第22話 ラストミニッツヒーロー
「はぁ……キチィ」
校内を慌てた様子で駆け回るトウカ。
尋常ならざるその様に非常事態を感知し、その後を追った九重。
生徒会のピンチで深いことを考えず助けに入ったがそれも限界を迎えつつあった。
九重は肩で息をしながら周囲を見回していた。
「あら、もう終わり?」
九重の疲労を知ってか目の前に迫る少女が狂喜の笑みを浮かべ鎌を振るった。
すでに疲れ切っている。
「クッ!」
ワンテンポ遅れつつ腕を上げ攻撃を止めようとする。
しかし、それは意味のない動作になった。
「大丈夫か九重!?」
突如砂金が少女との間に割って入り、少女の鎌を受け止めたからだ。
『圧倒的な光を纏う』砂金が左腕でやすやす鎌を受け止めていた。
そして少女の鳩尾に拳を打ち込み無力化し、叫ぶ。
「九重ありがとう! 下がって良いぞ!」
言うだけ言うと砂金は凄まじい速度で、彼方に構える連城に向かっていった。
嵐のように現れ、去っていった砂金。
その姿を眼前でまざまざと見せつけられた九重は呆然と呟いた。
「お前、砂野なのか……?」
遥か彼方で連城と火花を散らす砂金。
その光景に声に出すのも馬鹿らしい質問が転がり出る。
だがそう思うだけの理由はある。
理由は……
「なんだあのフレア量は……ッ!?」
連城と戦う砂金が、少女の鎌を寸でのところで受け止めた砂金が、通常の何十倍というフレアに包まれていたからだ。
あふれ出す光の蒸気は凄まじく、まるで小さな火山のようだ。
それは九重が未だかつて見たことのない量である。
(体が軽い)
砂金は『計画同行』で操られた能力者から九重を救い出すと一直線に連城に向かっていた。
(気分の変化のせいか……?)
そうしながら砂金は自身の身体が普段よりずっと軽く感じることを自覚していた。
砂金はそれくらいの原因しか想像できない。
明らかに軽い身体、並々ならぬ筋力。その原因に、今、思い当たる節はない。
だがどちらにしても原因など些末事だ。
砂金にとって今重要なのは連城に勝てるかどうかだけだった。
だから、なぜだか調子の良い今、勝負をかけるに限る。
砂金は一気に連城に襲い掛かった。
「……ッ!?」
砂金の姿を見て遠目にも連城が目を剥くのが分かった。
連城は砂金が近づけないようスキルを発動させようとする。
「――ッ!?」
そして、今度こそ新たに発現したスキルの効能であろう。
砂金はスローモーションで見るかのように、連城の口がどう動くのか、どう動作をしているかを観察『出来た』。
『名探偵の一端』が発動していた。
砂金が近づく状況。それに対し連城が行いたいであろうことを予測し、かつ、連城が『才能開花』したと言われる能力群の中から、これら条件に見合う能力を照合した。
結果―― 脳内でビーッという電子音が鳴る。
『
二年C組・遠藤が保有するそれに一致する。
途中何度も直角に折れ幾何学模様を描きながら相手に襲い掛かる五条の光線を放つスキルだ。
軌道は毎回同じなのだが五本もあるというので、避け切るのは困難。
しかし、それら軌道は毎回同じ。
ビーッという電子音が脳内で鳴り響く。
「『
「ッ!」
やはり予想通りの攻撃が飛来した。
複雑怪奇な軌道を見せる光線が砂金に襲い掛かるが、砂金は速度を落とさない。
そして―― 砂金の瞳孔が開く。
「何だと!?」
縦横無尽に空を刈り取る『幾何学光』を、流れるような身のこなしで全てかわし切り
「連城ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおッ!!」
フレアを刀状に洗練し連城に襲い掛かった。
連城にフレア刀を振りかぶる。
そうながら、砂金の心の中には一つの疑問があった。
それは―― 『……アンタ、ネガティブ過ぎて大変だったわよ』
どうしてトウカは熱心に砂金をインフィデンスしようとしてくれたのだろう、
という疑問である。
◆◆◆
(クソ、どうなっている!?)
一方で砂金が突如息を吹き返し連城は泡を食っていた。
先ほどまでボロ雑巾のようになっていた砂金。
急に立ち上がったかと思ったら九重を救い出し、そのままの勢いで連城に向かってきたのだ。
(しかもなんだ!?『そのフレア量は』!?)
小さな火山のように尋常ではないフレアを体から発散する砂金に連城は目を剥いていた。
(聞いていないぞッ!)
しかも、ただフレア量が増えているのではない。
「『デントロクリア』!」
「『キリング』!」
連城が『感謝の報酬』で放つ無数の攻撃を砂金は縦横無尽に駆け巡り、光線の網を避け切り、
針の穴のようなわずかな攻撃の隙間を鮮やかに潜り抜けていく。
「うおッ!」
そして一瞬の隙を見せれば瞬時にフレア刀が伸び連城の片腕の両断すら狙ってくる。
このままではマズイ。
連城は歯ぎしりした。
余りに攻撃速度が速すぎて『計画同行』で従えた支援者に指示を出すことすらままならない。
「くッ! 『砂野砂――
連城は泡を吹きながら『スキルゼロ』で砂金を止めにかかる。
しかし
「させるかぁぁぁぁぁ!」
「クソッ!」
溢れるフレアから無数の蒸気刀を射出し名前を言う暇すら与えない。
砂金の放った蒸気刀の雨が体育館に直撃し体育館の右端が砂糖菓子のように削り取られる。
「……ッ!?」
ノータイムで放たれた殺傷性の攻撃に連城の喉が干上がる。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
連城は自身を強化するスキルを複数発動させ、砂金に対抗せんとする。
無数の強化光が連城を包み込む。
だが
「オオオオオオオッ!!」
強化された砂金の拳がガード越しにも深刻なダメージを与えてくる。
(強い……ッ!)
このままではマズイ。
連城は即座にスキルを使用し距離を取ろうとする。
「ッ!?」
しかしそれよりも早く、ガードしていた腕が砂金の拳で跳ね上がり、無防備な胴が露になる。
(ヤバい――ッ!)
これまで無数の強化を成した連城を追い詰め、数え切れないほどの遠距離攻撃を避け切るほどの強化を成した砂金。その拳。
それを無防備な腹で受ければどれだけのダメージを負うか。
――想像もつかない。
これでもかと自身の窮地を痛感した連城はついに決心した。
『才能開花』で砂金の中の才能を探るのだ。
恐らくこの砂金を覆う強大なフレアは『スキルの受動発現』である。
偶然にもスキルの発動条件が揃い発動してしまったのだ。
そして連城の『才能開花』はその者の保有する才能を見切る。
これにより今運転中の砂金のスキルを明かし、スキル発動条件を崩せば、この異様な強化も消え去るはずなのだ。
砂金が腕を振りかぶるのを見ながら連城は唱えた。
「『
連城の瞳が赤く輝く。
スキルが発動し連城は砂金の潜在人間力を覗き見た。
未だかつて、見ようとしてこなかった砂金の人間力を目の当たりにし
「ッ!?」
息を詰まらせた。
連城の視界にはまさに今、砂金の姿にいくつもの吹き出しが表示されている。
運転中スキル・潜在スキル・その他もろもろの砂金の人間力パロメーターが明らかになる。
連城は即座に運転中スキルに目を移す。
『名探偵の一端』というEクラススキルにまず目が行く。
そしてその横に書かれたスキルに度肝を抜かれたのだ。
【運転中スキル】
スキル名:『
スキル源泉:土壇場力
効果:窮地における各種スキル・フレアの超強化
ランク ――特Aクラス――
「……嘘だろッ!」
思わず驚嘆が口をついて出る。
そうしながら再びスキル条文を読む。
――窮地における各種スキル・フレアの超強化――
「まさか……ッ!?」
その一文でいくつもの記憶が駆け巡ってくる。
――『お前、一体何をやっている――?』
封印していた、忘れようとしていた、『あの記憶』まで。
(コイツはこれだから――ッ!)
そして連城は思い出した。
『あの記憶』を。
忌まわしい、記憶を。
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