引っ越してきた。

そんな俺には、周りに友達や知り合いなどいない、未知の世界だった。

しかし、登校初日に前の席の人が話しかけてきて、俺たちはすぐ友達になれた。

そしてそいつの小学生の時の友達を紹介してくれ、友達が増え、入学前の不安は消えた。


でも、入学して1ヵ月たったときに、今までずっと一緒にいた友達は、たまに抜けるようになってきた。

そこで俺は、抜けていく先を見ていたら、2列横で少し前の方の席に座っていたお前のところに向かっていた。

そして、仲良く話しているのを見て、少し嫌な気持ちになった。

しかし、いつもつるんでる友達が違うグループに混じることはよくあることだから、そこは気にしないことにした。


しかし、ある日たまたまお前の方を見たら、今まで話したことがない奴に、気兼ねなく話しかけて、友達の輪を広げていっていた。

その時俺は思ったんだ、俺から友達を奪っただけじゃ飽き足らず、まだ友達を増やすのかと。

しかも、その友達を増やしていく様がうらやましかった。

あんなに簡単に友達を増やすことは俺にはできない。

俺が持っていない能力に嫉妬した。


最初は我慢していた。

しかし、その友達がお前を紹介してきて、一緒にそのグループで遊ぼうと誘ってきた。

苦痛だった。

その瞬間嫉妬が憎しみに変わっていった。

なんで俺があんな奴に、友達を取られなきゃいけないんだと。

ましてやそんな奴と友達になれってふざけるなと。


そんなある日、こっちのグループの1人からお前の事を聞いた。


「天之原、小学生の時一緒のクラスだったけど、いじめられてたんだよな。何してもやり返してこないからさ、みんなのいい的になってたんだよな。」


それを聞いた瞬間、俺のこの憎しみの心は間違っていなかったんだと思った。

なにせ、俺と同じような気持ちになったやつがいて、そいつらはお前を攻撃してたんだからな。


そんな俺は、夏休み中にいじめの計画を練り、2学期になり実行することにした。

きっかけは些細なことでもよかった。

俺はお前と同じ消しゴムを買い、その消しゴムをお前の机に置いておいた。

そして、授業が始まる前。


「あれ!?俺の消しゴムがねえ!」


そう言うとチラチラと数人がこちらを見てきた。


(よし、少しだが注目を浴びせれたな)


そしてあたりを見渡し、天之原の机の上で目を止める。


「ちょっとそれ見せてもらっていいか?」


「え?いいけど、俺のだよ?」


そして、消しゴムを手渡されてチェックする。

そして、


「これ俺のじゃね~か!」


「えっ!?」


「ここに俺の名前書いてるし!」


そう言い、消しゴムのカバーをずらしたところに書かれている自分の名前を見せて自分のものだと主張する。


「えっ、なんで!?」


「なんでじゃねーよ。人の物取ったら泥棒だろ?こんな時、まず言うことあるよな!?ごめんなさいだろ!!」


威圧的に言い、天之原を委縮させる。


「取った覚えもないし、なんで俺の机に置かれたかもわからないよ」


「いいわけすんなよ!まずは謝れよ!」


いい流れだ。

天之原はまだ何か言いたげだが、周りの視線もあり諦めたのか、重い口を開いた。


「じゃあ・・・ごめん」


こいついいように流されてくれるな。


「あ!?じゃあってなんだよ!ふざけてんのか」


そう言い机を叩く。

天之原はびくっとなってキョドキョドし始めた。

その瞬間気分がよくなった。

そこで授業開始のチャイムが鳴る。

ここまでか。


「人の物もう取るなよな!」


そう言い机に戻る。

周りから、


「あいつほんとに取ったのかよ」


「クラスで泥棒するって」


など聞こえる反面


「堀内言い過ぎじゃね?」


って声も少し聞こえてくる。

まだ今はこれでいい。

計画は順調だ。


それから1週間が過ぎたころに、今度はリア充グループの1人の筆箱を天之原の机の中に忍ばせた。

そして休憩終了のチャイムが鳴り、次の授業の教科書を出し準備をしていたころ、


「あれ?俺筆箱何処やったっけ~?」


そんな声が聞こえてきた。


「忘れたんじゃね~のか?お前!?」


「いや、さっきまで使ってたからそんなことないはずなんだよな~」


「思い違いじゃねーのか?本当は、元から無かったとか」


「いやいや、前の授業ちゃんと板書したから使ったって」


「じゃあなんだ、家出したんじゃねーの?」


「そんなわけあるか!」


そんな話になっているとき、天之原は机の中をあさって、教科書を取り出しているときに、見たことがない筆箱が出てきて、ハッとした表情をして、リア充グループに声をかけた。


「ねぇ、もしかして探してる筆箱ってこれ?」


「あっ!それそれ!・・・なんでお前が持ってんの?」


「えっ?なんか机の中に入ってて」


そこで俺は声を上げる。


「なんだ天之原、また泥棒したのかよ!」


そう言った瞬間みんなの視線が天之原に向かう。


「えっいや、違う。俺は盗んでない。誰かが俺の机に入れたんだって!」


「おいおい天之原。人のせいにすんなよな!最低だぞお前!」


「さいてぇー」


天之原への批判の声が相次ぐ。

これはもう計画成功だろう。

次の休憩時間、俺とリア充グループは天之原を教室の後ろに呼び出した。


「なんで人の物取ったんだよ!」


「ふざけてんのかお前!」


俺も声を上げる。


「最近調子乗ってるよなお前!」


そして、天之原の肩を押す。

天之原は壁にぶつかり悲痛の顔を出す。


「でも俺は取ってない。本当だ!」


「往生際が悪いなお前。お前の机の中にあったんだからお前が取ったんだよ!」


「自分の非を認めろよ!」


そんな言い合いで休憩時間は終わった。

それから天之原の悪口が飛び交うようになり、彼は孤立した。

休憩時間や授業中は消しガスを投げたり、物を隠されたりし始めた。

俺を含め皆はそのたびに、天之原が無反応であることが面白くなく、いじめはエスカレートし始めた。

その時俺は、クラスの男子半数と仲良くなっていた。主に、天之原をいじめるグループになっていたが。


ここからいじめは本格化させた。休憩時間はほぼ全て教室の後ろに呼び出し、サンドバッグ代わりに皆で殴って遊んでいた。

そして、いじめに加担していないクラスの男子半数も強引敵に加担させ、無理やり天之原を殴らせていた。

最初は皆、いじめることに抵抗していたが、時間がたつと楽しそうに殴っていた。

学校に通っているとストレスがたまる一方、皆そのストレスを発散する場所を見つけたかのように天之原をいじめつくした。

天之原は、どんなに殴っても効いていないという言わんばかりに、目の輝きは消えなかった。

それがまたいじめを加速させる要因にもなった。


そして、学年が変わったらクラスは別になったが、天之原のクラスと一緒になった仲間が、またいじめの輪をクラス内に広め、さらにそこに別クラスになった俺も加担し、いじめグループの人数は増えて行った。

しかし、そんな日常にも終わりが見える。

卒業式だ。

みんなのストレス発散の道具は高校生では無くなることになる。

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