第8話 行動は計画的に!

(暑い!)


体が汗で湿っている。

目を閉じているのに明かりを感じる。

目を開けてみると、見知った天井だった。


「あれ?・・・朝か。」


だんだんと意識がはっきりしていく。

それと同時に、目が覚める前にゴブリンの集団にリンチされていたことを思い出す。

その時の痛みを思い出し体が震え出した。

本当に体が痛いとも思えてくるが、体のどこを見てもやはりケガなどしていない。

夢は夢なのだ、分かっていても確認する。


それはリアルすぎたからだ。

なので、寝た気が全然しない。むしろ寝る前より疲れてるといってもいいほどに。

それもそうだろう。

夢とはいえ、リアル感が半端ない状態で、1日ほど遭難していたのだから。


そして今から学校だ。昨日みたいに半日で帰れない、普通に1日授業だ。

俺は嫌々ながらも登校したが、やることは毎日同じ。

空気になることだ。

話しかけられたら当たり障りなく返事をして、周りの空気を乱さないように心がけていたら学校が終わった。

決して楽しくない学校生活。

しかし、毎日いじめられるよりか遥かにましだろう。


帰り道、寄り道せずに、まっすぐ自宅に向かっていた。

友達がいたら、寄り道とかするのもいいかもしれないが、1人だとそれほどしようとは思わないからだ。

それに寄り道をしても、楽しめる喜びよりも、苦痛の方がでかいからだ。


「でも、もし、友達がいたら気兼ねなく遊びに行ったりできるのかな・・・」


それはあり得ないことだ。

もう今の自分はそんな未来がないと確信して日々送っているのである。

しかし普段こんなこと考えないのに、なんで急に考えるようになったのだろう。

不思議である。


「きゃあああああ」


そんな時だった、悲鳴が聞こえる。

コンビニの入口付近だ。

女の子1人を取り囲むように3人の不良が囲んでいる。

女子高生だろうか、絡んでる男3人も見慣れない制服だがおそらく全員高校生だろう。


「やめてください!」


女子高生の手を握ろうとしたのか、その手を女子高生は払う。


「は?何言ってんの?俺たち声かけただけなんだけど!」


これは明らかにやばそうだ。

俺は慌てて行動に移した。

普段であれば、怖くて何もできないであろう。

きっと誰かが助けてくれると言い聞かせて。

しかし、あいにく周りには誰もいなかったのである。


「あんたかわいいからさ、俺と付き合わね?って声かけただけじゃん」


「公ちゃんの誘い断るわけないよね?」


「てか、この前の彼女どうしたのよ?」


「あ? あんなやつもうとっくに捨てたよ!」


「モテる男は違うね~」


3人でそんな会話をしていた。


「私この後、塾があるのでやめてください!」


「塾行くよりももっとためになること教えてやるからよぉ~!」


再び手を握ろうとしたがそれも再び女子高生は振りはらった。


「やめてくださいと言ったはずです!」


それで公ちゃんと呼ばれていた人はキレた。


「あ?何やっちゃってんのお前!俺の言うこと聞けないの?」


そして、女子高生の髪をつかみ引き寄せる。


「きゃあああ、痛い!!」


「あっはっはっ!俺に逆らうからだよ!お前は俺の言うことに従がっとけばいいんだよ!!」


「あ~あ~、公ちゃん怒らせちゃった」


「こうなっちゃったら、もう俺らにも手が付けられないんよね~」


「こっちにこいよぉ~。ちゃんと調教してやるよ!騒いだら分かってるだろうなぁ~!!」


「いや~~~!」


彼女は髪を引っ張られる感じで、コンビニの横にある普段使われていないであろうボロボロな小さな立体駐車場に引っ張っていこうとしていた。

そこに一人の男の声が聞こえる。


「ちょっといいですか?」


そう、俺の声だ。


「えっ!?」


「「「あん!?」」」


女子高生は俺の顔を見るなりびっくりした顔をし、不良たちの声は見事にハモった。

今の俺にできることを全力でやらないと、あとから後悔するという感情が湧いてきそうだったので行動した。

後から思い出しても思う、いつもの自分だと絶対しないことをしたと。


さぁ、もう後に引けない。

目の前に不良3人、その先に女子高生がいる形となった。

とりあえず話しかけるしかない、なんせ俺は筋トレもしてないから力もなければ、喧嘩なんてしたことないからだ。


「いや・・・、ちょっと彼女の悲鳴が聞こえたので嫌がってるんじゃないかな?って思いまして・・・ですね」


怖い、どうしても口ごもってしまう。


「あ?嫌がってねえよ、喜んでんだよ!」


「そうだぞお前!なんせ公ちゃんに話しかけられたんだからよ。興奮してるんだよ!」


「てかなんだよお前?なんか文句あんのか?お!?」


そう言って不良3人がこっちに体を向けた。

そして俺はすかさず女子高生の方を見て、首を振って今のうちにダッシュで逃げてとコンタクトを送ろうとした。

その時、


「えっ?天之原くん?」


・・・!?

その時初めて女子高生の顔をしっかりと見た。


「・・・立花さん?」


なんと不良に絡まれていた女子高生は、中学生の時に片思いしていた立花さんだったのだ。


「あ?お前ら知り合いなわけ?」


「お前みたいな陰キャがか?マジウケるわ」


「ならお前ボコって、お前の目の前でこの女で遊んでやるよ!ぎゃはっはっ!!」


どうやったらそんなことをする人間に育つのだろうか、不思議でならない。

それよりも立花さんが心配そうにこっちを見てるだけで全然逃げてくれない。

今なら不良はこっちに集中してるから逃げれるのに。

逃げてくれたらこちらも人がいるコンビニに逃げれるのに。

まぁ、人には迷惑をかけてしまうかもしれないが、しょうがないよね。

もう1回彼女に逃げるようにコンタクトを送るが、心配そうにこっちを見てるだけで動こうとしない。


(くそ!ここで俺だけ逃げちゃったら彼女にまた攻撃が戻っちゃうな・・・。どうしよ)


そんなことを考えていたら、不良の1人が寄ってきた。


「公ちゃんの恋の邪魔するとか、俺が軽くお仕置きしてやるよ!」


(やばい、殴りかかってくるパターンだ!)


周りには相変わらず車とバイクは通るが人がいない。

1人でも通りかかってくれたら助けてくれるかもしれないのだが。

そんなことを考えながら1歩後ずさる。1秒でも時間を延ばしたい。


(早くだれか通りかかってくれよ!)


そう思っていると。


「こいつビビってやがる、足も震えてるしよ!」


そこで足が震え、現実感が離れて行ってる感覚に陥ってることに気付く。


(立花さんに、かっこ悪いところ見られちゃったな。逃げてさえくれればいいんだが・・・)


そう思うがもう無理だろう。彼女の視線をずっと感じる。

ずっと見られているのだ。


「刺激してしまったのならすいません。謝りまっぐふっ!」


言葉を最後まで発せられなかった。そして、腹部に痛みが広がり呼吸ができない。


「グフっだってよ!ガ〇ダムかよ!!」


「ちょーウケんだけど!」


不良3人は楽しそうに笑う。

どうやらお腹を殴られたみたいだ。

しかしなぜだろう。最近夢でもっと痛い体験をしているからか、心には余裕がある。


「何するんですか、痛いじゃないですか!」


いじめられていた時は、そんなこと一切言わなかった。

ずっと耐えていた。

しかし、今はなぜか言い返していた。


「俺らの邪魔したからだよ!てか公ちゃん、こいつ雑魚いですよ!」


「時間もかけてられねえし、3人でやっちまうぞ」


そう、公ちゃんという人が言ったら3人で俺を殴り始めた。

しかし舐めてもらっちゃ困る、現実でも夢でも、殴られまくってる人生だ。

殴られるという行為にはマヒして慣れていた。

そして見ず知らずの人に殴られるのであれば、なおさらだ。

心はそんなに痛まない。


「はっはっはっ!こいつマジでいいサンドバッグじゃねえか!」


「おら!どうや俺のパンチ力!」


「喰らえ!俺様のフック!フック!から~のアッパー!ぎゃははは!」


・・・嘘ですやっぱ痛いものは痛いです。

顔への攻撃だけは手で防いだり、避けたりする。

これは顔にあざがあったらいじめられてるのでは?という親バレ防止で身に着いた技だ。

ダウンしたら負けだ、おそらくターゲットは立花さんに行くだろう。

ここは気合で耐えるしかない!

しかし、呼吸ができない、頭がくらくらする。

耐えてやる!今まで通り耐え抜いてやる!

強い意志で立ち続ける。


するとう~う~う~とパトカーの音が聞こえてくる。

その音は確実に大きくなってきた。


「公ちゃん!警察が来たぞ!逃げなくちゃ!」


「なっ!通行人が通報しやがったか!逃げるぞ!」


「お前今日から俺たちのサンドバッグだからな!顔は覚えたし逃げれねーぞ!」


そんなことを叫びながら走り去っていく、もちろん警察は追いかける。

それを確認して俺は地面に座り込んだ。

解放された安心感と、痛くて立ってられないからだ。

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