第13話 無理して笑うな。

 日も傾いてきた。

 部活生もそろそろ帰る位の時間だろう。


 初めてできた後輩くん、こと峰倉みねくらはバイトがあるようで帰ってしまった。ほんと、あの苦学生を何とかしてやれないものか……


「帰るか」


胎内回帰たいないかいき願望ですか?」


 何でそんなワード知ってるですかね、リリーさん。


「与太郎、羊水に浸りたいのか?」


 そこで話題広げないで、しょう


「たった一言からよくそこまで下ネタに繋げられるな、お二人さん」


 美少女二人から下ネタ責めか……一部の人ならお金でも欲しい状況なのでは? おっと、いけない。


「帰ろう帰ろう」


 危ない性癖に目覚める前に、帰宅せねば。

 階段を降り、靴箱へ向かう。


「与太郎、今日ウチに寄るのか?」


 翔が靴を取りながら聞いてくる。


「んー。いや、今日はウチの手伝いあるからすまん」


 しばし、思考。

 今日は、予約のお客様が数人は言っていた事を思い出す。


 靴箱を出て、校門へ向かう。

 なぜか二人は俺の後ろに来るように着いてくる。


「え? え?」


 俺としょうの何気ない会話にリリーが激しく動揺していた。


「お二人は一体……」


 マズい。何か、すごい勘違いされてないか?


「ん、あ。彼……いや彼女の部屋のであれやこれする仲なだけだ」


「与太郎、お前。前々から馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、ここまでとはな」


「ひぎいいいいいいい(発狂)」


 発狂するリリー。状況説明が下手すぎた俺に呆れかえる翔。もぉ滅茶苦茶だよぉ~。


「ってか聞いてよ、リリーちゃん。こいつ今日まで、ボクのこと男だと思ってたんだぞ!」


 気を遣ってくれたのか話題をチェンジする翔。


「それはヒドいです、与太郎!! 罰として、脱いでください。今ここで!!」


「そうだ!! やらしい身体しやがって!!」


「さっきからセクハラ、エグいな!!」


 なぜか周囲の女性がセクハラしてくる気がする……


 散りかけの花がまだ少し見える桜並木を横目に歩く。彼女たちは俺の後ろで、話を交わしてる。


 いったいどういう気持ちの変化なのか、翔は学校に来るようになった。一番心配していた人間関係の方も、今の様子を見たら心配は無さそう……


「良かった、のか?」


 彼……とはもう呼べない彼女のこと。

 一番の親友と思っていた人物のことを、自分は何も知らなかった。


 その事実が。


 『また幻覚を見ているのか』と、見ている世界への信頼を失わせる。になって……


「与太郎」


 凜とした声に、呼び止められる。


「はっ」


 気付けば眼前には、黒髪の美少女。

 うつむいた俺を覗き込み、彼女は生意気な笑みを浮かべる。


「まぁた、変な笑い方しそうになってる。無理するなよ」


 ミシミシと音を立てていた心が、ふと静かになった。


「……ああ、そうだな」


 返事は、いつも通りにできた。


「ボクは家ここだから。じゃ~ね~」


 いつの間にか、翔の家まで来てしまっていたらしい。立ち去る彼女の後ろ姿えお引き止めにそうになった手は、何とか押さえる事ができた。


「いい子ですね」


 リリーが静かに呟いて、


「あ、あぁ」


 返事にもならない声しか、返せなかった。

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