第7話 初めての異文化コミュニケーション
(まぶしいな・・・)
重い瞳を開ける。
光が視界に入り込んでくる。
どうやら夜は明けたようだ。
「生きてる・・・?」
あの感じだと結構流されただろうし、体も結構な強さで強打したにもかかわらず、何処も痛くない。
むしろカスリ傷一つない。
「やっぱり夢だからだよな・・・」
夢でよかったと感謝する。
いや・・・
「この夢なんかやけに長くないか?」
夢の中で何日間も過ごしてる気がする。
なんなら夢の中で寝たり意識も飛んだ。
それでも夢って続くものなのか?
「なんなんだ・・・この夢」
夢とは思えない、でも夢と思える現象が起きている。
「夢からどうやったら覚めるんだろ?」
そこで気付く、
やたらと独り言が多いな・・・
1人なんだから声に出さなくていいのに出していた。
思ってる以上に、自分しかいない環境に参ってるようだ。
周りを見てみることにしよう。
相変わらず木々が生い茂っている同じ風景だ。
ただ違うのは横に川が流れている、幅は5メートルぐらいか。
あの洪水に飲まれて、川沿いまで流されたみたいだ。
あんな洪水が起きたのに川の水はきれいだ。
俺は喉が渇いてることを思い出し、慌てて川に駆け寄った。
川の中を見ると、底まで透けて見える。深さはそんなにないようだ。
川の真ん中まで行っても腰まで浸からない程度だろう。
あの洪水のあと、すぐだとこんなにきれいなわけがないし、もっと増水しているはずだ。
そのことから、どうやら1日、いやもしかしてそれ以上気を失っていたのかもしれない。
両手で水をすくって飲んでみる。
川の水は、とてもきれいで冷たく、美味しかった。
もう我慢できない!
顔を川に突っ込んで直接水を飲み始める。
しばらく水分摂取せず歩き続けていたため、体内の水分が枯渇していたのだろう。
干からびた体が潤っていく。
息継ぎのため川から顔を出す。
息を整えもう一度川に顔を突っ込んだ。
こんなに水が美味しいと思ったことはない。カルキ臭さも何もない、本当の天然の水だ。
十分に水を味わったところで心も落ち着いていた。
のどの渇きが改善され、余裕ができたのだろう。
そして念願の川だ、この夢で初めて希望の光が見えた。
そこで考えなくてはいけないのは、川を上るか下るかだ。
川を上ると山になって、下ると海になっていくのだろう。
山か海、どちらに人が住んでいそうか考えた時、やっぱり海だろうか。
しかし考えれば考えるほど、どちらにも人里がありそうに思えてきた。
しかしここは、海を目指そう。海の近くだと川や海から食料が確保できるし、大陸間の移動はやっぱり船になってくるので、海の方が希望が持てた。
そうと決まれば川を下ろう!
そう思い川下の方に首を回し行先を確認しようとしたら見たことがない生物の顔がそこにあった。
「うおっ!」
びっくりして後ろにしりもちをついた。
その際両手を地面に着いたからだろう、両手がヒリヒリする、擦りむいたかもしれない!!
そいつは、しりもちをついた俺を見て「ギッシッシ!」とニヤケ笑う。
体格は小学生低学年程か、鼻と耳は出っ張っており、緑色の肌をしており、布でできた簡易的な服を着ている。
ニヤケた口の隙間から牙が見える。
アニメや漫画などでよく登場するゴブリンに似ている。
俺の反応が面白かったのか、1歩1歩と近づいてくる。
片手には鈍器を持っているのが見えた。
(まさか、こいつそれで襲ってこないよな・・・)
最悪な状況が頭をよぎり、体が震える。
何より、未知の存在に迫られている恐怖が思考を麻痺させてくる。
その時、鈍い音とともに横腹に今までにない痛みを感じた。
「ぐはっ!!」
俺の体は宙に浮き、近くの木に吹き飛ばされ、背中を強打する。
痛みで意識が持って行かれそうになる。
ゴブリンが楽しそうに鈍器で俺を殴り飛ばしたのだ。
目の前がチカチカする。
それと同時に体全体が痛く、呼吸ができない。
俺は地面でもがき苦しんでいた。
ゴブリンの笑い声が耳に響く、どうやらゴブリンにとって俺は面白いおもちゃみたいだ。
ようやく視界が戻ってきた。
周りを確認すると、ゴブリンが近付いてくるのが見える。
どうやら徹底的に俺をボコるみたいだ。
ゴブリンってこんなに強いのか?
俺の知ってる知識では、ゲームなどでの序盤に出てくる雑魚のはずだ。
この世界でもそうなら、こいつより強い存在がたくさんいるはずだ。
武器も何も持っていない俺では勝てるはずがない、逃げるしかない!!
「よし・・・逃げよう!!」
それと同時に、痛む体に鞭を撃ち、ゴブリンがいる反対側の川上に向かって猛ダッシュで逃げることにした。
予定とは違う方向だが、仕方がない。
「うわあああ~、なんだこれ、なんだこの状況!!」
急な出来事に訳が分からなくなり叫ぶ。
自分とは違う足音が迫ってきているので後ろを振り返ると、小柄なのに自分よりすごいスピードで追いかけてくる。
「俺が何したんだよ! たったすけてぇ~!!」
助けを求めるももちろん周りに人はいない、助けなんて来てくれない。
それが分かっていても助けを求め叫び続ける。
ふと、いじめられていた時のことが頭をよぎる。
助けを求めていたことはなかったが、俺がいじめられているのを見ている人たちは、誰も助けようとはしなかった。
助けたら、自分もいじめの標的にされると思ったからだろう。
それと同じで、もしこの光景を誰かが見ていても、俺を助けようとしたらゴブリンの標的が助ける側にも向けられることになる。
だからおのずと、助けてくれる人はゴブリンからの逃げ方を知っている人や、倒せる人になってくるのだろう。
そんな人物が都合よく俺を助けてくれるわけがないだろう。
そう思った瞬間いつもの癖であきらめるという気持ちが生まれてくる。
しかしそれの気持ちを思いとどませる。
なぜか、それは今回はいじめられていた時と違う。殺意を持ったゴブリンに襲われてるからだ。
「諦めるときは死ぬ時だ!」
その言葉を自分自身に言った。いつもとは違う。
ゴブリンとの距離はどんどん近づいている、そんなに時間の猶予はなさそうだ。
辺りを見渡すと、地面に野球ボール大の石がよく転がってるのが見えた。
それを見つけた瞬間、走りながらそれを手でつかみ取る。
そして振り向き、ゴブリンめがけて、力の限り投げつける。
すると、運よくゴブリンの顔面にヒットした。
ゴブリンはあまりの衝撃にひっくり返る。
そして起き上がるのには少し時間がかかりそうだ。
そこで、ゴブリンの手から離れた鈍器に目をやり、拾うために全力で走る。
ゴブリンも攻撃のショックから立ち直ったのか、立ち上がろうとしている。
しかし遅い、俺はもう鈍器を拾った。
やらなきゃやられる世界だ、しょうがないんだ!
そう心に言い聞かせ、鈍器をいっぱいに振りかぶって、ゴブリンの体めがけて振り回す。
するとゴブリンは吹き飛び、ピクリとも動かなくなった。
しかも、鈍器が当たったところが言葉に表現できないほどにえぐれている。
(これだと、もう生きてないな。)
そう思うと同時に、人間じゃないにしても命を殺めてしまったことに頭がくらくらする。
俺は生まれて初めて、生き物の命を奪ったのである。
しかし、全力で殴ったにしても、気絶させる程度と思ったが、結果殺してしまった。
(俺ってこんなに力あったかな?)
今まで、体を鍛えたことなんてなかった。
やはりここは夢だということか。
現実で、こんな力があるはずがないのだから・・・
とりあえず、窮地を脱した喜びが大きかった。
思わず
「っしゃ~!生き延びれたぞ!!」
大声で空に向かって叫んだ。
その瞬間、背中に痛みが走った。肺の空気がすべて出た。
「ぐはっ!」
地面に膝がつく。
痛みをこらえながら背後を見ると、なんとゴブリンが5体いた。
その瞬間、終わったと思った。
1体ならまだしも5体とか無理だ、そう思うやいなや、5体が同時に鈍器で殴りかかってきた。
俺は攻撃をこらえ、頭を抱え込みガードする。
先ほどのゴブリンの攻撃よりも痛くない気がするが、5体同時はやばい。
「死にたくない!死にたくない!!」
そう攻撃を耐えていたら、頭のガードが緩んだところに攻撃が当たり、それと同時に意識が途絶えた。
動かなくなったのを確認するとゴブリンたちは満足したのかその場を去っていく。
そして、再び雨が降り出し、意識のない俺の体を湿らせていくのだった。
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