第3話 最悪の展開

 もう夕方六時だ。まだ帰らないんだろうか・・・俺はハラハラしながらもう一度イヤホンを耳にい当てた。

「痛たたた・・・やばい血出た」

「大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ」

「はい、ティッシュ」

「やばくない。大量出血じゃない?」

「殺人現場かよ」

「そろそろ帰るわ。塾あるし」

「忙しいね」

「まあね。行かないと親、怒るから」

「じゃあ、駅まで送るよ」

 息子は女の子と出て行った。


 さくっとエッチして塾へ向かう。誰もその女の子がセフレと一発やってから来たとは思わないだろう。今の中学生はすごいなと感心した。


 二人が家を出た後、俺は二階のリビングに行って夕飯の準備に取り掛かった。取り敢えずみそ汁だけだけど。YouTubeのチャンネルで一汁一菜というのをやっていて、メインをタンパク質にして、みそ汁に野菜をたくさん入れればそれで栄養価は十分らしい。以前は息子に家事をさせていたけど、最近は俺もできるだけ作るようにしている。


 一時間後くらいに息子がシャワーを浴びて二階に上がって来た。

「みそ汁作ったけど食べない?」

「うん」

 息子はドライヤーをしないタイプだから髪が濡れていて、肌に透明感があってますますイケメンに見えた。いかにもモテそうだ。女に不自由しないだろう。


「あの子、彼女?」

「はぁ?」

 息子はイライラしたような声を出した。

「部屋に連れて来るってことはそうなんだろう?」

「違うよ。何言ってんだよ」

「ちゃんと避妊しろよ。子どもできたら大変だろ?」

 息子は苦笑いしていた。

「コンビニで買うのが恥ずかしかったら、ネットで注文してやるから」

「ああ」

 俺は深入りしたくないからそれだけ伝えた。息子はそれっきり黙ってしまい、食べ終わると黙って部屋に行ってしまった。


***


 それからも、時々息子は女の子を連れて来た。俺はもう盗み聞きするのはやめた。頼まれなくてもコンドームを買って机の上に置いておいた。子どもにとってはわずかな金でも惜しいだろうからだ。息子が何というかとハラハラしていたら、息子から返って来たのは予想外の言葉だった。


「お父さん、大丈夫?僕、彼女なんかいないよ」

「でも、セフレはいるだろ?」

「何言ってんの?彼女もいないのにそんなのいるわけないだろ」

「でも、部屋でやってるんだろ?」

「そんなことしてないよ」

「お父さん、おかしいよ」


 息子はどうしても自分にセフレがいることを認めようとしないようだった。それからも、あの女の子が部屋にやって来た。俺はまた盗聴アプリを起動する。


「子どもできた」女の子が落ち込んだように打ち明けた。

「え、まじで?」

「産みたい」

「うん。わかった。責任取るよ」

「どうやって?」

「学校辞める」

「よかった。二人で育てて行こうね」


 まるで小説と同じ展開じゃないか。俺は先回りして学校に電話し、担任を呼び出した。

「息子が退学したいと言っても受理しないでください」

「はあ・・・お父さん、中学は義務教育ですから退学っていうのはありませんから」と、冷めた声が返って来た。

「他人事だと思ってあんた!」

 俺は怒鳴ってしまった。


***


 その次の日、息子が暗い顔で家に帰って来た。

「パパ、学校に電話したの?」

「いや・・・お前が学校退学するって聞いて」

「何で退学するの、僕が?」

「だって、彼女に子どもができただろ?」

「彼女いないし、それに僕まだ童貞だよ」

「またまた。うぶなふりして」

「お父さん、病院行って」

「毎月通ってるよ」

「僕一緒に行くから。最近、おかしいよ」

 

***


 俺には妹がいる。名前は公子だ。隣の〇〇市に住んでいる。公子から久しぶりに電話が掛かって来た。

「お兄ちゃん、大丈夫?そっち行こうか?」

「何で?普通に暮らしてるよ」

 俺は笑った。公子の旦那は持病があって定職についていない。生活がギリギリなのは知っている。迷惑を掛けたくなかった。

「でも・・・護君が大変そうだから」

「護が?」

「うん。家のこともやらないといけないのに、お兄ちゃんの具合が悪いみたいだし」

「ああ・・・あいつ、最近女の子と遊ぶようになって困ってるんだよね」

「それ、お兄ちゃんの妄想よ」

「違うよ・・・ちゃんと聞いたから。隣の部屋から漏れてくるんだよ。話し声が。あんな顔してセフレがいて、彼女が妊娠しちゃったんだって。それで学校辞めて育てるって言うんだよ。でも、俺、これからどういう展開になるか知ってるんだ。学校辞めてすぐに彼女が中絶して、子どもはいなくなるし、大学行く道もなくなって、護はやけを起こして、俺を殺すんだ」

「お兄ちゃん、何言ってるの?おかしいよ」

 妹は悲鳴に近い声で叫んだ。それだけは覚えている。俺を心配してくれてるんだろう。俺は息子に刺されて死ぬかもしれない。怖いけど覚悟はできていた。俺は殺されても仕方ないような生き方をしてるのだから。

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