第18話 真白くんは友達がいないからわからないわね

前回のあらすじっ!

 母さんを怒らせたらダメらしい……。以上っ!




 あれから俺はカレーを食べ、母さんから演技指導を受ける。


 台本に関しては、俺が代役を断らない(断れない)と思い、母さんがあらかじめ台本を家に持って帰っていたようだ。


 そのため、台本をもとに演技指導が行われたが…


「今のセリフは友達である主人公に言うセリフだわ。だから、主人公のことを大事に思っていることが伝わるように……あ、ごめんなさい。真白くんは友達がいないからわからないわね」


 と、言われたり…


「なんでセリフを忘れるのかしら?あぁ、頭が悪いから覚えることができないのね」


 等々、ミスをする度に精神的ダメージを与えてくる。


 結局、精神状態がズタボロとなりながら夜遅くまで演技指導をして、終了後はセリフの再確認を何度も行った。




 そして、次の日の月曜日。


 今日は学校終わりに神野さんが迎えに来て、そのまま、ドラマの収録となっている。


 俺は睡眠不足の中、なんとか学校を乗り切る。


 放課後、俺と桜は前回、CM撮影の時と同じ場所で神野さんを待つ。


 ちなみに、穂乃果は用事があるらしく、今回は桜だけが同行する形となっている。


「お兄ちゃん、お母さんの小説がドラマになるってすごいよね!」


「あぁ、すごいよな。でも、俺たちの母さんが小説家の楓先生ってことは秘密にするんだぞ」


「はーい!」


 俺と母さんが話し合った結果、俺たちが親子ということは黙っていることにした。もちろん、現場監督等の偉い方は知っているが。


 理由は、実績のない俺が原作者である母さんの推薦という形で抜擢されたことが知れ渡ると『贔屓している』等を言われる可能性があるからだ。


 そんな会話をしていると、一台の車が俺たちの前で停まる。


「お疲れ様です!お待たせして申し訳ありません!」


「いえ、大丈夫です」


 神野さんの車が到着し、俺たちは挨拶をして車に乗り込む。


「それにしても、今回は原作者の楓先生から推薦されるなんて……。やっぱり日向さんはすごいです!」


「あ、あはは……」


(原作者の楓先生が俺の母さんってことは、神野さんに伝えてないからなぁ)


 と、いうことなので伝えてみた。


「えぇー!お母さんが楓先生ー!」


 案の定、驚く神野さん。


(正確には俺の母さんではないが……まぁ、そこは伝えなくていいか)


「なので、俺がすごいとかではないです。他の人には言えませんが、実際は母さんが無理やり俺を推薦したようです」


「な、なるほど。そういった経緯があったのですね」


「はい。なので、幻滅されないよう、気合を入れて頑張る必要があります」


「わかりました!そういうことなら、私もできる限りサポートします!」


「お願いします!」


 そんな会話をしながら、俺たちは収録場所に向かった。




 収録場所に到着する。


 今回のドラマの舞台は大正時代。俺は制服に帽子を着用して臨む。


 着替え終えた後、俺たち3人はスタッフや俳優たちに一通り挨拶回りをする。


(そういえば、出演者を見た時に『星野ヒナ』の名前があったんだよなぁ。しかも、俺の妹役。昨日お姉さんと逸れた女の子も『星野ヒナ』だったけど……まぁ、偶然だろう)


 そんなことを思いながら、挨拶回りをしていると、昨日、お姉さんと逸れた女の子がいた。お姉さんと一緒に。


「ヒナの名前は星野ヒナ!小学生6年生なの!よろしくなの!」


「あ、あぁ。よろしく」


(えぇー!そんなことってある!?昨日迷子になってた女の子が天才子役って!)


 俺はめっちゃ驚く。


(しかも、ヒナちゃんのお姉さんって確か、今注目の美少女モデル、星野ミクだろ!?)


 俺が心の中で驚いていると、ミクさんが話しかけてくる。


「すみません、シロ様。ヒナとは兄妹とのことで、演技をする機会が多いようです。ご迷惑をかけるとは思いますが、よろしくお願いします」


 ミクさんが頭を下げる。


「い、いえ!俺の方が迷惑をかけますよ!俺はまだ俳優としては新人ですので!」


 そんな会話をミクさんと行う。


 すると…


「うーん……」


 ミクさんが俺の顔を見て首を傾げる。


「あ、あの……俺の顔に何かついてますか?」


「あ!すみません!昨日、ヒナを助けてくれた方と似てると思っただけです!」


(やべぇ!陰キャの格好の俺とシロ様が同一人物って気づかれる!そうなると、俺が陰キャの格好で外を出歩けなくなるぞ!)


「え、えーっと、多分気のせいかと思います」


 俺は誤魔化すため、気のせいだということを伝えるが、未だに俺の顔を見ながら首を傾げるミクさん。


「なぁ、ヒナ。昨日、逸れた時に助けてくれたお兄ちゃんとシロ様って似てないか?」


 ミクさんの言葉にヒナちゃんも俺の顔を見る。


「そう言われると似てる気がするの」


「そ、それはお姉さんの言葉から固定概念的なものが発生したかと……」


「しかも、シロ様から悪い人の気配を感じないの!昨日の真白お兄ちゃんと同じで!」


「真白お兄ちゃん?」


 ヒナちゃんの言葉に、なぜか桜が反応する。


「き、気のせいかと思います!」


 俺はミクさんとヒナちゃんに気のせいだと言うことを伝える。


 しかし、未だに首を傾げる2人。


 その時…


「ヒナー!そろそろ収録の準備するよー!」


 ミクさんとヒナちゃんに似た女性の方が声をかける。


「はーい!お兄ちゃんまた後でね!」


 ヒナちゃんは名前を呼んだ女性の下へと走る。


「すみません、じっと顔を見てしまって。アタシの勘違いでした!」


「いえ、気にしてませんので」


 そう言ってミクさんもヒナちゃんの後を追う。


(ふぅ、なんとか誤魔化せたな)


 俺が一息つくと……


「ねぇ、お兄ちゃん。もしかして、昨日あの2人と会って、フラグでも立ててきたの?」


 桜からジト目で聞かれる。


「何もフラグなんかは立ててないが、昨日、ヒナちゃんがお姉さんと逸れてたところを交番まで送り届けたんだ。でも、髪を下ろしてた状態だったのに、シロ様と結びつけられそうになるとは……」


 俺は桜に説明すると…


「はぁ、また要注意人物が増えたよ……」


 よくわからないことを口にしていた。




 ヒナちゃんたちと別れ、俺たちは監督の下へと挨拶に行く。


「監督、代役に選んでいただきありがとうございます」


「君がシロくんか。よろしく。なんでも楓先生の子供さんと聞いてね。しかも、一昨日のCM撮影良かったらしいじゃない!期待してるからな!」


 今回の監督もCM監督と同じ50歳代くらいの男性だ。


「今日、できる限り君の登場シーンは収録する予定だから、頑張ってくれ。台本は覚えてきたか?」


「はい!大丈夫です!」


「よし!じゃ、さっそく始めるよ」


 監督の言葉で、収録が始まった。




 俺の演技を中心に行い、一通りの演技が終わる。


「うん!想像よりも良かったよ!」


 監督から褒め言葉をいただく。


「ありがとうございます!」


「なかなか才能があると思うぞ。緊張でセリフが飛ぶこともなかったな。家でかなり練習してきたことがわかるよ」


「あ、ありがとうございます……」


(これは昨日の母さんによるスパルタ演技指導のおかげなんだよなぁ。母さんに感謝するのは癪だが……)


 昨日の演技指導は、妥協という言葉を知らない母さんが、全然合格を出さず、今日は寝れないと覚悟したくらいだ。


 そのため、演技指導時の俺は、セリフミスのできない極度の緊張感の中、合格をもらうために、急ピッチで上達する必要があった。


(自惚れるつもりはないが、自分でも上達したと思ってる。人間、あれだけ追い込まれると進化するんだと思ったよ)


 そんなことを思っていると…


「よし、今日はここまでだ!」


 監督の一声で、本日の収録が終了する。


 俺は監督やスタッフに挨拶をしてから、控え室に戻る。


(ふぅ、監督から注意されることなく無事に収録が終わった。ホント母さんのおかげだったな)


 そんなことを思いながら着替え終え、いつもの陰キャの格好となる。


 そして、いつものようにスタッフを装って、車で待っている神野さんと桜の下に向かっていると…


「あー!真白お兄ちゃん!」


 前からヒナちゃんが声をかけてくる。


 ヒナちゃんの後ろにはミクさんと、2人に似た女性がいる。


(えぇー!声かけられたくない人に声をかけられた!しかも、この格好で話しかけられたのがマズイ!)


「真白お兄ちゃんは、ここで働いてるの?」


(だよね!なんでここにいるか不思議に思うよね!?)


「あ、あぁ。ここで働いててな」


「へぇ、真白くんは芸能関係の仕事をしてるんだ」


 今度はミクさんが質問してくる。


「あ、あぁ。そんな感じだ」


 再び、今の俺とシロ様が同一人物って気づかれる可能性が出現する。


(これは今すぐにでも会話を終了させる必要がある!)


 そう思い、俺が思考を巡らせていると…


「そうだ!ヒナは昨日のお礼を真白お兄ちゃんにしてないの!」


「えっ!い、いや!ちゃんとお礼の言葉をもらったから大丈夫だよ!?」


「ダメなの!」


 ダメらしい。


「うーん……どんなお礼がいいだろ……あ!そうだ!真白お兄ちゃん!明日の夜は暇なの?」


「ん?明日の夜は特に用事はなかったな」


「それなら、明日、ヒナの家に招待するの!そして、ウチの家で一緒にご飯を食べるの!」


「…………え?」


「お母さんとお姉ちゃんもいいよね!?」


 ヒナちゃんはミクさんと、ミクさんの後ろにいた女性に話しかける。


「そうね。私もしっかりとお礼がしたかったから大丈夫よ」


「アタシも真白くんとはゆっくりお話ししてみたかったから賛成だ」


「わーい!ありがとー!」


「いや、お礼なんかいらない………」


「お母さん!明日の料理は豪華にしないと!」


「ふふっ、そうね」


「…………………」


(あれ!?これ、断ることができない流れになってる!?)


 俺はそんなことを思った。

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