第20話 考えても分からないものは分らない

今日も学校が終わった。

1日中、堀内の事を考えていた。


中学を卒業して、高校1年生の2学期までの間に何があったんだろうと。

考えたところで何も分かりはしなかったが、一つ自分の事で気になることがあった。

それは心の変化だ。

最近まで、堀内の事を考えていたら、いじめられていた中学時代を思い出し、心が当時と同様に傷んだ。

思い出すだけでだ。

しかし今は、当時の事を思い出しても、その時ほど心は痛まなかった。

時間の経過がそうさせたのか、ここ最近頻繁に思いだすことがあったから、一時的に慣れているだけか。

出来ることなら、忘れてこれからの人生を生きていきたいとは思うが、それは不可能だろう。


帰るか・・・。

その時、ふと思い出した。

今日買い物して帰ろうと思ってたんだった。

朝、何を買うかスマホのメモに書いていたので、それを見ようとスマホを取り出す。

するとラインの通知アイコンが画面に出ていた。

相手はどうやら立花さんのようだ。

内容は、今日の放課後会えないかという事だった。


「しまった、昼に来てたラインだ」


今日は学校にいる間、ずっと昨日の出来事を考えていたので、ついスマホを見ることを忘れていたのだ。

連日で会おうなんて、一体どうしたのだろうか。

気になりながら、昨日のカフェで待ってることをラインで伝えた。

まぁ、気付いたのが放課後だったので、すぐ頭に出てくる待ち合わせ場所が、そこしかなかった。

もっと早くに気付いていたら、他の場所に出来たかもしれないが。

するとすぐに既読がつき、了解の返事が来た。


どうやら立花さんは、こちらより授業が1コマ多いらしい。

1時間ほど待つことになるだろう

俺は目的のカフェに着き、席に着いた。

1時間ほど、少し考え事をしながら時間をつぶすことにした。


そもそもの根源、俺ってなんで死んだわけでもないのに霊界に行けるようになったんだろう。

初めて霊界で目覚めた前日の夢、暗闇の中を落ちる夢もリアルだった。

もしかして、あれも夢じゃなくて霊界だったのかもしれない。

でも、今のところ全て現世と霊界を行き来すると、絶対、前回の続きの場所から始まるのだ。

ゲンさんの家のベッドで寝て現世に戻り、また霊界に行くとゲンさんの家のベッドで目覚めるのだ。

その考えだと谷に落ちた先が森でないとおかしいが、あの暗闇の谷の底に森があるとは思えない。


「やっぱり、最初のは夢だったのかな・・・」


どうしても最初の夢と霊界がつながらないので、あれはリアルな夢であった。

そう紐付けることにしておく。

考え事をしているとあっという間に時間は経つものである。


「おまたせ、天之原君」


「あっ、早かったね立花さん」


「そう?それならよかった」


どうやら、いつの間にか1時間近く考え事をしていたらしい。


(我ながらすごい集中力だな)


「こっちこそごめんね。お昼送ってくれたライン、放課後まで気付かなくて」


「ううん。大丈夫だよ」


「えっと。どうしたの。直接会って話したいことって?」


ラインで内容を聞いたら、どうしても直接話したいらしい。


(俺、何かしたかな・・・)


自然と手に汗を握る。


「えっとね、今から変な話するけど、聞いてほしいことがあるの・・・」


俺はうなずいた。


「実はね、数日前からいつもと違う夢を見るようになったの」


「えっ?」


最近の自分と同じ悩みである事にドキッとする。


「最初は夢だからって気にしてなかったんだけど、その夢を見てから毎日同じような夢を見るの」


「へ・・・へぇ~。どんな夢を見るの?」


気が動転していた。

俺と同じだ。

まさか立花さんも霊界に行けるようになったのか。

もしそうならゴブリンなどのモンスターに襲われていなければいいが・・・。


「えっとね、・・・・・~~の夢なの」


立花さんは恥ずかしそうに言った。


「えっ?ごめん、聞き取れなかった」


「天之原君の夢なの!」


恥ずかしそうに頬を染めながら、立花さんはそう言ったのだ。


「・・・・えっ!?」


俺は顔を赤らめる。

予想と全然違った。


「その夢を見るようになったのは、天之原君に助けてもらった日からなんだけど」


あぁ、あの日か。最近過ぎて、明確に思い出せる。


「最初は、あんな事があった後だから、その影響で見てるのかなって思ったんだけど、連続で見たらさすがに何かあるのかなって」


そこで俺は少し、踏み込んで聞いてみる。


「それって、俺のどんな夢見てるの?」


立花さんは深刻そうな顔で答える。


「なんか天之原君が、死んだら魂が集まる世界で、木の実集めたり釣りしたり、あとモンスターと戦う夢を見るの」


時が止まる。


「・・・えっ!?」


その話は聞き覚えがあった。というか、俺の霊界での出来事だ。

なんで彼女が、そんな夢を見るんだ。

わからない。

気が動転して、意識が遠のきそうになる。


「夢の始まりは、ゲンさんって言うおじいさんの家で目覚めて、その世界について話を聞くところからなの。」


(川に流されて、ゲンさんに助けられたところからか)


どうやら、森をさまよったり、ゴブリンにボコボコにされたところは見られていなかったようだ。


「最初は私もただの夢だと思ってた。だって、天之原君は生きてるから話が矛盾してるんだもん」


確かに、それは俺もずっと疑問に思っている。


「でも、」


ここで彼女は冷静を保つためか深呼吸する。


「堀内君が現れてその考えは薄れて行ったの。だって彼、夏休みに交通事故にあって、亡くなっているの!」


「・・・えっ?」


全身に力が入らない。気が動転する。


堀内に関しては万が一、自分と同じ状況かもと考えるようになっていた。

しかし、交通事故で亡くなっているとは・・・。

でも心のどこかで、亡くなったのかもという気持ちも少なからずあった。

だって、霊界にいたのだから。


「正直に答えてほしいの天之原君。私の見た夢って事実?」


普通に俺の出てくる夢を見たのなら、こんなに真剣に聞かないだろう。

おそらく彼女も、あのリアルさを体験して、俺に聞くに至ったのだろう。

俺も最初、ただの夢だと思いたかった。

しかしやはりあのリアルさがそうはさせてくれない。


「僕もあの世界の事はよくわかってないけど事実だよ」


俺に、それはただの夢だよ!と言ってほしかったのかもしれない。


「なんなの、あの夢。いえ・・・あの世界」


「ゲンさんに聞いた以上の事は分らない。あの世界にいる人も、それ以上の事は分らないのかもしれない」


「自分の心の闇を浄化する世界」


立花さんはつぶやく。

まさにそのために存在している世界だ。

それ以上でも以下でもないだろう。


「死後の世界だし、俺たち人間の考えが及ばないのかもしれないね」


それで納得するしかないだろう。

そのあと2人で、考え込むが結局何も分からない。

そして、とりあえず今日はこれで解散した。

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