第12話 力無き理想

 時は戻って、昼休みの大立ち回りを先生に怒られて放課後となる。


「先輩、本当にありがとうございました」


 職員室を出た廊下で、後輩くんこと峰倉みねくらはずっと待っていたらしい。


「いいって、気にすんな」


 頭を下げる少年に、何の気なしに応じる。


「でも助けてくれなかったら、俺は学校に来れなくなってました」


「……まぁな」


 本当に陰湿な奴らだと思う。未成年、しかも保護者すらいない状況の峰倉相手に彼の立場が危うくなるような取り立てするなんて。


「先輩……」


「どうした?」


 傷だらけの少年は拳を握り、


「やっぱ、何でもありません」


 苦しそうに笑った。


「……なぁ、峰倉くん。これだけは覚えとけ」


 余計なお世話でしか無いかも知れない。

 でも、


「『力無き理想は、居酒屋に貼ってあるポエムにも劣る』」


 過酷な人生を送る彼に、生きるすべを身に付けて欲しかった。


「もし君が望むなら、『力』を俺は教えよう。なぁに、心配すんな」


 笑えない人生は、あまりにも寂しい。

 泣いたらその分、笑えるように。


 俺は、全ての不幸を覆す。


「命は奪わない。性癖を粉砕する。そんな力さ」


「……先輩はすごいっスね」


 傷だらけの少年が初めて、心の底から笑ってくれた気がした。


「ちなみに破臀術はでんじゅつって言ってな。全部で八つの型があるんだ」


「は、でん? どう書くんです?」


 小首をかしげる峰倉。


臀部ケツを破るすべと書いて、破臀術だきらーん


「この世の終わりみたいな名前ですね。それに何すか、きらーんって」


 俺のボケに着いてこれるとは、峰倉コイツやるな……


「さっき見せたのは壱の型、『すれ違い通信(意味深)』な」


「任●堂と集●社を同時に敵に回すとは、たまげたなぁ」


 リリーといる様になってからというもの、ツッコミ側に居るのが基本だったから何だか滅茶苦茶うれしい。


「その八つ全てが出来るように、君を調教するからな」


「教えてくれるのはありがたいんですけど、もうちょっと別の表現無かったんすか?」


 ちなみにゼロの型がある事は秘密なんだよなぁ。


「まぁ、何にせよ。大事なモノを守る為に使いなさい。貞操とか」


「最後の一言で台無しですね」


 この『力』がせめて、彼の道行きを切り開く一助となりますように。


 心の中で、静かに願った。


「あ~、ここに居た」


「探しましたよ、与太郎」


 二人の美少女がこちらに向かってくる。リリーとしょう、その二人を見た峰倉が宇宙猫状態になっている。


「どうした?」


「先輩って非童貞っすか?」


「残念、童貞だ(キメ顔)」


「さっすが~きらーん


 この後輩、めっちゃ仲良くなれそう。







 





 

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