第2話 セフレ
息子の実態はというと、爽やかなイケメンだ。親ばかだが、顔は昔で言うと醤油顔というか和風な顔立ち。色白で美人だった妻に似ていた。しかも性格がいい。スポーツ全般が得意でサッカー選手に憧れていたけど、妻が病気のため、送迎が出来ないから運動部には入らなかった。部活は勉強に支障がない書道をやっている。妻が書道で段を持っていたから、最後まで息子に指導をしていた。それで息子も母の希望を叶えるために、続けたいと思ったようだ。
「パパ」
夜にキッチンで息子に会った時、あちらから声を掛けて来た。
「今度家に友達を呼んでもいい?」
「いいよ。じゃあ、家を片付けないとな」
息子が家に友達を連れて来るのは初めてだ。今まで妻の闘病と俺が行き届かなかったせいで、人を家に招くことなんてなかった。息子は友達が多いから、今までもきっと友達を家に呼びたかっただろう。
俺は頑張って家を掃除した。絶対入らないと思うが、一応、風呂場も掃除した。
「友達って何人来るの?」
「一人」
俺は前日、お菓子やジュースを買ったりして準備した。
「ジュースとお菓子買っといたよ。俺、どこにいたらいいかな?」
「寝室にいれば?」
息子はそっけなく言った。俺が邪魔みたいだ。漫画みたいに、親が部屋にジュースやお菓子を持って行く設定はないらしい。
「そうだね。働いてないって思われるのも嫌だから・・・」
「働いてないけどね」
息子が嫌味を言って来た。俺のことを見下しているのがわかる。俺も大変なんだ。妻の病気で休んでもパワハラ部長に嫌味を言われて、すっかり参ってしまった。
「いやぁ・・・休職してるだけだよ」
俺はかっとなって言い返した。
それから、当日がやって来た。俺は再度掃除機をかけて毛が落ちていないように万全の準備をした。時間になったら部屋に隠れた。その間はトイレに行けない。
廊下から話し声が聞こえて来た。
「戸建てって一気に階段上るの大変だね」
女の子の声だった。
「うん。マンションの方が楽だよね」
「あー疲れた」
「体力なさすぎだよ」
「やばいかなぁ」
「うん」
「じゃあ、ちょっと寝る。あはは」
声を聞いただけでヤバイ感じの子だった。男の部屋に来て寝るってなんだよ。俺は同性の友達が来ると思っていたし、女の子だったとしても、もっと清楚な感じの子をイメージしていた。息子は優等生なのに彼女はヤンキーなのか。若い頃はそういう女に魅力を感じてしまうかもしれない。しかし、合わないと思うのだが・・・。
俺は前日iPhoneに盗聴アプリをダウンロードしていた。それを使えば、隣の部屋の声を収音して俺のイヤホンに送ってくれる。ゲームの音がする。バシャーっという破裂音。バン、バン。静かな音楽、二人の奇声が聞こえて来る。
「死ね、クソ!」
「殺せ、殺せ」女の子が同調する。
「死ねよ早く!てめぇ、邪魔なんだよ!」
「死ね、じじい!」
よかった。ゲームやってるだけか。それにしても息子は意外とガラが悪いんだと知る。
「それ本音じゃね?」女の子が尋ねる。
「ばれた?」息子だ。俺は胃が痛くなった。
二人の笑い声が聞こえる。
「ピーね」
「そうそう。仕事もしないで遊んでばっかでさ。早く〇ねよ」
二人は一時間くらいゲームをしていたが、ずっと俺の悪口を言っていた。
「あー。つまんない」女の子が先に飽きてしまったらしい。
「じゃあ、違うことしようか。ごめん、うちって娯楽なくてさ」
「子作りする?」
「買ってないけど・・・避妊しなくていいの?」
「別にいいよ」
「すごい理解あるね」
「私たちセフレだし」
俺はショックだった。爽やかイケメンだったと思っていた息子にセフレがいるなんて。それから俺は盗聴をやめた。ちょっと前までランドセルを背負ってた子が、今はセフレがいるクズ男になっていたなんて。セフレがいるのは羨ましいけど、相手の女性は男のことが好きだったりするから、かわいそうになって来る。君は本当にセフレでいいのか。いや、息子に女の子をもっと大事にするように言わなくては。
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