第九章 にわか勇者、鍵師になる
9-1
「クレシュの……お、お兄さん? ……が、行方不明?」
彼女に兄がいるとは初耳だった。それ以前に、高祖父だったかが案内人をしていたということ以外、家族の話を聞いたことがない。
「この場合、行方不明ということより、だれが、ということのほうが問題です」
エイシャは重い口調で言った。
「カイエは離反者ですので」
「離反者?」
「彼は村の役目に疑問を持ち、数年前、自らここを去ったのです。ですから、情報源が彼という可能性は大きいかと……」
「でもさー」
クレシュが眉間にしわを寄せて言った。
「記憶は封印したんでしょー?」
「たしかに、封印魔法はかけましたが……」
答えてからエイシャは、ゼノたちのために付け加えた。
「村人であることをやめるときには、村の場所と鍵の在処に関する記憶を封印する決まりになっているのです。部外者に知られて、勇者様の旅が妨害されると困りますので」
「記憶の封印など、解くのはたやすいぞ」
ユァンが老婆の姿になって言った。
「それなりの知識があれば、ちょちょいのちょいじゃ。そんなもの、してもしなくても変わらないんじゃないのかね?」
ゼノの古い記憶をあっさり掘り起こしたユァンの言うことだ、本当にそうなのだろう。
「おっしゃるとおりですね。絶対的な効力はありませんし、形式的な措置と考えるべきかもしれません。……そうなると、ますます、彼である疑いが濃厚になりますが」
ゼノはクレシュを盗み見たが、彼女はそれほど衝撃を受けた様子もなかった。
「定めに従い一定期間の監視をつけていましたが、消息を絶ったのは、その期間が終わる直前のこと。もう少し待てば監視もなくなると知っていたはずなので、いずれにしても想定外の事情があったのではないかと考えられます」
「村を出てから、兄貴は何をしてたのー?」
「各地の遺跡を巡っていたようです。詳細は、監視の任にあたっていたヴァランに聞くといいでしょう」
「……ヴァランかー」
クレシュはあからさまにいやそうな顔をした。
その理由はすぐに判明した。
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