第10話 男女2人で歩いていたらデートに見えるよね

帰り道、立花さんと一緒に帰る。

緊張する。


「あのね、天之原くん」


「えっ?」


このまま無言で別れるんだろうと思ったら、立花さんが話しかけてきてくれた。


「私ずっと後悔してきたの。中学生の時、天之原君のいじめを止めれなかったことを」


その瞬間、いじめられていたこと。そしてそれを周りに見られていて、その中にはもちろんクラスメイトである立花さんもいたことを思い出す。

忘れようとしていたことがフラッシュバックしてくる。

心が暗くなってきて、痛くなってきた。

しかしそれを悟られないように懸命に返事する。


「いいよ。あの時はもうどうしようもない状況だったと思うし」


「先生に言おうとしたんだけど、それで解決できるとも思わなくて。ずっとどうしていいのか悩んでたの・・・」


立花さんの目から涙が流れ落ちる。

先生に言われていたら、やはり親に連絡がいっただろう。

そう考えると、言わないでくれてありがとうだ。


「立花さんがあの時、そう思ってくれていただけで、うれしいよ」


「・・・」


「だからさ、そんなに自分を責めずに泣かないでよ」


「うん。私あの時の事、今でも夢に出てきて・・・なんで止められなかったんだろうって。どうして声をかけて、助けになれなかったんだろうって。ううっ・・・」


「俺の方こそごめん。まさかあの時、立花さんがこんなに悩んでるなんて思わなくて」


それが分かったとしても、解決するのは難しいけどね。


「でもさ、今の俺はこんなに元気だし、これからは今の俺をみてよ」


今の俺も全然ダメダメだが、立花さんに俺のことで心を痛めてほしくないから。

安心させるために、優しい顔でにっこり笑いながら立花さんに話しかける。


「あの時と違って、今は毎日が楽しいから」


それは本当だ。

あの時は毎日いじめられていたが、今はいじめられていない。

心にも余裕が戻り始めているのだ。

いじめられてるときとは違う世界が見え始めたのだから。

それからしばらく立花さんは俺の横で泣き続けた。

それでついに別れの時がやって来た。


「俺の家こっちなんだ・・・」


「私こっち・・・」


お互い、帰り道を指さした。


「じゃあ、今日は会えてよかったよ。バイバイ」


俺は手を振って別れを告げ自宅に向かおうとする。

すると


「ねえ!天之原君!!」


彼女はさっき話してた声より、少し上ずった声で話しかけてきた。


「えっ?」


俺は彼女の方に振り向く


「ラインやってない?やってたらID交換しよ!」


俺はびっくりした。

まさか立花さんから連絡先の交換をお願いされるなんて。


「・・・」


俺はうれしい気持ちとびっくりした気持ちで固まってしまった。


「あっ・・・ごめん、急に迷惑だったかな?」


ここでハッと我に返る。


「ごめん、全然いいよ。ちょっとびっくりしちゃって」


緊張して体が震える。

初めて家族以外の名前がラインに増える。

しかもそれが初恋の女の子だ。

これ以上嬉しいことはない。

うれしすぎて顔に出そうになるが頑張って抑える。


「ありがとう、天之原君!」


「こっちこそありがとう!」


お互い頬が赤くなる。


「じゃあね、おやすみ」


立花さんはそう言い、ニコニコと手を振ってくる。


「うん、おやすみ!」


俺はそれに答え、恥ずかしそうに手を振る。

人と話して、こんな感情は初めてだ。

今夜は、さぞドキドキして寝れないことだろう。

しかし、よっぽど疲れていたのか、布団に入った記憶がないほどにすぐ寝たようだ。

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