疑問を感じた日
--放課後--
「あ、そーだったそーだった! はい、美琴!朝話してた漫画!」
雪那は突然振り返ると、そう言いながら紙袋に入った6冊の漫画を手渡してくる。
「あぁ。そう言えばそんな話もしてたね。すっかり忘れてたよ」
「えぇ~。私があれだけ熱弁したのに忘れるとか、少しひどくない?」
「ごめんごめん。でも、気になっていたのは本当だから、あんまり拗ねないでよ」
「まぁ~、いいけどさぁ。読み終わったら感想! 絶対聞かせてよ! そして作品の素晴らしさについて、2人で熱く語り合おうじゃないか!」
「素晴らしさについて語り合うかは、気が向いたらね」
「楽しみにしてるよ! あ、それと、返すのはいつでもいいから! 好きなだけ読んでくれていいからね! それじゃあ、また明日!」
「りょーかい。また明日」
別れの挨拶を済ませると、雪那はものすごい速さで走り去り、帰っていった。おそらく、帰ってまた漫画を読むのだろう。
私も雪那も帰宅部だが、雪那は何故かとても足が速く、その足の速さが活かされているのが、早く帰って漫画を読むためというのも、勿体ないような、彼女らしいようなで、少し笑えて来る。
「さて、私も麻璃亜に声を掛けて早く帰ろうかな。.....あ、そういえば…」
私も麻璃亜に声を掛けて一緒に帰ろうかと考えたとき、今日のお昼に、急遽委員会の仕事が入ったとかで、帰るのが遅くなると言っていたのを思い出した。
最初は麻璃亜も気を使って、先に帰ってていいと言っていたが、『私が麻璃亜と一緒に帰りたいから待ってる』と伝えたところ、申し訳なさそうにしながらも、嬉しそうに微笑み、了承してくれた。
なので、麻璃亜の委員会が終わるまでは、教室で勉強でもしながら麻璃亜を待つことに決め、さっそく勉強道具を取り出し、勉強を始める。
「あの、栗原さん!」
勉強を始めて一時間ほどが経ったとき、私を呼ぶ声がしたので、顔を上げてみると、そこには同じクラスの男の子が立っていた。
確か彼の名前は--
「どうしたの? 名取君」
名取祥太。私と同じクラスの男の子で、高校に入学してから何度か話したことのある同級生である。
彼は野球部に所属しており、一年生ながらもセカンドとしてレギュラーを獲得。今後が楽しみな期待の一年生として話題なのが彼である。
また、彼は身長が高く、野球部に所属しているためか筋肉質で、いわゆる細マッチョ体型とそこそこ整った顔立ちのためか、女子からの人気が高い。
たまに、告白したという話を周りの女子がしているのを聞いたことがある。しかし、その女子たちはみんな振られたと話しており、その理由が、今は部活に集中したいからだと言っていた。
そんな彼が一体、私になんの用だろうか。
「勉強中にごめん。今少しいいかな?」
「それは別に大丈夫だけど、何かあった?」
「いや、実は前から栗原さんと話してみたいと思ってて。少しでいいから、時間貰えない?」
「それは別に構わないけど…」
「ありがとう!そういえば、栗原さんって--」
その後私たちは、時間を忘れてお互いのことを色々と話した。趣味や好きな食べ物、好きな音楽に休みの日は何をして過ごすか、お互いの友達とあった面白かった話など話が尽きることはなく、楽しい時間を過ごすことができた。
「あ、そろそろ俺いかないと。俺から話しかけたのに、急にごめん」
「ううん。大丈夫だよ。私も楽しかったし」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。あ、もしよければだけど、連絡先を交換しない?」
「いいよ。私もまた名取君と話してみたいし」
「ありがとう。……はいこれ、俺のQRコード」
「今スマホ出すから、少し待ってね…」
そうして、カバンからスマホを取り出そうとした時だった。
「美琴ちゃん?何してるの?」
教室の入り口の方から、聞き慣れているはずの、しかし、今まで一度も聞いたことのないような冷たさのある声が聞こえてきた。
その声の方に目を向けると、そこには顔は笑っているが、目が笑っていない麻璃亜が居た。
「麻璃亜? 委員会の仕事はもう終わったの?」
「うん。ついさっきね。ところ美琴ちゃんは何してるのかな?」
「麻璃亜を待っている間、勉強してたんだけど、途中で名取君が話しかけてくれて。それで、話してるうちに仲良くなったから連絡先でも交換しようかって話してたところ」
「ふーん」
麻璃亜はそう言うと、茶色かったはずの瞳が真っ黒に感じられるほど光を無くしたような瞳をし、名取君を見た。
そう、ただ見ただけである。睨むでもなく、微笑むでもなく、ただ見ただけである。しかし、その瞳には何とも言えぬ雰囲気があり、名取君も少したじろいだ。
「そういう事なら、早く連絡先交換したら? 私も委員会の仕事終わったし、早く帰ろ?」
「そうだね。名取君、QRコード読み取るから、スマホの画面見せて?」
「あ、あぁ。ごめん、栗原さん。沢辺さんを待たせるのも悪いから、連絡先の交換はまた今度にしよう」
「そう? なんかごめんね。今日はありがとう。楽しかったよ」
「うん。俺も」
名取君に挨拶を済ませた私は、カバンを肩にかけ、教室の入り口で待ってくれていた麻璃亜の下に向かった。
「ごめん。お待たせ」
「大丈夫だよ。さ、帰ろ」
そう言って麻璃亜は、いつも通りに私の腕に自身の腕を絡め、腕を組んできた。
私たちは腕を組んで帰ろうと、教室を出ようとしたとき--
「ヒッ⁉」
と、後ろの方から悲鳴のような声がした。
気になって後ろを見てみると、名取君がこの世の触れてはいけない何かに触れたような恐怖の顔でこちらを見ていた。
私は名取君の視線を追い、麻璃亜の方を見てみるが、いつもと変わらない可愛らしい笑顔を浮かべた麻璃亜だけがおり、名取君が何に恐怖したのか疑問に思いながらも、特に気にすることはなく帰ることにした。
「……チッ。まだ寄ってくる虫がいたか」ボソッ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければ新作を2つ投稿してますので、こちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327
『人気者の彼女を私に依存させる話』
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