第3話 

【サヤ視点】


 時はイツキがドリームに入る前までさかのぼる。


 私は走った。

 高台公園のベンチに座ると喫茶店・ドリームがよく見える。

 私は座ってコンパクト型の双眼鏡を取り出してイツキ君をウォッチする。


 私は週末に必ずドリームで食事を頼んで窓際に座るイツキ君を見ていた。

 それは毎週の習慣になっていた。

 見てるよお。

 イツキ君は私を変えてくれた大事な人。

 イツキ君に会う前、私はもっと暗かった。


 イツキ君とおじいちゃん以外、男の人は苦手。

 高校2年生までぱっつん前髪とおさげ髪、可愛くならない伊達メガネをつけて過ごした。

 

 でも、彼が、イツキ君が現れてからすべてが変わった。

 私が図書委員会の役目を押し付けられた時、イツキ君が手を上げた。

 そして後で言った。


「押し付けられてたし、でも俺が手を上げて迷惑じゃなかったか?」


 委員会は男女1人ずつの決まりになっている。

 私が男の人が苦手で、でもそれを分かっている彼のやさしさで満たされた。

 イツキ君は私に気を使って私に近づかないようにしてくれた。

 イツキ君は私に気を使って男の人の間に立ってくれた。

 イツキ君は私を気にかけ続けてくれた。

 イツキ君は前に出るのが苦手な私の代わりに前に出てくれた。

 イツキ君も前に出るのは苦手なのに。


 背が大きくて頼りがいがあってかっこよくて、優しい。

 私はイツキ君に恋をした。

 そして私は、デチューンをやめた。


 モテる為の情報を集めて片っ端から試した。

 筋トレとランニングを毎日して、しぐさも表情も勉強した。

 イツキ君の情報を集める為にクラスの女子とも仲良くなった。

 席替えはイツキ君と出来るだけ近くを希望した。

 イツキ君の声にいつも耳を傾けた。


 私はイツキ君語録の3大原則を思い出す。

 私は後ろで話すイツキ君の言葉を覚えている。


 第1原則

 『俺が気になったからな』

 これはイツキ君は教室に落ちているゴミを拾ってそう言った言葉。


 第2原則

 『見ているのが嫌だったから動いた』

 これはイツキ君が私と同じ委員会に手を上げた後聞いたら言ってくれた言葉。


 第3原則

 『早い者勝ちだ』

 イツキ君が颯爽と白馬の王子様のように食堂のパンを手に入れた後に言った言葉。


 一見すると深い意味は見えてこない。

 でも、毎日イツキ君の言葉を思い出すと深い意味が天啓のように降ってくる。

 そしてそれは私にも応用可能だ。


 第1原則:待ってちゃダメ、イツキ君と結ばれるために動く。

 第2原則:見ているだけじゃダメ!他の人とイツキ君が他の人と付き合う前にイツキ君と新しい命を授かる為に動く。

 第3原則:チャンスがあれば即座に動く。告白もせずまたイツキ君が誰かと付き合ったら本当に死にたくなるから。



 イツキ君に彼女がいると死にたくなるものイツキ君にまた彼女が出来たら死にたくなるものイツキ君に嫌われたら死にたくなるものイツキ君は私の命死ぬくらいならイツキ君がどんなに人気でどんなに嫉妬されてもいじめられても全力で動いて恥ずかしくても全力で動いて全力でイツキ君と結ばれてイツキ君の心も体も私に注ぎ込んで1つになってイツキ君の子を産んでイツキ君と一緒に住んでイツキ君と一緒に生きて死ぬまでイツキ君と暮らす私がイツキ君を包み込む鞘になるイツキ君の事を考えると言葉が溢れて止まらなくなるけどダメ、ダメ、ダメ。


 そう、イツキ君と話す時は、短く、要点だけ伝える。

 出来ればワンフレーズにするのが理想だ。

 イツキ君はそういうのが駄目って分かる。


 イツキ君の連絡先を交換したらイツキ君に毎日1000件以上メッセージを送りたくなるけどダメ。

 まずは連絡先から。

 交換できてもしつこくしない。


 狂った私は死ぬまで見せない。


 私はイツキ君ヤルことリストを眺める。


『イツキ君に毎日挨拶する』

『イツキ君の肩に触れる』

『イツキ君の顔に触れる』

『どっちでも取られる逃げ道を残してイツキ君に愛を貰うようお願いをする』

『……

 ・

 ・

 ・



 30件以上のヤルことリストを眺める。

 頑張ってコンパクトにまとめたリストを見て笑う。

 

 何個かクリアしちゃった。


 357日前のあの日から、ずっと待ってた。


 イツキ君がフリーになるのをずっと待ってた。





 

 新妻 鞘ニイヅマ サヤは、


 依存型ヤンデレファントムである





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