第4話 

 ああ、やっと別れてくれた。

 357日も待った。


 イツキ君が別れた事を聞いて私の体は幸福に満ちていた。

 砂漠の太陽の中、イツキ君のしたたり落ちる汗のように私の心を潤していく。

 私は放課後の教室を思い出す。


 イツキ君に何かあった時の為に常に携帯ソーイングセットをバックに入れている。

 イツキ君のボタンをバックに入れつつ私のボタンをイツキ君のブレザーに取り付けた。

 私とイツキ君が交わるような快感を感じながらイツキ君のブレザーを感じる。

 このボタンは宝物にしよう。


 私は大好きなイツキ君に触れて、イツキ君と私だけの教室でイツキ君の頬に触れて肩に触れて耳元でささやいた。


『ねえ、私が慰めてあげるよ』


 私がイツキ君にそうされたいと思う事をした。

 私はイツキ君に触れながらイツキ君に体を押さえつけられて、お仕置きをして貰う妄想が瞬時に頭によぎり顔が熱くなる。


 言い方は冗談ともとれる曖昧な言い方で言った。

 これなら断られても嫌われない。

 断られなければ最期まで進むだけ。


「断られちゃったな。でも、嫌われてない。私を慰めて欲しかったけど、私の胸を上から覗き込むように見て目を逸らしてた。その瞬間の胸がぞわぞわして気持ちいい。私のお尻もたまにちらっと見て貰っている。お尻と胸、イツキ君はどっち派かな?」


 私はイツキ君ヤルことリストに追加した。


『イツキ君が胸派かお尻派どっちか聞く』


 私は脳内でイツキ君にお仕置きされるイメージを思い浮かべる。

 大きなイツキ君が小さな私を簡単に押さえつける。

 今日イツキ君に触れた事でそのイメージ精度が上がった。


 イツキ君の大きな左手で、片手だけで私の両腕を押さえつけてくれる。

 私はロープでつるし上げられるように腕を封じられる。


 イツキ君の声は私のお腹に響くような低音で、私の中まで、お腹の大事な所まで振動する。


「サヤ、逆らうな」

「ああ、イツキ君!イツキ君!」


「胸は、まあいいだろう。尻が、筋トレはやっているのか」

「イツキ君に触ってもらうために毎日してるよ」

「足りないな」

「イツキ君、ごめんなさい!もっと動かなくなるまでシマす」


「何をスルんだ?言ってみろ」


 私は家畜のようにお尻を叩かれる。

 イツキ君の私の奥底まで振動させるような声、

 イツキ君に押さえつけられる興奮、

 イツキ君の洗礼で私はおかしくなったように夢の世界に足を踏み入れる、うんう、イツキ君がいざなってくれる。


 あ、鼻血が、いけないいけない、妄想が止まらなくなる。

 私は止血しつつ自分の体を感じる。


 私の体を作り変えるように血液が流れている。

 まるで芋虫から蝶に生まれ変わって行くよう。

 生まれ変わるように細胞が元気になっていく。

 イツキ君が私を綺麗にしていく。


「ああ、やっと別れてくれた」


 あ、イツキ君が来た!

 店の前で立ち止まってスマホを取り出した。


 財布を落とした!

 私は素早く双眼鏡をバックにしまい、そして走った。

 鼻血なんて関係ない。


 私がイツキ君の落とした財布を拾ってイツキ君に届けてイツキ君に褒めてもらってイツキ君の連絡先を交換するイツキ君が他の誰かと付き合ってまた見ているだけになったら死にたくなるもの死ぬ事より怖い事なんてない!


 私は日頃ランニングで鍛えた力をフル活用した。



 

 ◇




 ドリームの前まで走り、イツキ君の財布をイツキ君を抱きしめるように抱きしめた。

 中に入る、大丈夫、落とした財布を届けるのはいい事。


「はあ、はあ、はあ、はあ、やっぱりいたあ。イツキ君、財布、落としたよ」


 私はイツキ君に笑顔で近づいて、そして、両手で財布を手渡した。


 今この瞬間が、気持ちいい。




 

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