第4話 麻衣ちゃん

 息子が家に帰って来た時、習字鞄と絵画セットを持って帰って来た。いよいよ学校をやめたんだろう。やめないと言ったのに・・・セフレ程度に思っていた女と生きる人生を選ぶのか。くそ!


 俺は心底がっかりしてしまった。学校で一番の成績を取り、将来を嘱望されているのに。もし、大学に進学したいなら、この家を売ってでもと思っていたのに。


 息子の机に「十代の結婚と出産と後悔」という本を置いておいた。まだ堕ろせるはずだから思い止まってほしい。


 息子は相変わらず制服を着て学校へ行くふりをしている。

「お父さん、参考書買うからお金頂戴」

「ダメだ!そんなこと言って遊びに使うんだろう!」

 俺は怒鳴った。

「コンドームなんかいらないからさ」

「まったく懲りないやつだ。俺は絶対援助しないからな」

「俺に遊ぶ時間なんかねぇよ!この基地外!」

 息子は叫んで家を出て行った。


 親に反抗するような子どもではなかったのに。俺は息子の部屋に入って引き出しを開けた。また手紙が増えている。さっそく読んでみた。


『最近赤ちゃんがすごくよく動くんだ・・・病院行ったけど、元気に育っててほっとしたよ。お父さんもお母さんもうちに来ていいって言ってるよ。どっちも護君のことを気に入っていて、楽しみにしてるよ』


 あちらの親も了承済みなのか・・・まったく非常識も甚だしい。名前は貝塚麻衣ちゃん。公立中学だから家は調べられるだろう。俺は電話帳を見て貝塚さんの家を訪ねた。街の電気屋さんだった。店の中には型の古いエアコンや照明などが展示してある。


 俺は客のふりをして入って店に行った。

「ごめんください」

「はい」

 おばさんが出て来た。俺と同年代だ。くたびれた感じで化粧をしていなかった。若い頃はきれいだったのか。

「あの・・・麻衣さんの家はこちらでしょうか」

「はい。何か?」

「子どもの件ではご迷惑をおかけしました」

「え?」

「麻衣さんと息子の間の子どものことです。こちらで育てていただけるって聞いたので・・・」

「え?」

「麻衣さんが息子に宛てた手紙に書いてました。読んだって言うのは内緒ですけど」

「いつの話ですか?」

「わかりませんが・・・」

「麻衣は・・・」

「今、がっこうですか?」

「もう、亡くなりましたよ」

「え?」

「今年の四月です」

「え?まさか」

「自殺したんです」

「どうして?」

「本人にしかわかりませんよ」

「す、すみません・・・本当に申し訳ありません。人違いでした」

「もしかして、護君のお父さんですか?」

「はい、そうです」

「護君とは仲が良かったみたいで・・・護君もお母さんを亡くしてたので・・・」

「じゃあ、お母さんはシングルマザーで?」

「いいえ。私たちは再婚なので・・・実のお母さんは亡くなってます」

「他にお子さんは?すみません、立ち入ったこと聞いてしまって」

「私の子どもが二人いますが」

 ああ、きっと麻衣ちゃんはこの継母から冷たくされていたんだろう。再婚あるあるだ。

「そうですか・・・麻衣さんもきっと寂しかったんでしょうね。それで亡くなったんですね」

「いえ、麻衣は性犯罪の被害に遭って」

「いやぁ。それでも両親のサポートがあれば立ち直れるでしょう」

 自覚がないとはけしからん。俺は継母にとどめを刺すつもりで言った。

「あなた、前の奥さんとの子どもがいなくなってほっとしてるんじゃありませんか?全然悲しんでいるように見えませんよ」

「あなたに何がわかるって言うんですか!」

 お母さんは怒り出した。やばいなと感じたので俺は退散した。


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