第27話 異変は突然に

目が覚める。

長年毎日のように見ている天井が視界に広がる。

自分の部屋の天井だ。


「・・・・だめだぁ~」


落胆する。

今まで寝たら、そのまま霊界に行けていたのに、行けなくなっている。

寝たら普通に寝てしまうのだ。


「なんで、霊界に行けないんだ?」


考えられる原因はあれしかない。


「俺の影に胸を貫かれたのが原因か・・・」


普通であれば死んでしまうレベルのダメージだ。

おそらくあれで霊力が弱まり、霊界に行けるほどの力がない、もしくはつながりが切れたかのどちらか、もしくは両方だろう。

ここで厄介なのは後者だ。

霊界に行けていたのは奇跡だったのに、そのつながりが切れたというならもうお手上げだ。

前者であっていてほしいが、十分に睡眠をとって休んだ俺はもはや健康体だ。

嫌な汗が出てくる。

結構やばめなのかもしれない、この状況。

するとラインが来た。


「立花さんだ!」


俺の体調はどうなったかという内容だった。

寝たら体調は戻ったと送るとまたすぐに来た。

どうやら、放課後カフェで会わないかという内容で・・・。

なんだこの会話、毎日のようにラインが送られてきたら勘違いしてしまう。

とりあえず返信し、いつもの場所での待ち合わせをすることにした。

まぁ、霊界の事はまた後で考えたらいいよね。



***********************************************

そして指定の時間より1時間前にカフェに着いた。

まぁ、暇だった事と、煮詰まった頭をほぐしたい気持ちがあったから早めに来て、コーヒーを飲みリラックスすることにした。


店内は、平日という事もあって、客はそんなにいないみたいだ。

仕事をしているのだろうかPCで作業をする女性。

平日が休みの仕事をしているカップルだろうか、楽しそうに話をしている若い男女。

その2組だけしか客はいなかった。


学校の授業が終わったのだろうか。

窓から外を見ると、高校生の集団が下校していた。

皆学校で拘束されていた1日、その中俺は寝ていたことに少し罪悪感が出てくる。


(まぁ、体調悪かったし仕方ないな)


そう思い、コーヒーを1口飲む。

カフェに広がる心落ち着く音楽、下校中の学生を見る優越感、好きな子が来るまでの待ち時間、整った体調。

実に甘美だ。


すると立花さんがやってきた。

どうやら下校していたのは立花さんの学校だったようだ。

立花さんに合図を送り、それに気づく立花さん。

立花さんは俺が座ってる席に歩いてくる。


「思ったより元気そうだね」


「朝はつらかったけどね。寝たら治ったよ」


「そうだよね、あんなことがあってすぐだったし」


「あれから、霊界どうなったんだろ?」


「わからない。私もあの後、目が覚めたから」


わからないか・・・。

結局俺の影は何がしたかったんだろ。


「もう霊界には行けなさそうだから、確認できないんだよね」


「えっ?行けなくなっちゃったの?」


「うん。あのあと寝ても、普通に寝るだけになっちゃったし。なんかもういけない気がするんだよね」


感覚的だが分かる。

もう寝ても夢を見るだけだと。

現実離れしすぎてて、分からない事が多すぎる。

なら、霊界に行けないんならもういいじゃないか。

もともと死んでから行く場所だ。

もうそう思うようになっていた。


(俺の影以外にも少し心残りはあるが、死んだら行くことになるんだしそんな急ぐことはないだろう)


そう思いコーヒーを手に取り飲もうとする。

すると次の瞬間、手からコーヒーカップを落としてしまう。

ガチャン!!

コーヒーの残りが少なかったこと、そしてコーヒーカップが割れなかったこと、運がよかった。


「だ・・・だいじょうぶ!?」


立花さんは慌てておしぼりでコーヒーをふき取る。


「ごめん」


俺はそう言い、倒れたコーヒーカップを手に取ろうとする。

しかし、手に力が入らず何度やってもうまく取れない。


(なんだ・・・この感覚)


まるで、力が吸い取られているような。

不思議な感覚だ。


すると周りの異変に気付く。

PCで作業をしていた女性は、頭を抱え叫んでいる。


「私は一体なんてことを、私はどうせ何もできない人間だ。そうするしかなかったんだ・・・」


カップルの男女も少し顔が暗くなっている気がする。

外を見ると店内と同じように、立ち止まってとても思い詰めている人や、表情が暗い人がちらほらいた。

そして何も変わりのない人がその人達を見て見ぬふりをしたり、心配そうに眺めていたりする。


「なんか皆の様子が変だよ!」


よかった、立花さんはいつも通りだ。


「いったいどうなってるんだ・・・」


立ち上がろうとしたら、よろけて机に手をつく。

体に力が入らない。


「立花君!大丈夫!?」


立花さんはすぐに横に来て、体を支えてくれた。


(いいにおいがする。)


「立花君?」


おっといけない。

ちょっといけない気分になっていた。

そんなことよりも


「ごめん、ちょっと立ち眩みかな?力が入らなくて」


「まだ体が本調子じゃないんだよ」


周りの状況は明らかに異常だ。

さっきまで元気だった人が急に様子がおかしくなった。


(この脱力感も何か関係してるのかな?)


「とりあえず家まで送るよ」


「ありがとう」


俺自身も少しずつ脱力感が強くなってきている気がする。

とりあえず一旦横になりたい。

自宅のベッドを目指そう!

自宅まで徒歩10分ぐらいだ。

この状態だともう少し時間がかかるだろう。

立花さんに支えられながら、店の外に出る。

かろうじて1人で歩けはするが、気を抜いたら倒れそうだ。


そして店の外を出た瞬間、異常な光景を目にした。

空一面に黒い火の玉のようなものがたくさん飛び交っていたのだ。

この光景に違和感を感じる。

それは、こんなに異常な光景が広がっているのに、皆まるで関心を持っていないことである。


(みんな気付いてないのか?)


この異常な光景に、驚愕し動けないでいると立花さんの声が聞こえた。


「えっ?なにこれ!?」


「立花さん、これが見えるの?」


「うん、黒いのがいっぱい飛んでる」


どうやら俺と立花さんは見えているみたいだ。


(でもなんでほかの人は見えないんだろ?)


周りを見ていると、黒い火の玉が人から抜けたり、入ったりしている。

そして、火の玉が抜けた人は普通だが、入った人は、顔色が悪かったり、異常に落ち込んだりしている。

そして空にはオーロラのような黒いもやがかかっていて、一部はそこに吸い込まれていた。

自分自身も、その黒いもやに引力的なものを感じる。

立花さんも黒いもやに気付いたようだが、俺の身を最優先してくれたのか、何も言わず俺の家に向かう。

その間俺は今まで起きた異常現象のことを考えていた。

霊界で意識が途絶える寸前に、自分の影が言っていた言葉から推測すると、霊界が関係しているようにしか思えなかった。



『これからもっと面白いもんが待ってると思うと、楽しみでしょうがないぜ!』



これがその面白いことだろう。

一体何が目的なのかが分からない。

もう一度、自分の影と対話したいところだが・・・。

そう考えていると自宅に着いた。


「立花さん。ありがとう。ここ俺の家」


「ここが天之原君の家なんだ」


立花さんは自宅をまじまじ見ている。


(あまりみられると恥ずかしいな)


「部屋まで送るよ」


「ありがとう」


どうやら部屋に初めて女子の友達をあげることになりそうだ。

家に入ると、台所から母親の声が聞こえる。


「~~悪くないんですよ。~~も悪くない。あの子の~~ケアを~。」


何を言ってるのかは聞き取れなかったが、うちの親も異変に巻き込まれたようだ。


「お母さん、大丈夫?」


台所に入り声を掛けると、椅子に座ったまま、ぶつぶつとつぶやいていた。

ゆすったり、声をかけても反応がない。

そして、自分の脱力感も、カフェで感じた時よりもひどくなっていた。


「とりあえず、天之原君の部屋に行こう。さっきより顔色悪くなってる。お母様の事も私見とくから、とりあえず休んで」


確かに、意識を保つのもしんどくなってきていた。

意識があるうちに部屋に行った方がいいだろう。


「わかった。ごめんね、めんどうかけて」


「ううん。いいの」


そう言い、俺の部屋まで一緒に向かい、布団に向かおうとしていた。

そのとき、限界が来た。

操り人形のひもが切れたかのように、その場に倒れる。

もうちょっとで布団にたどり着けたのに・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る