第24話 イチャイチャを見学しに来ただけだよ!

前回のあらすじっ!

 俺がドラマで歌を歌うことになったので、アイドルの涼宮さんにアドバイスをもらうとこ!以上っ!




 土曜日となる。


 今日は涼宮さんから歌のアドバイスをもらうこととなっており、俺は今、駅前で涼宮さんの到着を待っている。


 陰キャの格好で。


 一応、涼宮さんには、俺が髪を下ろしてシロ様だとわからないようにしてることを伝えてる。


(伝えた時「わかったー!多分大丈夫だよー!」って言ってたから、大丈夫なんだろう)


 しばらく待つと、一台の車が俺の前で停まる。


「お疲れー!ごめんね。遅くなってしまって」


 車の窓から涼宮さんが顔を出す。


「全然待ってないから大丈夫だ」


 俺は涼宮さんが乗っている車に乗り込む。


「迎えありがと、涼宮さん!今日はビシバシとお願いします」


「いえいえ!あ、今日は私のグループが練習で使う場所で特訓することになったから!」


「えっ!そんなところ使ってもいいのか!?」


「うん!私以外のメンバー4人にも了承は得てるから大丈夫だよ!」


「おー!ありがとう!」


(こ、これはなんとかなるのではないのか!?)


 そんなことを思う。


「ところで、涼宮さん。よく、俺がシロ様ってわかったな。この格好で気づかれたのは涼宮さんで2人目だ」


(正確にはミクさん姉妹にも気づかれそうになったけど、2人の場合、シロ様から真白を連想されたからな)


「今回は待ち合わせてたからね。すぐにわかったよ!あ、街中でも私は気づく自信があるよ!」


「あ、ありがとう」


(ミレーユさんにもそんな感じのセリフを言われたんだけど!案外、この格好って変装になってないとか!?)


 そんなことを思っていると…


「あ!あの建物だよ!」


 どうやら、もうすぐで到着するようだ。


(今は変装よりも歌だな。せっかく涼宮さんが時間を作ってくれたんだ。それを無駄にするわけにはいかない!)


 頑張ろうと改めて思う俺であった。




 涼宮さんが所属するアイドルグループ『スノーエンジェル』の練習場所に着く。


「ここは主に踊りを練習する場所になるから、歌の練習をするための機材とかはないんだ。ホントは歌の練習をする場所がよかったんだけど、確保できなくて……。だから、スマホから音楽を流して歌ってもらうことになるけどいいかな?」


「あぁ、問題ないよ」


 しばらく歩くと、ある部屋の前で涼宮さんが止まる。


「さぁ!この部屋でレッスンをするよ!」


 その部屋には、壁一面に鏡が設置されていた。


「じゃあ、さっそくシロくんの歌唱力を確認します!まずは何か一曲歌ってもらう予定だけど、どの曲がいいかな?」


 そう言って俺の隣に来て、自分のスマホを見せる。


 小さな画面を見せることとなるため、俺と涼宮さんの肩が触れ合う。


(ちょっ!近い!近い!なんかいい匂いがするし!)


 俺が内心テンパっていると…


「ちょっと、聞いてる?」


「あ、あぁ。どの曲にするかだろ?」


(危ねぇ、涼宮さんは善意で俺を手伝ってくれてるんだ。集中しないと)


「そ、そうだな。それならこの曲にしよう」


 俺は涼宮さんのグループ『スノーエンジェル』のデビュー曲を選択する。


「えっ!シロくん、私たちの曲、知ってるんだ!」


「かなり有名だからな。俺、好きな曲の一つなんだ」


「わー!すごく嬉しいよ!」


 そう言って涼宮さんが喜んでいると…


 “パシャ”


 後ろからシャッター音が聞こえた。


 振り返ると、そこには涼宮さんと同じグループの『夏目梨奈なつめりな』がいた。


「シロ様と肩をくっつけてイチャイチャしちゃって。これはシロ様との熱愛報道が発表されるのも時間の問題かな?」


 写真を見せつつ、ニヤニヤしながら俺たちの下にやってくる。


「ちょ!梨奈!今すぐ消して!」


 その写真を見ると、涼宮さんは顔を赤くしながら慌てて夏目さんに詰め寄る。


「えー、ホントに消していいの?シロ様とのイチャイチャ写真だよ?」


「うっ!や、やっぱり後で送ってください……」


「ん?ボソボソと言われても聞こえないなー?」


「この距離なんだから絶対聞こえてるでしょ!?」


 未だに顔を赤くしている涼宮さん。


(俺には聞こえなかったが、涼宮さんが言ったことに対して聞こえないフリをしたんだな)


 そんなことを思っていると、夏目さんは俺の下へとやってくる。


「君がシロ様なんだね」


「あぁ」


 俺が肯定すると、夏目さんは俺の顔をジッと見つめる。


 そして、俺の耳元まで近づいて…


「香織ってば、口を開けばシロ様のことしか話さないんだよ。しかも、今日、シロ様と会える時間を作るために……」


「わー!ちょっと!なに話してるの!?あと近いよ!」


 涼宮さんは俺と夏目さんを引き離す。


「ウチはただ香織が今日、シロ様と会うために仕事を……」


「だからそんなこと言わなくていいんだって!」


 手玉に取られている涼宮さん。


「そもそも、今日は私とシロくんが使うからここには来ないでってお願いしたよね!?」


「そんなお願いされると来たくなるじゃん」


「梨奈には逆効果だった!」


(お願いをガン無視して来たのかよ)


「まぁまぁ、ウチは香織とシロ様のイチャイチャを邪魔しに来たわけじゃないよ」


「じゃあ、何のために来たのよ!?」


「イチャイチャを見学しに来ただけだよ!」


「今すぐ帰って!」


 ただの野次馬でした。


「いやー、ホントはこっそりと覗く予定だったんだけど、香織が連れてきた男がシロ様なのか遠くからじゃわからなかったから、確認するために出てきただけだよ」


「えっ!覗いてたの!?」


「そうだよー!あ、確認も取れたから、今からは傍観者に徹するよ!なので、思う存分イチャイチャしてね!」


 そう言って部屋から出ようとするが…


「あ、忘れてた!」


 突然立ち止まり、反転してから涼宮さんの下に向かう。


 そして、耳元で…


「ホントはシロ様とのデートに緊張してるかと思って手助けする予定だったけど、心配なさそうね。頑張ってね!」


「う、うん!ありがと!梨奈!」


 何やらコソコソと話し始めた。


(涼宮さんが「ありがと」って言ってたけど、夏目さんの言葉が全く聞こえなかったから、何に感謝したかわからんなぁ。まぁ、俺には関係ないか)


 夏目さんが部屋から出て行くところを見ながら、俺はそんなことを思った。

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