⑨ヒラソル会女子修道院
「修道院……かぁ」
マルヴィンの姿が遠くに見えなくなったあたりで、ココハがぽつりとつぶやいた。
どことなく浮かない声音だった。
「あれ、ココちゃん、教会とかダメなんだっけ? 魔法使いさんだから?」
「いや、そんなこと……まあ、なくはないんですけど……」
魔導士と教会が反目しあっていたのは、いまは昔の話だ。
サラマンドラに王立の魔導学院が生まれ、魔導士の育成が国の方針になって以来、学院と教会は相互の理解に努め、お互いの理念と立場を尊重し合っていた。
とはいえ、である。
長年積み重ねられてきた偏見と抵抗感というものは、なかなか簡単には拭い去れないものだ。
面と向かって何か言われるわけではないが、教会にいくと、どこか刺々しい空気を魔道学士たちは感じていた。
サラマンドラ一の大教会、サンタ・エステル聖堂神父のいかめしい顔つきを思い出すと、つい気後れしてしまう。
魔導学院を卒業したいまも、苦手意識は残ったままだ。
そんなことをココハがイハナに説明すると、
「あーたしかにサンタ・エステルの神父さんたちはかたっくるしい人だもんねー。ま、ラスカラスの修道院はそんなことないんじゃない?」
「そうでしょうか……」
「うん。きっとそうだって。あたしの知ってるかぎり、マルヴィンは信心なんて無縁の男だけど、その彼があそこまで言うんだから、きっと平気だよ」
「そうですね」
「それにもし、修道院の人がココちゃんのことを魔法使いさんだからって悪く言うようなヤツだったら、あたしががツンと言い返してやるから安心して」
「あははは。はい、ありがとうございます」
万が一そんなことがあった時は、イハナはどんなふうに自分をかばってくれるのだろう、とココハ想像する。
烈火のごとく怒ってくれたりするのだろうか。
もちろん、嫌な思いをしないにこしたことはないのだが、そんなふうにイハナに護られる場面を想像すると、それも悪くないかも、なんて心の内でひっそり思うココハだった。
道は登り坂で、それもだんだんと急勾配(きゅうこうばい)になっていった。
広かった川幅も細くなってゆき、小川へと変わっていく。
町の外の山道とほとんど変わりがなくなってきた。もう民家はおろか畑ですら周りには見当たらない。
「これ、マルヴィンに修道院があるって教えられてなかったら、絶対途中で引き返してたわね~」
「ですね~」
とはいえ、このくらいの山道ならイハナはもちろん、ココハも慣れたものだ。
肩で息をつきながらも、足取りには淀みなく、和やかにイハナと談笑する余裕もあった。
「おっ、あれじゃない。修道院って」
「あっ、ほんとだ。たぶんそうですよ」
登り坂の先、草木に隠れてちらりと白い建物が見えた。
道も明らかに人工の石段になり、二人は揚々とそれを登りきった。
「おお~」
「この町らしいというか、修道院もかわいい感じですね」
近くで見ると、白く見えたのは石灰の塗料によるもので、建物自体は木造なのが分かった。
木の香りと石灰の入り混じった良い香りがほのかに漂ってくる。
“あったかな建物”―――それがヒラソル会女子修道院を間近で見たココハの第一印象だった。
サラマンドラのサンタ・エステル大聖堂は”荘厳”と呼ぶのがぴったりくる、巨大な建造物だ。
白亜の尖塔は天まで届かんばかりに高く、七色のステンドグラスがはめこまれたバラ窓はきらびやかで、大鐘の響きは重々しく、大理石でできた聖母像やファサードに彫られた聖人像は精緻を極める。
敷地全体の広さで言えば王立魔導学院の方が大きいけれど、学院内にもこれほどの巨大な施設はない。
信心なき者でも思わずひれ伏してしまうような、神の威光を地上に体現するにふさわしい建造物であった。
国内でももっとも偉大な建築物の一つといっていいだろう。
けれど、偉大さは同時に威圧感も内包する。
ココハたち魔導学院の生徒たちはなんとなく大聖堂に苦手意識を持ち、近くまで来ると足早に通り過ぎがちだった。
目の前の修道院は、それとは比べものにならないほど素朴な造りだ。
建物全体が丸みを帯びていて、屋根と壁が一体化して見える。
門構えはこぢんまりとしてそっけない。
その門の前に並んだ木彫りの聖像もずんぐりむっくりした姿で、男なのか女なのかもよく分からない。
けど、その顔立ちは柔和で、不思議な愛嬌がある。眺めていると、なんとなく気持ちがほっこりするようだ。
庭の花壇には、クローバーの花が小さく揺れていた。
サンタ・エステル大聖堂が天高くそびえ神の威光を頭上から降りそそがせるようなものなら、ラスカラスの修道院は地に根を下ろし、温かく両手を広げ迎え入れてくれる神様の優しさを体現するような、そんな建物だった。
その外観を見ただけでも、ココハはほっと胸をなでおろした。
少なくとも魔導士だからという理由で門前払いをくう心配はなさそう―――な気がする。
呼び鈴の類は見当たらなかった。
勝手に入るのもためらわれたので、外から呼びかけることにした。
イハナが声を出そうとしたまさにその時―――、
玄関の影から四つ足の影が飛び出した。
子どもの背丈くらいの、全身真っ白な毛をした犬だった。
毛並みの形が独特で、特に人間なら眉に当たる部分の体毛がもふもふと濃く、ほとんど目を覆い隠していた。なんだか、雪山に住んでいるおじいちゃんとでも形容したくなる姿だった。
来訪者に興奮しているのか、うれしげに尻尾をぱたぱた振っている。
「おっ、ピエル犬ね。賢い犬種だから、お供にする旅人も多いのよ~」
「修道院の番犬さんなのかな」
ピエルという犬種の白い犬は、ちょうど人が会話するくらいの距離にとどまって、ほとんど毛に埋もれた瞳でココハたちを見つめていた。
「やあやあ、白いの。修道院の方にお客さんが来たって教えてもらってよいかい?」
イハナがそう語りかけると、犬は「ばふ」とくしゃみをしたみたいな声で吠え返した。
しかし、なぜか建物を迂回して、その裏に行ってしまう。
「んー、伝わらなかったのかなぁ」
「でも、なんだかついて来いって言ってる気がしますよ」
「おお、魔法使いのココちゃんが言うならたしかだね~」
「だから、魔導士が動物が話ができるっていうのは、誤解ですから!」
二人は白い犬について、修道院の裏手にまわった。
すると、そこには思いがけず広大な景色が広がっていた。
それは畑や草木の入り混じった菜園だった。
見渡すばかり、という表現がぴたりとくる規模だ。
一瞬、自然の山野かと思う。けれど、魔導学院の実習で薬草園に触れてきたココハは、そこにあるのが食用に適した草木ばかりであることに気づいていた。
それになにより、天然の山野にはない、人の手が加わった清澄な明るさが感じられた。
「すっごいねぇ、こりゃ」
「これ、全部修道院の方が手入れしているのかなぁ」
規模だけでいえば、その魔導学院の薬草園よりも何倍も広い。
目の前に広がる菜園にいたるには、少し急な土手を降りる必要があった。
白い犬は躊躇なく滑り降り、林と見まごうような菜園の中を走っていってしまった。
「あっ、追いかけないと。見失っちゃうわ」
「は、はいっ」
イハナがココハの手を取り、先に足を踏みだして土手をかけおりていく。
「わっ、ととっ」
「ココちゃん、がんばって」
ココハは足を滑らせそうになりながらも、イハナに手を引かれ、なんとか尻もちをつかずにそこを降りた。
犬の走っていった方に向かうと、そこには一人の人影があった。
畑の上で腰をかがめている。なにかを収穫しているところだろうか。
と、思う間もなくピエル犬はその人影に向かって、元気よくダイブした。
「ぶふ」
不意打ちの一撃にこらえきれず、とびつかれた人は地面に転がった。
白い犬はその上に乗っかり、顔をなめる。尻尾はちぎれんばかりに左右にぱたぱた揺れていた。
「ロッテ。……キミはもう~。とっくに子犬じゃないんだから、その飛びつきぐせ、なおしてほしい……」
少し離れてみてたココはぽつりと、
「なんだかイハナさんみたいですね」
「えっ、あたしってココちゃんの中で犬と同列!?」
軽くショックを受けるイハナ。
けど、ココハは犬に乗っかられたその人物に気をとられてそれに気づいていなかった。
ロッテと呼んだその犬をどかして立ち上がったのは、若い―――というよりも幼い女の子だった。
ぱっと見たところ、十歳かそこいらだろう。
修道院で見かけるような服装ではなく、上下つなぎの野良着姿だった。
サンタ・エステル大聖堂の神父やシスターは老人ばかりだったから、なんとなく女子修道院と聞いた時、ココハの中には年配の女性ばかりがいるイメージがあった。
ところが、最初に目にしたのが自分よりも明らかに年下の女の子だったから、イメージとのギャップにとまどっていた。
それともう一つ。彼女が女の子に気を奪われていた理由があった。
―――きゃ~、か、カワイイ~ッ!!
と、心の中で絶叫してしまうくらい、女の子が美少女だったのだ。
ふっくらとあどけないたまご形の輪郭に大きな青い瞳。届くゆるやかなウェーブのかかったアッシュブロンドの髪を頭のサイドでツインテールに結わえていた。ちょっと低いけど整った目鼻立ちに、健康的に赤みがさした頬。
なにもかもが保護欲をくすぐる容姿で、手の届く範囲にいたら無条件で頭をなでなでしたくなりそうだった。
野暮ったげな野良着に背中にはかごをしょっていて、おまけにさっき地面に転がされたせいで全身土まみれだ。
そんな恰好をものともせず、ココハの目にはその女の子がまるで天使のように映った。
相手もココハたちの姿に気づいて、こくりと首をかしげる。
その仕草もまた、人形のようにかわいらしかった。
「だれ? 見かけない顔……」
「こんにちは。勝手にお邪魔してごめんね~。わたしの名前はイハナ。旅の隊商をしているの」
間髪を入れず、イハナがさらりと名乗ってあいさつした。
たとえ警戒心を抱く相手でも一瞬で毒気を抜かれてしまうような、完璧な間の取りかたと声音、それに笑顔だ
この辺はさすが隊商の長だ。
そんなイハナの対応を横で見て、ココハもいくぶん冷静になった。
サラマンドラの教会の中にも、孤児院を兼ねている施設もあった。
そう考えれば、小さな女の子が修道院にいても別に不思議ではないかもしれない。
「ふーん」
理解したのかしてないのか、女の子は表情を変えずにつぶやく。
そしてすうーっと息を吸い込み、ココハたちに背を向けて、
「お~い、いんちょ~、ふくいんちょ~、お客さ~ん」
山野に向かって叫んだ。
「わっ」
と、ココハが思わず驚いてしまうほどの大声だった。
いったいその小さな身体のどこからそんな声が出るのか、と不思議なほどだ。
「ほ~、なかなか良い声量ね~」
イハナが感心してつぶやく。
ほどなくして、
「はいは~い。いま行きます~。少し待っててください~」
「もう、リタ。そんな大声出さなくても聞こえるからっ」
わりかし近くで二つの返事があった。
「えっ?」
「おや」
声とともに姿を現した二つの小さな姿を見て、ココハはまたしても驚かされた。
そう、小さいのだ。
庭の奥からやってきたのは、最初に声をかけた女の子と同じくらいの背丈の、少女二人だった。
けれど、こちらの二人はまごうことなき修道服に身を包んでいる。
青と白を基調にした、清潔感の漂うゆったりとしたローブだ。
庭仕事のためか、すそはやや短く、かわいらしいくるぶしがすその端からのぞいていた。
その顔立ちは二人ともあどけなく、どう多く見積もっても十代前半を超えることはなさそうに見えた。
やってきた二人の手にも土ぼこりがたっぷりとついていて、そして背中には野良着姿の女の子同様かごをしょっていた。
二人の背が低いから、ココハにはその中身がちらりと見えた。
いずれも春から初夏にかけて採れる、山菜、野菜あるいは木の実やきのこだった。いずれも身体に良いとされるものばかりだ。
魔法薬の原料になるものも少なくなかった。
「はじめまして。当修道院にようこそ。お参りくださり、ありがとうございます。修道院長を務めさせていただいております、マカレナと申します」
女の子の一人が、ココハたちの前に進み出て、とても丁寧に、そして笑顔たっぷりにあいさつした。
彼女の口から出た”修道院長”の言葉も頭に入らなくなるくらい、ココハはその容姿に釘付けになった。
フードの下からちらりと見えるうるし色の髪と黒い瞳。
全体的にしっかりとした雰囲気が漂っていて、オトナ顔負けの気品を感じる。
そして、目を細めて微笑むその姿を見ていると自然と心が安らいでいく。
修道服がまるで何十年も着こなしているようにサマになって見える。
野良着の女の子が年相応のあどけなさが全面に漂うかわいらしい女の子なら、マカレナは容姿に見合わない大人っぽさのギャップが印象的な少女だった。
―――将来、すごい美人さんになりそうな子だなぁ。
そんな考えがココハの頭をよぎり、自分の感想のオヤジ臭さに自分でちょっぴり傷ついた。
「副院長のレナタです。よろしくお願いしますッ」
次いでもう一人の修道服の子もあいさつする。
こっちは、はつらつとして、元気いっぱいの声だった。
マカレナと違って修道服は着ていても頭にフードは被ってなくて、短い赤毛がツンツンと伸びていた。
三人の中ではちょっと背が高く、ココハの肩くらいだ。
少し釣り目気味な黒い瞳が明るく輝いている。
はつらつとして、それでいてどこかボーイッシュで、美少年めいた雰囲気のある少女だった
「しゅ~ど~じょみならいのリタです。よろしく」
最後に野良着姿の女の子が、マイペースなテンポでぺこりと頭を下げた。
タイプは違えど三人ともとびきりの美少女、そして幼い女の子たちだった。
彼女たちの名乗った「修道院長」などなどの肩書に脳の認識処理が追い付かず、ココハは軽い混乱に陥った。
―――ど、どういうこと、これ!?
けど、そんなココハをよそに、
「ご丁寧なご挨拶いたみいります。サラマンドラを拠点にこの国で隊商をやらせてもらっています、イハナと申します。本日は商用ではなく、ほんの見学で寄らせてもらいました。どうかよろしくお願いします。かわいい修道女さんたち」
イハナはそんな驚きをつゆとも見せず、余裕たっぷりににこやかに返礼した
余裕たっぷりに、にこやかに返礼する。
国中をめぐってあらゆる立場の人間相手に商いを営んでいる隊商の長なのだから、これくらい驚くに値することではないのかもしれない。
「あっ、知っています」
修道院長だというマカレナがぱんと胸の前で手を合わせ、笑顔で返した。
「旅人の方から教えてもらいました。サラマンドラに女性でスゴウデの隊商さんがいらっしゃるって。本当にお若くていらっしゃるんですね」
「いやいや、院長。ウチらに『若い』なんて言われてもリアクションに困るだろ」
横から副院長のレナタがつっこむ。
「あはははは。それもそうですね。わたし達はごらんの通りのじゃくはいものですので、どうか気を楽にされてください。町のみなさんもそうされています」
邪気なく笑い、マカレナはそう返した。
その立ち居振る舞いはごく自然で、子どもが背伸びしているようには見えない。
「そ~そ~。いつまでもウチらのこと子ども扱いなんだよなぁ、みんな」
レナタは少し不満そうに唇をとがらせる。
修道女見習いだというリタも同調して首をたてに振った。
「うんうん。まったく困ったもの」
「いやリタ。おまえこの前ご参拝者にお菓子ねだってたよな。そんなんだから子ども扱いされるんだって」
「あ~、でもレナタも食べたから同罪」
「リタ一人で食べきれる量じゃないから手伝ってやったんでしょ」
「そうやって言い訳するとこが子どもっぽい」
「その言葉、そっくりそのまま返すから、リタ」
「こらこら、レナタ、リタ。けんかはだめ。お客さんの前ですよ。わたしを見習ってオトナらしくふるまいましょう」
にこやかに仲裁に入るマカレナに、リタとレナタの二人はそっくりの表情でじと~と目を向けて、
「うさぎさんのぬいぐるみをだっこしないと、夜ねれないくせに」
「人形劇に出てきた幽霊のお話がこわくて、半泣きになってたくせに」
「……ッ!」
マカレナの笑顔が一瞬こわばった。
「お、大人だって寝るのにぬいぐるみを必要とされている方も、お化けが苦手な方もいらっしゃいます! ……たぶん」
じゃっかんうわずった声で、そう反論する。
すわ、喧嘩勃発か、と思ったけれど、誰からともなく三人は笑い出して、険悪な雰囲気にはならなかった。
きっと、これくらいのやり取りはじゃれあいの範疇(はんちゅう)なのだろう。
そんな彼女たちのやりとりを見ていて、自分の親友たちの姿を思い浮かべ、懐かしくも少し切ない気持ちが湧くココハだった。
マカレナは改めてイハナの方に向き直り、
「……こほん。すみません、未熟なところをお見せして」
「いいえ~。とってもにぎやかで素敵な修道生活を送られているのが伝わってきましたよ~」
イハナは如才なく返した。それにはココハも同意見だ。
マカレナも嬉しそうに微笑みうなずいた。
「はい、当修道院のモットーは、よく祈り、よく食べて、そしてよく笑うことですので」
「や~、それはとっても素敵なモットーね~。うちの隊商もまねしようかしら」
「あははは。もともとは大修道院長様が作ってくださった規範なんです」
「大修道院長様?」
「ええ、話すと長くなるのですが……」
と、マカレナの修道服の袖をレナタがちょいちょいと引っ張った。
「院長、院長。話が長くなるのはマズいって……」
「お~、たぶんそろそろお米炊けるころ」
リタもそう言い足す。
「あ~、そうでした!」
マカレナが思い出したみたいに大声で叫んだ。
そして、実にすまなそうにおずおずと、
「イハナさん、せっかくおたずねいただいたのに大変申し訳ないのですが、わたし達、いま少々取り込み中でして……」
「いやー、こちらこそ急に押しかけてごめんだよ~。お料理中かな?」
「はい、実を申し上げますと……」
深々と頭を下げるマカレナ。
と、あっさりとした口調で副院長のレナタが後ろから言った。
「院長、そしたらさ、イハナさんたちに試食してもらったらいいんじゃないか。せっかくだから」
「おー、どくみ」
「味見! 人聞きの悪いこと言わないでよ、リタ」
レナタの提案にマカレナはぱっと顔を明るく輝かせた。
「それはとてもよいアイディアです!」
もう一度イハナの顔を見上げ、
「その……料理ができるまで少々お待ちいただくことになってしまいますが、かまいませんでしょうか」
「へーき、へーき。っていうか、本当にいいの、あたしたちが食べさせてもらって」
「はい、それはもうぜひ。お願いしたいのです」
マカレナの返事を聞いて、ココハとイハナは目配せしあった。
お互いの気持ちが一致しているのを確認して、うなずきあう。
「それじゃ、お言葉に甘えて―――」
「あっ」
イハナの返事の途中、マカレナがまたしてもしまったという表情でと声を上げた。
「わたしったら、すみません。そちらのお姉さまのお名前もおうかがいしていなかったです」
「ああ、こっちこそごめんね。ココハです。よろしくお願いします」
会話の流れでなんとなく名乗りそびれていたココハ。
”お姉さま”なんて呼ばれたことをちょっと気恥ずかしく感じながら、ぺこりと頭を下げた。
「イハナさん、ココハさんですね。さあ、どうぞ。本堂にご案内しますね」
とびきりの笑顔で、マカレナは両手を広げ二人を歓迎した。
その笑顔、そして元気いっぱいの修道女達の姿を見ただけで、ココハはこれから訪れる修道院での体験がステキなものになるであろうことを、確信していた。
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