第12話 夢の世界について聞いてみます

「すまんかったの・・・あれだけの怪我をして川を流れとったんじゃ。軽率じゃった」


2人は大部屋のテーブルに向かい合い、椅子に座り話す。


「いえ、今何が起こってるのかわからなくて気が動転していて・・・」


「もしや、この世界のことを知らないのか?」


「えぇ、まぁ」


やっぱり、という顔をされた。


「この世界に来たら、案内人から詳しく話を聞くことになっとる。お主は聞かずに行ってしまったんじゃな」


なんだと・・・。

俺は森の中で目覚めたぞ!

普通は森を遭難しないのか・・・。


「ここは、現世と死の間に位置する世界じゃ」


おじいさんは変なことを言い出した。


「じゃあ、俺死んだってことですか?」


「信じられんかもしれんが、そうじゃ」


(いやいや、俺は生きてるけどね。まぁ話は最後まで聞いてみよう)


「普通の人は死ぬとそのまま次の人生に向かう。しかし、心に闇を抱えてる人は、ここに魂が来るようになっとる」


「心の闇?それって誰もが抱えているものじゃないんですか?」


「そうじゃな。しかし、少しの闇であれば、次の人生に向かう際に浄化されるみたいなのじゃが、あまりにも魂が穢されているとそういうわけにはいかん」


「なるほど。洗っても取れないこびりついた汚れがあったら、この世界に来るという事か」


表現は微妙だが、そういう事だろう。


「まぁ、普通の人生を送ったら大丈夫なんじゃろうけどな」


「じゃあ、ここに来たら心の闇が浄化できるんですか?」


「いや、来ただけじゃ浄化できん。この世界に魂が来たとき、その魂から闇が離れ、別の場所に解き放たれる」


「じゃあ今の俺たちは闇のない状態じゃないんですか?」


闇が魂にない状態になったのなら、心は穢れていないという事なので成仏してもよさそうだが・・・。

どうなのだろう。


「見た目はな。じゃが儂たちはその闇を覚えておる」


「たしかに、覚えていますね」


「そう、闇は抜けても、その闇とはつながっておるということじゃ」


闇が抜けたからといって、心の問題は解決できないという事か。


「じゃあ、その闇を探して浄化すればいいんですね!」


「そうなんじゃが、そう簡単にはいかん。闇は、その人の姿をしており、影に覆われておる」


「影?」


「そうじゃ。その自分の影が消えると心の闇が浄化されたことになる」


「どうやったら影を浄化できるんですか?」


「そうじゃな・・・霊力により浄化し、消滅させることじゃな」


「霊力?」


「この世界では、心の強さによって霊力という力が使える。それを武器などに宿して戦うのじゃ」


「えっ!すごいですね。でももし、戦いで霊力が尽きたら体が消えたりしないんですか?」


夢の中だからかすんなり受け入れることができる。


「いや、消えはせん。ただ消耗感があったり意識は失うかもしれんがの。まぁ休めは回復するもんじゃ」


「なるほど、どうやって使うんですか」


「う~む、まぁ感覚じゃ」


(なるほど・・・わからん)


まぁとりあえず、自分の影を、霊力で倒したら成仏できるってことかな。


「じゃあ、俺の影もこの世界のどこかにいるのかな?」


「あぁ、絶対におる」


ここで、自分のことを話しておいた方がいいだろう。


「実は俺、現世で死んだわけじゃないんですよね。寝たらこの世界にいたというか、リアルな夢を見ている感じなんですよ」


「なんじゃと!そんなことあるはずなかろう!」




***********************************************

ここ数日間の出来事を話した。


「にわかに信じられんな。最初に言った通り、ここは現世と死の間にある世界じゃ。現世で死なない限りこの世界には来ることはできん」


「でも現に俺、現世に戻れるんですけどね」


「う~む。お主、最近生死をさまよったことはないか?」


「いや、ないと思いますね」


「う~む。それしか考えられんのじゃが、また落ち着いてからでよい。ここ最近のことを思い出してみるんじゃな」


「わかりました。そうします」


あ・・・そういえば。


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


「なんじゃ?」


「この世界に来てゴブリンと戦闘になって1体倒したんですけど、倒すことで強くなるんですか?」


「うむ。戦闘の経験がつくという事だけかの。儂らは零体じゃから、モンスターを倒したり、筋トレをしたところで力はつかん」


「そうなんですね。経験か・・・。」


「経験は大事じゃよ。むしろ経験を積まんと自分の闇にすぐやられてしまうからの」


「わかりました。あと、ゴブリンとかどういった存在なんですかね?」


「現世でいう野生動物と思ってもらって構わん。この世界では、現世に存在しないそれらを狩って、生計を立てておる。ギルドを介して討伐すると、報酬が出たりするぞ」


なるほど、そこはゲームの世界と一緒か。


「あと、この世界での強さは心の強さじゃ。心が強くなれば、霊力も高まる。心がどうやったら強くなるのかは人それぞれじゃ」


「心か・・・。わかりました。いろいろとありがとうございます」


「かまわんよ。まずはこの町のギルドに行くことじゃな。まぁ、この家は儂1人しか住んどらんし、好きなだけいてもらっても構わんよ。ずっと1人で寂しかったところじゃ」


「いいんですか。ありがとうございます」


いきなりだが、目的と住処が見つかった。


おそらく俺が夢でこの世界に来れるのは、影がこの世界にいるからだろう。


「この状態をどうにかする為には、自分の影を倒すしかないか」


この世界で初めての明確な目的ができたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る