第28話 何か呟いてください。マジで。

前回のあらすじっ!

 母さんが登場しました。嫌な予感しかしません、以上っ!




 神野さんの言葉を待ってたかのように、タイミングよくリビングに母さんが現れる。


「さっそくなんだけど真白くん。良いニュースと悪いニュースがあるわ」


「また!?」


(俺がドラマで歌を歌うことになった時も、この展開になったぞ!?)


「さぁ、どっちから聞きたいかしら?」


「そうだなぁ」


(前回は悪いニュースを先に聞いて、良いニュースのパターンだったから、今回は良いニュースから聞くか)


「じゃあ、良いニュースからで」


「わかったわ。良いニュースは、隣の家に住んでいる夫婦の娘さんに3人目の子供が産まれたことよ」


「誰それ!?俺に関係のないことなんだけど!」


(確かに良いニュースだよ!?でも、俺に関係する良いニュースを言ってほしかった!)


「で、次が悪いニュースになるのだけど、その写真集の依頼、私が了承したから、もう断れないわ」


「先に言えよ!」


(良いニュースの件、いらねぇじゃねぇか!)


「あら、真白くんが後に聞きたいって……」


「確かにそうだけど!良いニュースって言われたから、もっと喜べることかと思ったんだよ!」


「あら、良いニュースだったと思うのだけど」


「良いニュースだよ!?でも『わ〜おめでと〜!』くらいしかならないんだよ!」


「私の気遣いが無駄だったと言いたいのかしら?少しでもガッカリする気持ちを抑えようと、私なりに配慮したのだけど」


「いや、気遣いは嬉しいんだよ!でも、良いニュースの内容が……」


「じゃあ、そういうことだから」


 母さんはそう言って、リビングから出て行く。


(えぇー、言いたいことだけ言って出て行ったんだけど……)


「と、いうわけで、日向さん!よろしくお願いします!」


「…………はい」


 ニコニコしてる神野さんを見ながら……


(だから神野さん、終始ニコニコしてだんだな)


 そんなことを思った。


 その横で…


「こ、これはマズイよ!マズすぎるよ!なんでお母さん受けるの!」


 桜がマズイを連呼して、母さんを追いかけに行った。


「な、なんだ?何かマズイことでもあったのか?」


 俺が神野さんに聞くと…


「はぁ……ここまで鈍感だと、桜さんたちが可哀想ですね」


 俺の質問には応えてくれず、なぜか、桜たちに同情していた。




 俺が桜の行動理由を考えていると…


「日向さん。最近、というよりかは、SNSを始めた日以来、SNSで一度も呟いてませんよね?」


「そうですね。何を呟けば良いかわからないので……」


「そんなこと気にしなくて良いんですよ!炎上するような内容を呟かなければ!」


「そ、そうは言われても……」


「ホント、なんでも良いので呟いてください。『天気がいいですね!』でもいいんです。最近、シロ様がSNSを更新しないことに対して、会社に催促が来てて困ってるんですよ」


「なぜ!?」


(俺の呟きなんか、誰も興味ないだろ!?)


「ちなみに、昨日は1000件以上の催促をいただきました。コチラも、そんな電話に付き合えるほど暇ではないので、何か呟いてください。マジで。土下座でも何でもしますから」


「…………なんかすみません」


 マジ顔でお願いされる。


 これ以上、神野さんたちに負担をかけるわけにはいかないので、何か呟くことにした。


 しかし…


「何を呟けばいいんですか?」


「そうですね。なら、日向さんの最近のブームを呟くのはどうでしょうか?」


「最近ですか。それなら『生徒会長は告らせたい』って漫画にハマってるんですよ。まだ3巻しか出てないのですが、これが面白くて、もう3回は読み直したんです」


「なら、そのことを呟きましょう。もう、炎上しそうな呟きじゃなかったら大丈夫ですので」


(「何でもいいから、はやく呟いて」という感じが伝わってくる。どんだけ催促の電話が入ってきたんだよ……)


 神野さんから促され、久しぶりにSNSを開く。


 そして、驚きの数字が目に入る。


「フォロワー15万人!?なにこれ!?」


(えっ!SNS作ってから1週間程度しか経ってないよ!?)


「あ、知らなかったんですか?このままの勢いだと、100万人突破するのも時間の問題ですよ!良かったですね!」


「いや、嬉しくないけど!」


(なぜ、フォロワーが増えているのかは置いておこう。目下の問題は呟くことだ)


 俺は増え続けるフォロワーから目を背け…


『お久しぶりです。俺は最近、集○社出版の『生徒会長は告らせたい』という漫画にハマってます。まだ3巻と巻数は少ないですが、とても面白いラブコメ漫画ですので、お時間ある方は是非読んでみてください!』


 と、SNSに投稿する。


 俺が投稿したことに満足した神野さんは、笑顔で車に乗り込んだ。


 その後、俺はミクさんに仕事を一緒にする件をメッセージで伝えて、簡単な話をしてから眠った。




〜蒼井アオ視点〜


 俺、蒼井アオは集○社出版の週刊雑誌で『生徒会長は告らせたい』の漫画を描いているが、人気がある漫画ではないため「次回の会議で打ち切りになるかも」と先日、担当編集から言われた。


「この漫画の連載が終了したら、もう漫画家を辞めて、安定した職に就かないとな」


 俺は妻と子供2人の4人で暮らしている。


 俺が安定しない漫画家として働いていても、妻は文句を一つも言わず、俺以上に稼いでくれている。


「俺には漫画家としての才能がないってことを理解するいい機会だな」


 俺はそんなことを思いながら、なんとなくSNSを開く。


 そこには…


「な、なんだこりゃ!俺の漫画『生徒会長は告らせたい』がトレンド1位になってる!」


 俺は驚きつつ、慌てて原因を探る。


 どうやら、今、人気絶頂中のシロ様がSNSで俺の漫画をオススメしてくれたらしい。


 原因を確認した俺は、俺の投稿した漫画の宣伝SNSに、かなりのコメントが届いていることに気がつく。


 そこには…


『最新刊の3巻面白かったです!これからも頑張ってください!』


『電子版で1巻を購入して読んでみると、面白すぎて気づいたら3巻まで買ってしまいました!』


『電子版3巻読破!明日、単行本を買いに行きます!』


 等々、ありがたいコメントがたくさん届いていた。


 そのコメントを一つ一つ読んでいるうちに、自然と涙が溢れてきた。


「あぁ、俺の漫画を読んで感想を言ってくれる。幸せだなぁ」


 俺は応援してくれた人たちに応えるべく…


「よし!たとえ、打ち切りになったとしても、コメントをくれた人たちに楽しんでもらえるような続きを描くぞ!」


 俺は未だ止まらない涙を拭きながら、漫画を描き始めた。




 次の日、つまり、シロ様がSNSで『生徒会長は告らせたい』の漫画を宣伝してくれた翌日、担当編集から電話がかかる。


『蒼井さん!嬉しい報告です!なんと、全国の書店で『生徒会長は告らせたい』が売り切れ続出となったため、全巻重版が決定しました!それに伴って、打ち切りの話もなくなりました!これからも面白い話をよろしくお願いします!』


 俺は担当編集が言った内容を理解するまでに、かなりの時間を要した。


 そして…


「お、俺の漫画が重版……そして打ち切りなし……」


 俺はその場で崩れ落ちる。


 そんな俺を優しく妻が抱きしめる。


「良かったじゃない、あなた。これからも面白い漫画を描き続けないとね」


 俺はその言葉に対して…


「あぁ!」


 力強く頷く。


 俺はその日、神様、いや、シロ様に感謝した。

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