第13話 尾行型ダブルデート
「じゃぁ必要とあればこちらから指示するから、大体の流れは九重に任せたぞ」
『お、おう!了解だぜ!』
翌日、砂金達はみおろし町にいた。
今日は約束の土曜日。
九重とユリカがデートをする日だったからだ。
私服姿の砂金とトウカとアイが物陰に身を潜め、その遥か先にはジャケットにパンツ姿の九重がいた。
九重は耳の奥に無線機を付けており、今回も砂金達の作戦はこれまで通りだった。
「デートでどこ行くかはそっちに任せる。その中で九重、お前は分かってるな」
『あぁ、褒めまくればいいんだろ!? 今度は『自然な流れ』で!』
確かにその通りなのだが今回のインフィデンスは非常に困難が予想される。
「ま、まぁそうなんだが……」
そのことを伝えようとしたがそれよりも先に、待ち合わせ場所にふんわりとしたワンピース姿のユリカが現れた。
『よ、よう……』
『みおろし町で九重君に会うとなんか変な感じだね~』
ぎこちない九重に、自然体のユリカ。
明らかに九重は相手に対する思いが先行していて動揺していた。
そしてユリカはそんな九重の気持ちを知ってか知らずか――
『今日はありがとう。きっと私をインフィデンスするため誘ってくれたんだよね? でも多分無理だと思うよ?』
これはなかなか骨が折れそうだ……
当然、ユリカがこちらの意図に気が付く展開は砂金も予想できた。
褒め倒すもインフィデンス出来ず、破れかぶれであのタイミングでユリカをデートに誘ったのだ。普通の人間ならばこちらの意図に気づいて当然である。
「いきなりね……」
「結構ヤバめかも……」
トウカとアイが眉を下げ息をつめた。
砂金達の作戦は今回も同様である。
だが正確に言うのならば、前回の失敗から、九重の言っていた通り『より自然な流れで相手を褒めに褒め倒す』ということに変わっている。
しかしきっと今のようなユリカの斜に構えたスタンスではいかな自然な流れで褒めても殆ど『納得』しないだろう。
先ほどの発言は予想していたとはいえ作戦に早くも巨大な壁が現れたに等しい。
「……大丈夫だ。焦るな。ここまでも一応想定済みだ。普通に会話を続けろ」
『そ、そんなこと考えている訳ないだろ?今日は図書館の件の詫びさ。今日は楽しもうぜ?』
『ふ~ん? そ?』
二人の探り合いを遠目で見ながら砂金はトウカから借りた本の内容を思い出す。
そして得たマイナス思考の人間の褒め方を要約すると次の二点である。
すなわち、①漠然と相手を褒めず、出来たことに関して具体的に褒めること、と、②相手が頑張ったことを褒める、ということである。
いくらネガティブであろうとも、目の前に自身の頑張りや才能の結果が転がっていれば、嫌
でも『納得』せざるを得ないというわけである。
いくらネガティブな人間でも、『頑張っていること』を褒めると『喜ぶ』ということである。
つまり砂金が今日やらねばならないことは、ユリカのネガティブをもってしても打ち払えないほど、本人が納得せざるを得ない環境を作ることと、ユリカが密かに頑張っていることがあるならそれを探し出すことである。
そして自然体のユリカを見るのなら彼らにデートコースは任すべきと、デートの流れは九重に一任したのだ。
「あ、動き出したわよ!」
何事か話していた二人がこちらに背を向け繁華街に向かい始める。
「追うぞ!」「りょーかい!」
このデートが正念場だ。砂金は身を引き締めた。
このデート、『遊んでいる暇はない』!
◆◆◆
「砂野君。わ、私!金銭運凄いってよ!!」
「そうか、凄いな……」
しかし、デート開始直後から砂金達は遊んでいた。
いや、言い訳をさせて欲しい。
九重達をつけるにあたって何もしていないと非常に浮くのだ。
彼らのとめどないデートに付き合い砂金達もデートスポットを巡る旅をしているのである。
そんなおり、ふと彼らが入ったのがこの『占いの館』
複数の占い師が常勤しており、様々な観点からその人の未来を占ってくれる、男には何が面
白いのかよく分からない空間である。
「ホラ、砂金、アンタも占われなさいよ!」
トウカにはじき出される形で砂金はアイと変わり占い師のおばちゃんの前に立たされる。
「ハァ!」
砂金が目の前に立つとその女性はこれでもかというほど目をかっ広げて驚いた。
そして恐れおののきながら、芝居がかった調子で叫ぶ。
「……そなたには女難の相がみえおるわいッ!」
「やはりか……」
「やっぱりね」
「ちょっとそれどういう意味よ!」
砂金とトウカが一様に頷くとアイが目くじらを立てた。
「砂野君! 何度も言うけど私たちは両想いなんだからね!?」
「だから『つがい』として両想いなんだろ……。分かってるよそんなこと」
「だからなんでそうなっちゃうのよ~~!!」
砂金ががっくりと落ち込むとアイが頭を抱えて唸った。
実はつい先日も砂金は『絶対告白会』で振られているのだ。
その時の光景を強制的に思い起こされ、砂金の頬に一筋の涙が垂れた。
あれは六月初旬の絶対告白会。六月は例外的に三回絶対告白会があるのだ。
思い出せば、あの時も砂金の前にはニコニコと笑うアイがいた。
この後、つがいとして会うのに、この場でまた振られるとはなんと気まずいのだろう。
だが告白しない訳にもいかない。
砂金はすぐに愛の言葉を伝えた。
『小豆川、もう知ってるとは思うが俺は君が好きだ。……もう何度もで気持ち悪いかもしれないけどやはり君が好きなんだ。だから本当に、もう嫌かもしれないけど言わせて欲しい。……君が好きだ。俺と付き合ってください』
『いいよ!』
『クソ! また振られたッ!』
あの時も『(つがいとしてなら)いいよ!』と言われ振られてしまったのだ。
今思い出しても涙が止まらない。
あとあの後、『い・い・よ!って言ってんでしょ砂野君?』こめかみの血管をビキビキと浮かせながら砂金の腕を抓るアイは怖くて仕方がなかった。
砂金がひとり沈み込んでいると、占い師の女が再度アイを見て、瞳孔を広げた。
「ハッ、そなたにもよく見れば色濃い男難の相が……ッ!」
「そんなん言われなくても分かってるわよ!!」
アイが吠えた。
その後も九重達がバッティングセンターに入れば、砂金達もバッティングセンターに入り
『え、なんか向こうでめっちゃ打ってる人いない?』
「おい小豆川目立ってる! ユリカに気付かれる!?」
「あ、ヤバい! ついボールが来ると本能的に……!」
「どんな本能なのよ……」
アイが自慢の運動神経でヒットを飛ばしまくり注目を集めかけたり
お化け屋敷に入れば
「きゃぁぁぁ砂野君怖い~~~」
「お、おう……」
アイが引っ付いてきて砂金が身を固くし
「ちょっとアイ! アンタ怖いとか言うタマじゃないでしょ!?」
トウカが檄を飛ばしたりその他様々なトラブルがあった。
「にしてもなかなか上手く行かないな」
そうしながらも、ちゃんと作戦は実行中で、砂金は双眼鏡で遠くの二人を監視していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます