第五巻 獄丁って何なん

 たった今、初めて会ったというのに、彼女は恋人と接するように体を寄せてきた。

「チェック柄のリボン、黄金角度過ぎてヤバい。マジ可愛い」俺の目には彼女の豊満な胸元ではなく、リボンに釘付けだ。


「キミ、頭おかしいって言われない?」

「何のこと?」


 彼女の声に我に返る。

 気がつけば、リボンの肌触りを頬で確かめていた。


「まあ、いいや。キミを捕獲できたんだし、これくらい我慢しなきゃね」

「ど、どういうこと⁉︎」


 俺は慌てて顔を引き締める。


「キミ、獄丁ごくていでしょ?」

「ごくてい? 何それ、美味しいの?」


 本当に知らなかった。

 でも、俺の表情は惚けているようにしか見えなかったようで、苛立ったように彼女は押し倒してきた。これまた朝の女子高生のように力が強く、振り解けない。


「馬鹿にしてるの? 獄丁は死んだ全ての生き物を管理する看守のことでしょ。私、獄丁には〝かなりお世話になった〟から、お礼がしたいのよね」

「お礼? も、もしかして」


 こうやって組み敷かれるってことは、


「制服、くれるの⁉︎」

「違うッ‼︎」


 全力で否定された。何だぁケチ〜。


「怪異の噂で聞いたんだけどさ」


 彼女は不気味に笑った。


「獄丁を食べたら、強くなるって本当?」


 そう言う彼女の口から、よだれが垂れ落ちてきた。

 もしかして俺って、今から食されるってこと?

 獄丁でもなんでもないのに?

 普通の人間として真っ当に生きてきただけなのに、それはないだろう!


「俺はごくていっていう奴じゃないし、ただのだよ! 勘違いしないでよね!」

「そんなわけがない。キミからこんなにも美味しそうな匂いがしてんだからさぁ」

「そんなの知らないよ! 君のその変な勘違いで死にたくないんだけど……ま、まさか君は人間じゃないの⁉︎ 誰か助けてー!」


 俺はもがいた。蹴ったら制服が汚れちゃうし、制服を殴ることもできない。


「無理よ。校内を出てからあのバス停までは、私の領域だもの。誰にも邪魔できないわ」

「意味がわかりませんんんんん! ひとまず俺をお家に帰して!」

「まっ、いっか! 君を食べてみたらわかることだし、いただきます〜」

「やーめーてー! 俺はただのなんですぅ!」


 彼女の異様に発達した牙が俺の首筋に向かってきた。

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