第十三巻 あの子の為に


 その時——


 ガチャリッ


 重たいドアが開く音がした。

 次に聞こえた声で、意識が少しだけはっきりとする。


「〝私は……飛び降ります〟」


 まるで言わされているかのような感情のない声。

 薄らと目を開くと、ドアから人形のように歩く紅音べにおに似ているいのうかなか稲生花中だった。

 どうしてここにいるのか。

 どうして元気がないのか。

 目を見れば、すぐにわかった。

 瞳が赤く染まっている——彼女は怪異に呪いを受けている証拠だ。

 すると、俺の首を絞めている女子高生が嬉しそうに行った。


『アノ子ガ七人御先カラ抜ケル為ニ……新シイ人間ヲ迎エナイト』


 ——『アノ子』?


「だれ、か」


 さらに首を絞められ、声がなかなか出ない。

 それでも訴えたかった。


「だ、れか」


 ——彼女を救ってくれ。

 声にならない言葉を誰かが拾ってくれますように。

 グイッと首がさらに締まる。

 もう、死ぬ。


「おめー、情けないなー」


 ヨホロが嗤う。

 ケラケラと嗤う。


「人間の首のマークは、七人御先しちにんみさきのマーキングだろー? あの人間が狙われていたのは、すぐにわかっていたはずだ」

「ぐっ……あっ」

「知恵と力は身につけとけって、母さんから教わらなかったか?」

「はや、ぐ……すげ」


 意識が飛びそうだ。

 カチャッと銃口を向ける音がした。

 俺ごと殺すつもりか?


「じゃーな」

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