第10話 常識は知っているつもり
どうやら西沢によると、俺の常識は欠如しているそうな。
んなアホな。こう見えても元勇者様だぞ。INT《知力》は高いし、公序良俗もしっかりと守ってるつもりだぞ。
「この世界には魔法とか存在しないの!それを教えるとか言ってたら怪し過ぎるどころか、詐欺師と疑われてもしょうがないわよ!」
「いや、けど実際に俺も西沢も魔法使えてるじゃん」
「そうだけど!そうじゃないの!あぁ、もう!」
怒りっぽくて女の子の日なのかな?いかん、これはセクハラになるから黙っておこう。
「多分だけど、木村くんの常識のなさは異世界体験のせいだと思うの。あっちでどれぐらい過ごしてたの?」
「三年ぐらいかな?大体それぐらいだよ」
「帰ってきた時、こっちでの時間は経過してなかったのよね?」
「そうだよ。浦島太郎じゃなくて良かったと思ってる」
そーゆうもんだと聞いてたからこそ、時間を懸けて頑張れた気がする。
戦闘力を鍛えてから挑まないと死んじゃうからな。俺にRTA《リアルタイムアタック》をする趣味はない。
それにもしも、時間が経過するのだったら普通の高校卒業生よりも、中学生辺りを召喚してほしかったものだ。
「だからなのかな?まだ向こうで勇者やってた気持ちでいるんじゃない?」
「そんなことは「ちゃんと聞いて!」あ、はい」
「木村くんを責めてるわけじゃないのよ?ただこのままだと大変なことになりそうだから言ってるのよ」
どうやら西沢は俺を心配してくれているようだ。なんて優しいやつなんだろう。そんなの惚れてまうやろ。
いや、違う。違わないけど、今は真剣に話を聞いて考えるべきだと、空気が言ってる気がする。
「向こうでは剣や魔法を使うのは当たり前、魔物を殺すのも日常だったのかもしれない。けれど、こちらでの日常は平和な生活なのよ。それが『当たり前』なの」
西沢の言葉に軽くカルチャーショックを受けたが、それぐらいは俺も知っているさ。
それにもっと詳しく言うなら、剣や魔法で人と変わらないような魔族だって殺してきた。
人間そのものの盗賊だって殺した。
そこに後悔はないけど、世の中には生かしちゃいけないような奴らだっているんだ。
人々を不幸にする。生かしておくことで、更に多くの人々を不幸にさせた経験だってあったさ。
言うと重くなりそうだから言わないけど。
ラノベでありそうな、そういう勇者の悩みや葛藤等のイベントはもう済んでるから。
「むぅ。あんまりわかってなさそうな顔してる・・・」
「そ、そんなことないよ?ちゃんと理解してるって!」
西沢は不服そうな顔をしているが、このまま平行線を辿るような気がする。
少しの沈黙が流れたあと、西沢からハグされた。
え!?なんでハグ??
「木村くんのこと、学校にいたとき少しは見てたからわかるんだ。なんか少し変わったなーって思ってた。私じゃわからないような、大変なこといっぱい経験してきたんだろーなって思ったの」
「あの、その、西沢さん・・・?その、胸が当たってて」
「恥ずかしいからあまり言わないで。それでも、今はなんかこうしなきゃって思ったの」
西沢は抱き締めながら、俺の頭をよしよししてくれた。
いや、してくれたってなんだよ。バブみ欲しがってたみたいじゃん。
けど色々と気持ちいいから黙っておこう。
それからたっぷりと5分程抱き締められてると、俺がヒロイン枠なのか?と、少し勘違いしそうになった。
もちろんそんなことはないけど。
西沢は俺から離れると、暗くなってきたから、そろそろ帰らなければいけないと言った。
そう告げる西沢もやっぱり恥ずかしかったのか、ちょっと目線を外しながら手を繋いできた。
あ、これは完全に惚れたな。
うん、俺が惚れたわ。
好き好きってなっちゃった。
「今日はもう遅いから送ってもらってもいい?」
「もち、もちのろん!」
「ふふ、何?その変な返し」
焦って変な言葉遣いになってしまった模様。
そのまま西沢を家まで送っていった。道中色々と話してたけど、あまり内容は覚えてない。
うん、テンパってたわ~完全に。
1つだけ覚えてる内容としては、俺たちの関係は少しだけ進んだということだろう。
「送ってくれてありがとう。ヤスくん」
「じゃあまたな、七海」
そう、夢にまで見た女の子との名前呼びでの関係だ。
ちなみにまだ付き合ってる訳ではないので勘違いしないように。
主に俺が勘違いしそう。
その日の夜は、遅くまで七海とRainをめちゃくちゃピコーンピコーンした!
意味深ではない。
健全な連絡のやりとりのみである。
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