第7話 

 ショートホームルームが始まると先生が委員会決めの話し合いを始めた。

 色々な委員会があるが、1番嫌なのは放送委員だ。


 この高校はボッチや根暗に最低限のコミュ力を与えようとする謎の文化がある。

 定期的にフリートークをやらされる放送部の謎の伝統と謎の文化、マジでやめろ!

 話す事なんてない!


 前に座る新妻が振り返って大きめの声で言った。


「ねえ、イツキ君は声がいいから放送委員に合いそうだね」


 いつも発言しない新妻が発言した事でクラスがざわついた。

 そして意外な人間の発言を先生は拾う。


「お、新妻の提案か、先生もそう思っていたんだ。松本、お前、案外人と距離をとるだろ?それに放送委員は未経験だったな?」

「嫌です」


「男子の中で他に放送委員をやりたい者はいるか?」


 あれ?俺の話聞いてた?

 スルーされてる?

 おかしくない?

 俺存在してるよな?

 存在しているのに存在していない事にされるこの矛盾。

 コミュ力を付けさせるはずの放送委員だけど先生はコミュ力をどこに置いてきた?


「松本でいいと思います」

「松本は声がいい」

「声がいいから松本じゃね?」


 クラスの何人かが俺に押し付けてくる。

 早く帰りたいか!


「放送委員男子は松本、女子は」

「はい!!!」


 新妻が大きめの声で手を上げた。

 全員が新妻の方を向く。


「放送委員の男子は松本、女子は新妻か。先生嬉しいぞ。皆が特に嫌がる放送委員を引き受けてくれて助かる」

「先生、人の話を聞きましょう」


「松本、男を見せろ」


 そう言って先生が笑った。


「先生、コミュ力をどこに置いてきました?話を聞いてください」

「素晴らしい!そのトーク力に先生期待してるぞ!」


 先生は作り笑いで押し切る気だ。

 俺はそのノリのまま放送委員になった。




【放送室】


 ショートホームルームが終わると、俺と新妻は先生に案内されて放送室に入った。

 ここは日当たりが悪く、廊下の奥にある。

 そして向かいの部屋は捨てる前の備品を置く場所で放送室に入る者以外誰も寄せ付けない魔のフィールドとなっている。

 昭和のようなレトロな設備が現役で動き続けている。


「このスイッチを入れて放送して、終わったらスイッチを切ればいい。フリートーク用のストップウォッチもあるが、スマホのストップウォッチを使っても大丈夫だ。松本、期待してるぞ。まずは練習放送からだ。最低10分は頑張ってほしい」

 先生は親指を突き立てて去って行った。


「え?ちょ、決まってすぐ?」

「始めよっか」


 新妻が放送のスイッチを入れる。

 新妻が話し出す。


「これより放送委員の練習放送を始めます。私の名前は新妻サヤです……」




【教室】


 多くの生徒が残って2人の放送を聞く。


『……よろしくお願いします』


 新妻の自己紹介が終わると男子生徒が盛り上がる。


「サヤさんの声、可愛いよな」

「天使すぎる」


『イツキ君、次はイツキ君の自己紹介だよ』

『ん、俺の、僕の名前はマツモトイツキです。3年A組で、休日はバイトをしていましたが最近不景気でバイトが無くなりました。これからは健康管理に気を付けようと思います。以上、です』


 女子生徒が黄色い声を上げる。


「いい声だよね!!孕みそう」

「あの声で耳元でささやかれたらおかしくなるわ!」

「声優みたいな声だよね~」


『はい、続いては、フリートークだよ。後8分』

『8分もか!』

『うん、そう思って、他の生徒からイツキ君への質問を用意してるよ』


『てか新妻、話うまいな』

『イツキ君ほどじゃないよ』


『ハードル上げんな!』

『ふふふ、質問行きまーす』


『え?もう?まじで?』

『質問1つ目、イツキさんとナギサさんは別れたんですか?』


『これ誰?誰の質問?』

『プライバシーがあるから答えられないよ』

『俺は?俺のプライバシーは?』

『質問1つ目、イツキさんとナギサさんは別れたんですか?』


『え、ちょ!』

『質問1つ目、イツキさんとナギサさんは別れたんですか?』

『昨日……振られました』


『悲しかったね。よしよし』


 男子生徒が大声を出す。


「今よしよし!よしよししたのか!」

「頭を撫でたのか!」

「声だけに決まってる!俺のサヤは男が苦手なんだ!」

「だが見える、ヨシヨシが脳裏に見える」


「「聞こえない!」」


 そして怒られる。


『質問2つ目、イツキ君は胸派?それともお尻派?』

『……これ、誰からの質問だ?』

『答えられません。質問2つ目、イツキ君は胸派?それともお尻派?』


『これって放送委員会として問題無いのか?』

『質問2つ目、イツキ君は胸派?それともお尻派?』

『そういうスタイル?オウムのようにずっと繰り返すスタイルか』


『質問2つ目、イツキ君は胸派?それともお尻派?』

『そうだな、どっちも見えれば、ちらちら見てしまう、かな』


「おお!新妻の責め、いい」

「新しい領域だ!」

「可愛い妹が嫉妬して問い詰めてくる絵が見える」

「妄想は自由だけど流れが違うだろ?」


『イツキ君、どっち派かな?』

『逃がす気はないか。迷うけど、お尻派かな?』


『ふふ、理由は?』

『理由?困るな。本能的なものだから理由をどういっていいか分からない』


『後突っ込んで聞くな』

『あう!』


「今おでこつんした!」

「見えるわ!イツキ君の指がおでこをつつくビジョンが!」


「女子だってうるさいだろ」


 女子は無視して盛り上がった。





 サヤは生徒からの質問に自分の質問を紛れ込ませてイツキの情報を聞き出していく。



 あとがき

 次も放送回が続きます。





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