第28話 舞い戻って来ました

心地よい風が体をなでる。

周りに人の気配がある。

意識が覚醒してくる。


(あれ?俺どうしたんだっけ・・・)


俺は、確か自分の部屋に入った瞬間、倒れたはずだ。

だから今、外にいるはずがない。

重い瞼を開けて、周りを確認してみる。


「なんで外で寝てるんだ?・・・」


起き上がり、周りを見てみる、するとそこは、霊界のギルド前だった。


「・・・えっ?」


あれだけ霊界に行こうとしたけど全然いけなかったのに、なんで・・・。

とりあえず立ち上がってみる。

すると、先ほどまでの脱力感が嘘のようになくなっていた。


【大丈夫?天之原君?】


「えっ?立花さんも来たの?」


【うん。天之原君が倒れた後、私も急に意識が遠くなって、気付いたらここにいたの】


どうやら立花さんも倒れたみたいだ。


「やっぱり、あの異常現象、霊界と関係あったみたいだね」


【そうだね、見て!空に黒いモヤがある】


現世では、火の玉が人から人に移動していたり、空の黒いモヤに吸い込まれたりしていた。

霊界では、現世にもあった、黒いオーロラ状のモヤがあるだけで、黒い火の玉は飛んでいない。

オーロラにひときは濃い場所がある。

おそらくあそこの下に俺の影がいるだろう。


「これが俺の影が言っていた楽しいことか」


人の心の闇を操作して何が楽しいのかわからないが、現世の異常を見るに止めたほうがよいだろう。

しかし倒せるのだろうか。

この前は、何もできずにただ一方的にやられてしまった。


「影を倒すのは自分の心次第か・・・」


倒されて現世に戻って、心は強くなったのだろうか。

劇的に変わった感じはしない。


そこで異常を感じた。

周りが普通過ぎるのだ。

これだけの事が起こってるのにだ。


「まさか、ここでもみんな見えてないのか!?」


【皆、普通にしてるね】


買い物をする冒険者、農業に向かっている人、会話をしている人。

ぐ~。

なんの音だ?

ハッと気づく。


「俺の腹の音か」


先に腹ごしらえするか、ちょうど目の前にはギルドがある。

食事する余裕ぐらいあるだろう。

もう事は起きているし、急いでも変わらないだろう。

なんなら、準備を整えて万全の状態で行くのが大事だ。

何もかもが急に起きるのだ。

準備する時間が必要だ。


「よし!まずは腹ごしらえだ!!」


【天之原君って、何か抜けてるよね】


それでも、空腹には勝てない。

俺は迷わずギルドに向かい、ドアを開ける。

すると、席に10人近く座っており、そのすべての人がこちらを見てびっくりしていた。

まるで死人を見ている眼だ。


「明、お前生きてたのか?」


話しかけてきたのは、最近ギルドに行くとよく話しかけてくれるおっちゃんだった。


「あんなことがあって、そのあと消えちまったからよ、死んだのかとおもったぞ!」


おっちゃんは近づいてきて、両手で肩をパンパンと叩きながら言って来る。

まるで生きてるのを確認するかのように。


「自分でもびっくりですよ、あの後意識が遠のいて気付いたら気を失った場所で意識が戻ったので」


嘘は言ってないよな、うん。


「そうか、自分の影との力の差があんなにあるとは、残念だったな。まぁ、時間はいくらでもあるんだし、力尽けてリベンジするといい!」


「はい!そうします!」


そんなに時間かけてる猶予はなさそうだし、食べて準備したら向かわないとな。


「飯代はおごってやるから、今日は好きなだけ食って、ゆっくり休みな」


「ありがとうございます」


霊界には優しい人や、気が合う人が多い。

それは、心に闇を抱えてる人が集まる場所だからだろうか。

おそらく、心を傷つけられる痛みを知っている人達だから、その痛みを他人には与えないという考えを持っているからだろう。


すると、勢いよくギルドの扉が開いた。

扉の方を見ると堀内がギルド内を見渡し、俺を見つけて、こっちにやって来た。

ドンと机を叩き、


「さすがに今回はもうだめだと思ったぞ!」


そう彼は言い、力が抜けるように椅子に座ったのだった。

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