第2話

 一郎は『マル』っていうホテルにやってきた。オーナーはスペイン人。『マル』はスペイン語で海を意味する。

 『マル』の基調は米国式だが、意匠の細部に和風のモチーフを取り入れている。様々な洋風建築をてがけた開拓使の後期の建築物として、西洋建築を消化しきった水準を示す。文明開化期に建てられたアメリカ様式の建物として、また開拓使による建築として、現存するものの中で最も重要な建築物である。


 地上2階、地下1階の洋風建築で、地下は石造、地上は木造で、資材は札幌近郊から調達された。このときの各階の面積は、1階が217坪84(522.06m2)、2階が158坪22(522.06m2)、地階が158坪22(522.06m2)ある。1階には正面ロビーをおき、客室4、食堂、ビリヤードが置かれ、背面に突き出たところに厨房、浴室、便所がある。1階ロビーと2階ロビーは二つの階段で通じ、2階には客室4、宴会場、前室があった。地階にはまた別の厨房が置かれてある。食堂、ビリヤード場、宴会場の床は、ダンスパーティーでの利用を想定して、角材を横に並べてボルトで閉じ、分厚い板にしたもので支えられている。また、壁の間に土壁を挿入して防寒を期している。


 外観は壁に白を、その他にウルトラマリンブルーを配したものだ。正面玄関には半円形の車寄せを突き出し、その上を柱で支える半円形のバルコニーとしている。バルコニーの上に小さなペディメントを設け、ここに真鶴町出身の画家・長瀬誠の手による『猫とひまわり』が飾られてある。

   

『マル』の近くには弁天島がある。

 岩海岸(岩海水浴場)の左手にある直径10mほどの島である。波間に浮かぶ岩に聳える松と鳥居があり、背後にはかながわの橋100選に選ばれた岩大橋がある。


 客は一郎を覗いて8人。窪塚隆、長谷川冴子、小門屋真、瀬良収史、橋本健太郎、横井諒、斎藤ヒロ、黒木涼。

 

 1階

 🐳 窪塚、長谷川 

 🦈 小門屋 

 🐚 瀬良 

 🐡 橋本

 

 2階

 🐧 横井 

 🦆 斎藤、黒木 

 🐦 明保野 

 🦚 空室


 宿泊客は9人か。オーナーのアベは満足気だった。孔雀の間だけが空室だが、まずまずの客の入りだ。アベはスペイン語で鳥を意味する。


 一郎は腹が減って仕方がなかった。

 真鶴には水田がなく、北部海岸近くの丘陵にミカンの果樹園が広がる。2000年(平成12年)の販売農家数は44戸で、経済的にも就業構造から見ても農業は微々たるものである。かつては真鶴港・岩漁港からの漁業が盛んだった。真鶴を特徴づける産業は、中世までさかのぼる小松石の採掘である。

 加えて観光業が振興されている。


 荷物を部屋に置いて階段を降りて食堂に向かった。夕飯はビフテキだった。魚料理があまり好きではないのでありがたかった。

 

 

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