1-3
「──で」
ゼノは、自分の胸の高さにある赤毛の頭を見下ろして言った。
「お嬢ちゃんが……俺の護衛?」
まだ二十歳にもなっていないだろう。肩の上で切りそろえた赤い髪に、濃淡の混じった灰色の目、白磁の肌。だれもが振り返るほどの美貌の持ち主だが、残念ながら評価できるのはそこだけだった。
歩きやすい軽装に外套をはおり、肩に荷物袋をかけた典型的な旅装束。腰の剣は飾りといった態で、その細腕では、はたして抜けるかどうかも怪しいところだ。
「クレシュでーす。どーもー」
終始だるそうな態度で、挨拶するのに目を合わせようともしない。値踏みするようにゼノを一瞥したきり、足元を通過する虫の動きを眺めている。
「こちらは、四つの鍵を代々監視する一族の一人、クレシュ様です。今回、ゼノ様の道案内と護衛をしていただきます」
大神官ネストーレが、さすがに少し申し訳なさそうな様子で紹介した。
「ねー、大神官様。この人、本当に大丈夫なのー?」
クレシュが、あいかわらずゼノを無視したまま老神官に問いかける。
「見るからに弱っちそうだし、暗そうだし、全然勇者に見えないんだけどー」
「心配はご無用です、クレシュ様。ゼノ様は錠破りの天才。難攻不落の城門も、金剛不壊の岩盤も、このお方にとっては障害にもならないはず。あいにく武芸や魔法の才には恵まれておられないようですが、そこはクレシュ様にお力添えいただければ……」
「ふーん、錠破りねー……」
初めてクレシュがゼノの顔をまともに見た。
不思議な灰色の瞳に見つめられて、ゼノはがらにもなくどぎまぎしたが、つぎの言葉でたちまち現実に引き戻される。
「でもさー、これでもう何人目―? あたしだって楽じゃないのよねー。同じとこ何度も案内して、あげく勇者様が敵前逃亡したり、ドジ踏んで死んじゃったりさー」
なにやら、想像以上に過酷な道行きのようだ。
というよりも、これまでの失敗は、このやる気のない案内人のせいではないのか? という疑惑がむくむくと頭をもたげる。
──やばいな。これはなるべく早くとんずらしないと。
ところが、クレシュのほうは急に興味を覚えたらしく、近づいてしげしげ見回したかと思うと、ゼノの肘に腕を絡めてすり寄ってきた。
「まーでも、いままでの勇者様に比べたら、このおにーさんのほうが肝は据わってそうだよねー。いいよ、案内してあげるよー」
「ありがとうございます、クレシュ様。なにとぞよろしくお願いいたします」
二人がなごやかに歓談する傍らで、ゼノは、押しつけられたクレシュの柔らかな体を意識しながら、前途多難な旅に思いを馳せた。
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