ヤンデレ幼馴染から私は逃げられない

琥珀のアリス

私の日常

 私-栗原美琴には、幼稚園からずっと一緒の幼馴染がいる。彼女はとても可愛らしく、高校に入学して数カ月しか経っていないが、多くの同級生や先輩から告白されている。

 しかし、彼女はその誰とも付き合うことはなく、今も私といる時間が一番多い。


「美琴ちゃ~ん!」


 私の名前を呼びながら近づいてくるのは、ゆるくウェーブがかかった茶色の髪を腰の少し上あたりまで伸ばし、同じく茶色の瞳をした美少女。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ理想の体型。身長は少し小柄で小動物系なため、とても庇護欲がそそられる。

 そんな美少女である彼女こそが、私の幼馴染こと、沢辺麻璃亜である。

 対して私は、黒髪のボブに黒目、胸はそこまで大きくはないが、その分身長は高めで、可愛い女の子らしさというものはあまりなく、その証拠に、これまで一度も告白というイベントを経験したことがない。


「おはよ、麻璃亜。今日も暑いね」


 私たちの家は歩いて数分程しか離れておらず、いつも私の家の前で合流し、一緒に学校に登校している。


「ほんとにね~。まだ七月に入ったばかりなのにこんなに暑いと、来月から耐えられそうにないよぉ~」


「あはは、麻璃亜は昔から暑いの苦手だったたもんね」


「美琴ちゃんは暑いのも平気だから羨ましいよぉ...。

あ、はい、これ!いつもの飲み物だよ!早く飲んで!」


「ん。ありがとう、麻璃亜」


 そう言って私は、いつも麻璃亜から渡されている、少し赤い飲み物を飲んだ。

 この飲み物は、中学2年生のころから麻璃亜に渡されて飲むようになり、今では毎日欠かさず飲むようにしている飲み物である。

 飲み始めた最初のころは、フルーティーながらも、何故か少し味がするので違和感を感じていたが、今ではこの少し鉄っぽい味が病みつきとなっており、毎日飲まないと勉強などに集中できなくなっている。

 いつでも飲めるよう、どこで売っているのか気になり、以前、麻璃亜に聞いたことがあったが--


『んー。内緒♡ でも、気に入ったなら、頑張って毎日準備するね♡』


 と、言われてしまったので、結局は毎日、麻璃亜からこの飲み物を貰っている。


「さ、美琴ちゃん! 遅れちゃうから、早く学校に行こ~!」


 そう言って麻璃亜は、いつものように私の腕に自身の腕を絡め、身を寄せてくる。

 先ほど彼女は、暑いと言っていたはずだが、いつも通りくっついてくるため、暑いなら離れればいいのにと思い、指摘しようかとも考えたが、いつものことなので、今更私もそのことを指摘したりはしなかった。









「おはよ~」


 学校に到着し、自分の席に座って一時間目の授業の準備をしていると、朝の挨拶をしながら私の前の席に座る女子がいた。


「おはよ。なかなか来ないから、またさぼるのかと思ったよ」


 彼女の名前は三本木雪那。

 肩甲骨あたりまで伸ばした黒い髪に、いつ瞼を閉じてもおかしくなさそうな眠たげな目。顔は整っているのに、その気だるげな雰囲気がなんとも残念な美少女で、私の中学からの友人である。

 ちなみに、麻璃亜はクラスが違うため、今は近くにはいない。

 

「いや~、ほんとはさぼる気満々で、二度寝決め込もうとしたんだけどさぁ~。妹に無理やり布団をはがされたあげく、学校に行かないなら漫画全部捨てるって脅されてさぁ~。起きる以外の選択肢がなかったわけよ」


「それは妹ちゃんが正しいね。期末テストも近いんだから、これ以上休んだらさすがにやばいでしょ」


 雪那はかなりの漫画好きで、三度の飯より漫画を選び、寝る時間より漫画を読むことを重要と考えているため、声を掛けなければご飯も食べないし、寝落ちするまで漫画を読んでいることが日常茶飯事である。


「だって、昨日最後に読んでた漫画があまりにも面白くてさ! 読み終わった時にはすでに朝方で、あんまり寝れなかったんだから仕方ないだろぉ~」


「はぁ。朝方まで読んでるのはいつものことでしょ。いい加減、計画的に行動することを覚えなよ」


「いや、あの漫画を計画的に読むのは無理。一話一話が面白すぎるし、次巻への引きも上手すぎて、計画立てても破綻する。あれは神作品だわ」


「そんなに面白かったの? 雪那がそこまで褒めるのも珍しいね。少し気になるかも」


 雪那は重度の漫画オタクのため、これまで数多くの作品を読んできた。

 しかし、彼女が一つの作品をここまで褒めたことはこれまでなかった。


「ふっふっふっ。そういうと思って、全巻持ってきたよ! 放課後に渡すから、帰ったら読んでみてよ!」


「持ってきたって、全部で何巻あるのさ」


「そんない多くはないよ。全6巻だから、すぐに読み終わるよ」


「それくらいなら、まぁいいけど」


「ほんとに面白いから、楽しみにしててよ!」


 雪那がそう言って前を向いた瞬間、キーンコーンカーンコーンと、朝のSHRが始まるチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきたのだった。









 --お昼休み--


「美琴ちゃ~ん、お昼一緒に食べよ!」


 お昼の時間になると、私の名前を呼びながら、麻璃亜がお弁当を両手に持ち、私たちのクラスへとやってくる。


「麻璃亜、いつもこっちのクラスに来てもらってごめんね。一緒に食べよ」


「大丈夫だよ! 美琴ちゃんと一緒にいられるなら、私はどこへでも行くよ!」


 なんだか突然、壮大な話になってしまった気がしなくもないが、そう言ってにこにこと笑う麻璃亜はとても可愛らしいので、ただただ嬉しく思う私なのである。


「あ、麻璃亜ちゃんだ。私も一緒にお昼食べていい?」


「もちろんだよ、雪那ちゃん! ご飯は一緒に食べる人が多い方が楽しいからね! それと.......はい!美琴ちゃんのお弁当!」


「ありがとう、麻璃亜。いつも作ってもらってごめんね」


「いいのいいの! 私が美琴ちゃんに作ってあげたくてやってることだから! 美琴ちゃんが喜んでくれるなら、私はそれだけで満足だよ!」


「美琴~、愛されてますなぁ~」


 麻璃亜はいつも、こうして私の分のお昼も作ってくれている。彼女が言うには、大好きな私にお弁当を作ることで、少しでも私の役に立てるのなら、それは彼女にとってとても嬉しい事であり、生き甲斐なのだという。

 少し大げさすぎる気もするが、それで彼女が喜んでくれるのなら、私は彼女のやりたいことを無理には止めず、好きなようにしてもらおうと思っている。

 それと雪那よ。人はそんなに簡単に人を愛さないから、麻璃亜が私を愛しているとか出鱈目なことを言わないでくれ。

 

 麻璃亜からお弁当を受け取った私は、さっそくお弁当を食べようと、お弁当箱の蓋を開けた。 

 今日のお弁当は、おにぎり1つとおかずとして、小さめのハンバーグが2個、きんぴらごぼうに卵焼き、ミニトマト、そしてデザートにカットフルーツという内容である。

 どれも私の好きな食べ物ばかりで、特に麻璃亜の作るハンバーグはとても美味しく、少しがあるため、満足感がある。

 そんなおいしいお昼ご飯を食べながら3人で話していると、麻璃亜が--


「あ。そうだ、美琴ちゃん。今週のお休みも、美琴ちゃんのお家に泊まりに行ってもいい?」


 と、聞いてきた。


「もちろんいいけど、毎週泊まりに来て、麻璃亜のご両親には何か言われない?大丈夫?」


「うん! 大丈夫! 両親も、美琴ちゃんと一緒なら問題ないって言ってるし、何なら一緒に住めば?って言われるくらいだから、うちは気にしなくても大丈夫だよ!」


「そう。ならいいけど」


 麻璃亜が私の家に毎週泊まりに来るようになったのは、高校に入学してからだ。

 最初こそ、毎週泊まりたいと言われるものだから戸惑いもしたが、高校に入学してから約3か月。麻璃亜が毎週土曜日に泊まり来て、日曜日に帰る生活を繰り返していたら、止めることも諦めたし、それを当たり前のように感じることが多くなった。


 私の両親は共働きで、家にいることが少ない。昔は寂しいと感じる事も多かったが、今ではその生活が当たり前だと感じており、両親に何かを期待することは諦めた。

 それに、今では毎週、麻璃亜が家に泊まりに来てくれるおかげで、寂しさを感じることはなく、むしろそのことを楽しみに、一週間を過ごすことができている。

 本当に、麻璃亜には感謝してもしきれない程の恩を感じている。


 その後も3人でご飯を食べながら、昨日見たドラマの話や雪那の漫画に対する愛を聞きながら過ごし、お昼休みは終わった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ新作を2つ投稿してますので、こちらの作品もよろしくお願いします。



『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』

https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327



『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

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