第23話 ゲンさんの真実

意識が覚醒してくる。


「ここは・・・」


もう何度目だろうか、この天井。

ゲンさんの家のベッドで目が覚めた。


「あれ?なんでここに」


堀内の影にやられて、そこで意識がなくなったはずなのに。

とりあえず、部屋を出る。

するとゲンさんがいた。


「おぉ、気付きよったか」


「ゲンさん、俺ここに戻ってきた記憶がなくて」


「あぁ、お前さんと同じぐらいの歳の青年が、ボロボロの明を運んできてくれてのう。相変わらず回復が早いのう。」


俺の体を見てほっとしたようだった。


「俺と同じ年の青年」


ふと、堀内の顔が思い浮かんだ。

あいつが俺を運んできたのか、考えられない。


【天之原君を運んでくれたの、堀内君で間違いないよ】


やっぱり堀内だったみたいだ。


「って、立花さん!?」


【えっ?私の声聞こえてるの?】


どうやら本当に立花さんのようだ。


【私、また天之原君の夢見てたみたいで、やっぱり私も霊界ってところに来ちゃってるみたいだね】


「どうやらそうみたいだね」


といっても、立花さんの声が聞こえるだけだ。

どうなってるんだろ?

考えているとゲンさんが


「急にどうしたんじゃ?」


「あ・・・いえ。何でもないです」


(あぶね・・・俺以外に立花さんの声が聞こえていないみたいだ。気を付けないと)


立花さんも察してくれたのか、声が止まった。


(そういえば)


「こんなこと聞いていいかわからないんですけど」


「ん?どうした?」


深呼吸する。


「ゲンさんみたいないい人が、どうしてこの世界に来たんですか?」


ゲンさんの顔が真剣な顔になった。


「ゲンさんが抱える心の闇って、何だったんですか?」


急に聞いて、失礼だったかもしれない。

いや、ゲンさんにとっていい気はしないだろう。

心の闇を他人に打ち明けるのは、かなり避けたいものだ。

しかし俺はどうも気になってしょうがない。

ゲンさんと話していて、心に闇を抱えているように見えないからだ。

ゲンさんは、農家をやってるみたいだし、もう影を倒して次の人生を待っている段階なのだろう。

しかし、ゲンさんの答えは全然違ったものだった。


「儂はな、明」


「はい」


「生前の記憶がほぼないんじゃよ」


「・・・えっ?」


「だからの、自分の影を倒したくても心の闇が分からんので倒せないんじゃよ」


「そんなことって・・・。」


「時間の経過で思い出すのを待つしかない状態じゃ。まぁ、ここに来た当初より記憶は思い出してきておる」


「どんな記憶なんですか?」


踏み込んで聞きすぎたか?

しかしゲンさんは答えてくれた。


「ここに来た当初は自分の名前が玄三であることしか思い出せなんだ」


自分の名前だけしか覚えてなかったってことか。

知り合いが誰もいないこの霊界で、それは大変であっただろう。


「そして今まで思い出したことは、儂にはかわいい孫がおって、孫は電車が好きでの。電車を見に行きたいとせがまれ、2人で見に行ったんじゃ。しかしその道中、儂と孫2人、車に轢かれたのじゃよ」


「そんなことが、あったんですね。すいません悲しいことを思い出させてしまって」


「いや、いいんじゃよ」


そうはいったものの、ゲンさんは悲しそうな顔をしている。


「ゲンさんのフルネームや、いつの日にその事故が起こったのかなど分かれば、現世に戻ったとき調べようがあるんですけどね」


「いや・・・いいんじゃ。時間の経過とともに思い出すと思うので、気にせんでくれ」


この世界で記憶がないのは悲しすぎる

何か力になりたいけど、情報がもう少し欲しいところだ。

だがゲンさんのつらそうな顔を見るとこれ以上は聞けない。

また日を改めた方がよいだろう。

あと1点聞いておかなければいけないことがあった。


「あの、ゲンさん」


「ん?」


「俺今日、影に襲われて、もうダメってときに、別の影に助けてもらったんですけど、人助けする影もいるんですか?」


「影は、その者の心の闇を浄化する試練みたいなもんじゃ。影がその者じゃない他人を助けたりすることはないぞ。」


それなら、堀内の影が俺を襲ったこと、影に助けてもらったことが分からない。俺の存在が霊界ではイレギュラーっていうのが関係しているのだろうか。


「しかし、その闇もその者の心から生まれたものじゃから、その者の記憶があるのかもしれんな」


なるほど、だからか。

にっこり笑って答える。


「ありがとうございます」


あなたは、影も優しいんですね。

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