第6話
アパートに帰る。
俺の住むアパートは3階建てでその2階に住んでいる。
ふと位置共有アプリを開く。
おかしい。俺と同じ位置に新妻がいる。
ここ俺の家だよな?
新妻から連絡が来た。
『イツキ君のアパートって、私と同じファンタジー・コーポかな?』
『そうだけど、新妻も同じか?』
『やっぱり!部屋を教えて』
『205だ』
『私305だよ私は3階でイツキ君は2階だね』
よく部屋番号だけで位置が分かるよな。
いや、新妻は頭がいい。
このアパートすべての部屋を暗記している可能性もある。
今日は寝よう。
色々人を疑ってしまう。
疲れている証拠だ。
『わるい、今日は色々あったから寝るわ』
『うん、お休み』
『お休み』
俺はシャワーを浴びてベッドに横になる。
同じアパートに新妻がいる。
放課後から興奮しすぎてしまった。
眠れない気がする。
まだ、今週は、始まったばかり……
眠れるのか?
俺は睡眠不足もあってぐっすり眠った。
◇
【翌日の朝】
まだ外は薄暗い。
「超眠った。12時間くらい寝たか?」
カップラーメン、は無しにしてパンにジャムを塗って温める。
袋に入ったカットサラダをただ皿に盛って塩コショウをかけて即席みそ汁を用意して食べた。
いつもこんな感じだ。
丁寧にすればもっと良い物を食べられる。
だが面倒なのだ。
部屋を軽く掃除して早めに学校に通学する。
後ろから走る足音が聞こえる。
「はあ、はあ、お、おはよう」
「新妻、おはよう」
「はあ、はあ」
「なあ、急がなくてよくね?」
「あ、ははは、遅刻しちゃいそうで」
「まだ1時間以上余裕ある」
「……あ、1時間間違えちゃったね。一緒に行こ」
俺と新妻は歩く。
新妻はミスをしないイメージがあった。
そう言えば昨日新妻の顔が赤かった。
疲れが溜まっているのかもしれない。
「まさか同じアパートだったとは、びっくりだよね」
そう言って俺と手を繋ぐ。
距離が近い。
昨日のドリームでの事を思い出す。
新妻の赤い顔、
空いたワイシャツから見えた胸元、
そしてフェロモンを発するような吐息、食べ方、
俺の耳で囁く、その声。
「そう、だな」
俺はつながれた手を離した。
「え、」
「ああ、新妻は男が苦手だろ?」
「そうだけど、イツキ君は大丈夫だよ」
そう言ってまた俺の手を取った。
俺は男として見えない、そういう事だろう。
新妻は頭がいい。
俺の本質を見抜いているのかもしれない。
複雑な思いを感じながら歩くとぽつぽつと同じ学校の生徒が歩く。
俺と新妻が手を繋ぐ光景を見て皆が驚く。
新妻はモテる。
とにかくモテる。
清楚な雰囲気とそこら辺にいるアイドル顔負けの容姿、そしてそのプロポーション。
さらにスポーツ万能、成績優秀、まさにパーフェクトだ。
背は、小さいが、それも可愛さを引き立たせている。
「新妻、手を繋いでいるとクラスで絡まれるぞ」
「いいよ。見られても」
そうか、男避け、そう考えれば納得できる。
俺と手を繋いでおけば男からの連絡先交換と告白はかなり少なくなるだろう。
新妻の場合俺と手を繋いでも繋がなくても結局何か言われる。
「新妻の男避けにはいいかもな」
「イツキ君が私の彼氏になってくれる?」
笑顔で言った。
「新妻、意外とそういうとこあるよな?」
「そういうとこ?」
「よくからかうだろ?」
「私はイツキ君にからかわれる方が好きだなあ」
またからかわれたか。
でも、新妻が少しだけ強く俺の手を握った気がした。
学校では俺が新妻と付き合っているか、そしてナギサと別れたか何度か聞かれた。
新妻もナギサも人気だから聞きたくなる気持ちは分かるぞ。
うんうん。
隣に座るユウが少し呆れた顔をして言った。
「イツキってさ」
「ん?どうした?」
「絶対勘違いしてるよね?」
「何がだ?」
「質問の意図だよ」
「意図、新妻とナギサが人気だから気になるんだろ?」
「半分正解だけどイツキの事も気になって聞いているんだ」
「落ち込んだ俺を心配してくれたのか。みんな思ったより優しいな」
「……」
「どうした?」
「イツキ、君は自分の事が分からないよね?」
「自分を知るのは難しだろ」
「そうだけど、イツキは周りからどう思われているか特にわかってないよ。イツキはモテるんだ」
「……そうか?」
「それに気になっている相手の事は分からないよね?異性で気になってる子の事ね」
「恋は盲目ってやつか」
「そうだけどイツキは特に分かってないよ」
「イツキはモテるしイツキを巡る争奪戦はもう始まっているんだ」
「はははははは、ユウ、今日は冴えてるな。ウケる」
「……今に分かるよ」
【サヤ視点】
イツキ君、今日もいい声、重低音が体の奥に響いてくる。
連絡先を交換して位置共有も出来た。
今日はびっくりしたよ、いつも遅いイツキ君が早く家を出るんだもん。
いつも上から見て後ろから背中を見ていた。
イツキ君と一緒のアパートに引っ越してよかった。
もう一緒のアパートでも怪しまれない。
イツキ君の位置を知っていても普通。
何かあればイツキ君に連絡も出来る。
点が線になってイツキ君と絡み合うような感覚を感じる。
イツキ君の声にゾクゾクする。
今イツキ君はフリーで、他の子も狙っているけど私がイツキ君と1つになる。
全力でイツキ君と1つになる。
そう、全力で。
今日は放課後前のショートホームルームで委員会決めがある。
委員会は男女1人ずつのペアで決まる。
狙うのは一緒の放送委員。
個室の放送室。
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