第13話
「きれいな放送室だ」
「ラジオの放送ブースみたいだよね」
「おしゃれなコーヒーが出て来そうだ」
「うん、そんな感じ」
俺達は新しく出来た食堂の放送ブースでフリートークをしていた。
食堂の中にプレハブのような部屋が置かれ、ノートパソコンとマイクが2つだけ置かれており、カフェ感がある。
「イツキ君」
「ん?」
「いつまで私の事を苗字で呼ぶの?」
新妻の作戦、それは放送部のフリートークで自然に名前で呼ぶ流れを作る事だった。
「名前で呼ぶのは恥ずかしいだろ?」
「イツキ君、一回やってみようよ」
「サヤ?」
「何で疑問なの?」
「サヤ」
「そうそう、もう一回」
「サヤ」
「もっとだよ」
「サヤ」
「これから名前で呼ぶか、嫌がらせの質問を増やすかどちらかになります」
「何!そのシステム!というか」
「どうしたの?イツキ君?」
「食堂の視線が痛い」
「食事休憩中だからね」
「皆食事は終わってるのにいるだろ?」
「ユウ、それとユウの姉が笑顔で見ている」
ユウの姉は新人教師だ。
2人はとにかく仲が良く、レナが美人で性格が良すぎるせいでユウに恋人が出来ないと思っている。
レナはスーツを着こなし、ショートカットでアナウンサーのような雰囲気の美人だ。
ニコニコしながら俺達を見ている。
先生は恋愛小説もアニメも映画も最近の物は全部チェックする恋愛マニアだ。
つまり俺とサヤの放送は大好物なのだ。
「2人共こっちに来ようか」
ユウと先生がシンクロするように両手の平を見せて拒否のポーズを取った。
「イツキ君、駄目だよ先生を呼んで楽をしようとしてるよね?」
「そうだけど?」
「それに4人もここに入ったら狭いよ。でもおしくらまんじゅうになってもいいなら入れてもいいよ?」
「い、いや、やめておきます。今でも十分狭いです」
「うむう、よろしいいい」
「フリートークはもう終わりだ」
「そうだね」
「これで放送は終了です」
俺はノートパソコンの電源を切って閉じた。
「これから食事にしよ」
2人でブースを出ると先生が手招きした。
ユウと先生は目立つ。
イケメン&新米美人教師でしかも兄弟だ。
まだ周りから視線を感じる。
「良い放送だったよ」
ユウが笑顔で言った。
「そうね、胸がキュンキュンするわ。顔がにやけちゃう」
俺は無言で弁当を開けて食べる。
これはサヤに作って貰った物だ。
レナが俺の弁当を覗き込む。
「ねえ、2人は付き合ってるの?」
「げほ、げほ!付き合ってないです」
「はい、今は付き合っていません」
「今は、ねえ。いいわね。キュンキュンするわ」
ユウとレナはにやにやしながら俺とサヤを見る。
「……食べずらい」
食事が終わり、授業を終えて2人で帰る。
「レナ、じゃなくて先生は何で付き合っているか急に聞いてきたんだ?」
「弁当を見て私が渡したのを分かったんだね」
「でも、サヤと違うメニューにしてあって、分からないようになってるはずなのに」
「イツキ君は弁当を作らない性格で恥ずかしがり屋で両親と住んでないから見ただけでばれるよ。先生はイツキ君をもっと小さいころから分かってるよね?」
「そ、そっか。無駄な手間をかけさせてしまった」
「いいよ。明日の分も作るね」
「材料代を出したい」
「買い物にいこっか」
「一緒に?」
「一緒に」
「……夫婦みたいだね」
「そう、だな」
2人でスーパーに向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます