ロストハネムーン

天津滝三五

第1話

私はベッドで眠っていた、とても深い眠りで夢を見ていたかすら覚えていない。そんな時優しく頬を撫でられた、懐かしい匂いがして目を開けると彼だった、いつもの様に私の髪を撫でる様にかき分け目を見つめてきた。私は胸が温かくなり彼に抱きついた、もう二度と離したくないといつものように胸に誓う。

「月命日でもないのに帰ってきたの?」

「うん、来ちゃった」

彼の茶焦げた肌から白い歯が浮くようにニッと笑った。ああ彼だ、この笑顔が愛おしい、抱きしめていたい。私達はキスをしてそのままベッドに倒れ込んだ、私が彼のえくぼをつつくと彼はまたキスしてきた。いつもの事、どうせまたすぐに帰ってしまう。10年前、事故で亡くなって以来こうして会いに来てくれる、愛おしい逢せを繰り返したらすぐに消えてしまう

「ねえどうする?」

彼に問われなんの事か分からないでいると、私の後ろから黒い影が現れた

「何あれ」

「悪魔だよ」

「あなた天国に行ったんじゃないの?」

「僕は天国に行ったけど、間違って願いを言ってしまって、君の選択次第では悪魔との契約になる」

「あなたの願いって?」

「君と一緒に居たい」

「それは私もよ、でも・・・」

『契約は成立された』

辺りが黒い煙で覆われ、彼の焦げ茶の肌がだんだんと漆黒へと変わっていき、可愛らしい癖っ毛は直毛へと変わった。

『まだ完全体ではない』

「私のあの人はどこなの?」

『完全なる人間へと戻れたら魂は消滅するだろう』

「それは、私が彼を2度殺したって事?」

『お前達の望んだ体はここにあるぞ、言うなれば生を設けたのはお前達だ』

「でも記憶の中の彼は死んだ」

『いづれ完全体になれば生前の記憶も戻る』

彼の言葉を信じるしかないのか分からず、答えの出ないまま実家を出た。空き店舗となっていた建物に好意で住まわせてもらえる事になり、ひとまず晩を過ごす事にした。真っ黒となった彼が私に覆いかぶさってきた。

『いつもこうしていたんだろ?』

そうして以前の彼の癖をなぞるように手を伸ばしてきた

「あなたはもう彼じゃない」

『だが拒まないんだろう?』

「彼は死んだ」

私は涙が止まらず揺れるベッドの上で泣きじゃくっていた

彼はもう戻れない

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