第15話 策謀
『特別外出許可証』というものがある。
「お呼びですか、お父様」
『神ノ山』から電車を乗り継ぎ飛行機で飛び、計八時間。
日本の新首都、第二東京にある超高層ビル。
その最上階の広々とした空間に、特別外出許可証を提出した連城康人はいた。
ここは連城財閥の保有する自社ビルの最上階。
当然目の前にいるのは
「あぁ呼んだよ康人。何せ何を隠そう、我らがライバル、砂野財閥の話だ。直接会って話したくてね」
黒々とした若者のような髪をした壮年の男性。
連城
そして会長たる貞人は切り出した。
「康人。突然だが早急に再起不能になるよう佐野砂金の自信を完膚なきまでに破壊しろ」
「ナッ……!?」
突然の指示に息を飲む。
「何驚くことはない。今は砂野の息子の自信を喪失させるのに格好の機会になっているのだ」
康人が予想外の命令に目を剥くが、貞人は驚く息子を微笑ましく眺めていた。
「康人、お前にまず始めに言っておくことがある。連城財閥と砂野財閥の争いだが、俺と黄金の時代には決さないだろう。雌雄を決するのはお前たち、康人と砂金の時代になる」
「……!」
そのような話は何度も匂わされたことがあるがここまで明確に告げられたのは今回が初めてだった。
全身の毛穴が開く。
「その点、我々は有利だ。黄金の息子は見ての通り大した才能を有さない。康人は、さすがだ、学年で一位の人間力を有している」
だが不安もあると康人は続ける。
「何せスキルが無いというのに十五位だ。それに関してはさすが奴の息子とも言える」
康人も砂金のスキル無しでの学年十五位がいかにおかしい結果であるかは知っていた。
「だからこそ、この好機に『格付け』を完了させるんだ。どうあがいてもお前には勝てないという圧倒的敗北感を『刷り込む』んだ。それが将来、砂金とやり合う際、有効になる」
「では、その『刷り込み』どのように行うんですか……?」
「そこで先ほど私が言った『格好の機会』が関連してくる。聞くところ、この頃砂金はアイという少女と両想いになれたのだろう? 本人はまだ気づいていないらしいが。だが確実に彼らの距離は近づいた。そしてようやく距離が近づいたアイが康人によって取り上げられれば、どうだ、黄金の息子はやはり康人には勝てないんだと思い込むだろう」
トウカでも作戦は出来たが、砂金の自覚が足りず実行に移せなかったと貞人は言う。
「取り上げるって、自分に小豆川を攫えというのですか!?」
「ハッハ。まぁそうなるよな。だが大丈夫だ。こちらにも正当な理由がある。出てきなさい」
「誰だ……?あなたは……?」
扉を開け背後から現れた太ったパーカー姿の男に康人は瞠目する。
そのみすぼらしい姿はここにいるにふさわしくない。
本来ならば、こんな場所にいるはずのない人物だ。
「名を、
「兄!?」
アイとは似ても似つかぬその風貌に康人は目を剥いた。
そもそもアイに兄がいることなど、聞いたこともなかった。
「実は彼が再三我々に手紙を送ってくれていてね。詳細は省くが、まあ彼もまたこの計画に協力してくれるようだ。だから彼を『神ノ山』に連れて行くといい。そしてお前は『格付け』を行い砂金に絶対に自分は康人には勝てないという『刷り込み』を行うんだ」
まるで話についていけない。
康人は下唇を咬み、俯く。
しばらくして再度康人は尋ねた。
「……それで、もう一度聞きます。具体的にどうやって『刷り込み』を行うんですか……? ただ小豆川を奪っただけでは、『もう二度と自分には勝てない』などという『刷り込み』は不可能なように思えますけど」
「ただ奪うんじゃない。……作戦はこうだ。まずそこの男を使用しアイを呼び出す。お前はアイを捕縛し砂金を呼び出し、言うのだ。アイのつがいの座をかけて勝負しろと。そしてお前は砂金に勝利する。もし可能ならその後アイとつがいになれ。それで『刷り込み』は完了だ」
貞人はさも当然のように言うが康人はどうにもそれだけで刷り込みが完了するとは思えなかった。
しかし――
「愛する者の命が懸かった戦いで自分が無力だと痛感させられるのは、これ以上にない『刷り込み』になる」
続けて告げられた貞人の言葉は水面に広がる波紋のように康人の心の隅々に行き届き、実感を与えた。
あぁ確かに、それなら上手く行きそうである、と。
「砂金の個別の戦闘力も知れたからこそ、この作戦は可能になった。つい先日進藤とかいう馬鹿が砂金を襲撃したらしいな。聞いた話だと砂金は為す術もなくやられたらしい。これで確信した。砂金は格上には勝てない。だからこそ康人、お前なら勝てる」
刷り込んでやれ、お前の強さを。
力強い瞳で貞人はそう言った。
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