第34話 エピローグ②

 あの雨の日の後、俺は詩織と春菜に「ごめん。必ず俺自身の責任で、自分の過去と未来をかけて決着をつけるから。決着をつけるという覚悟を決めたから。しばらく待って欲しい」と頭を下げて謝った。


 正直な気持ちだった。


 もし詩織を受け入れたのならば、春菜の事は諦める事になる。それはいい。俺の選択だから。でも、春菜はどう思うだろうか?


 昔俺の事を救ってくれた女の子。その春菜は傷つくだろう。春菜の苦しみを思うと、詩織を選ぶという選択はまだできない。


 あるいは詩織のことを見捨てて、春菜の告白を受け入れるのか?


 ここまで想ってくれる詩織を無残に捨てることは躊躇われた。かてて加えて、俺と同じ不登校の過去を持っていた少女だということが、あの雨の中の三度目の出逢いで強い印象として心に焼き付けられてしまった。


 雄々しく成長したとはいえ、脆い部分も持ち合わせているだろう。その詩織の傷口を再びえぐるようなことはしたくない。


 怒られるか呆れられるか、捨てられることも覚悟しての「猶予」のお願いだったのだが、二人とも「仕方ないわね」とすんなり認めてくれて安堵と、そして言葉には現しきれない感謝をしている。





 そして雨の休日から一週間がたった。


 あの後、詩織は自らの意志で俺の家から出て、少し離れた場所にアパートを借りてそこの一室に移っている。





 朝起きる。寝こけている彩音ちゃんを除いた二人――俺と沙夜ちゃん――で落ち着いた朝食をとり、後片付けをして制服に着替える。


 ――と、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。


 玄関に出向いて扉を開く。


「おはよう、いくと君」


「おはよう。郁斗」


 制服姿の二人の姿が目に飛び込んでくる。


「いくと君。一緒に学校、行こ」


「郁斗。遅れるわ」


 と――


 ちょっと昨日と違う春菜に気付いた。前髪に白いカチューシャをつけていて、髪の色も少し明るく見える。


「あれ? 春菜、ちょっと髪、変わった?」


 素直に聞いてみる。


「うん。イメチェンっていうのかな? 『幼馴染』の春菜もいいんだけど、いくと君には今の『芳野春菜』ももっと見て欲しいって思って、変えてみた」


 にこやかに微笑む春菜。その笑みに俺の心も軽くなる。


「変えたのね、春菜」


 詩織が声を挟む。


「うん。ちょっと変えてみた」


 春菜が詩織の問いかけに明るく答える。


 そして――


 俺は二人と一緒に歩き始める。


 なんやかんやで一緒に国道沿いを進んで、俺の印象に焼き付いた「ききょう公園」脇を曲がり、長い時間を共に過ごしてきた三人で足を進める。


 ふわっと風が吹いて緑がなびき、俺たちの身体を洗い流してゆく。


 その風に答えるがごとく、春菜が晴れた声音で口にしてきた。


「詩織さん。私負けないから」


「そうね。お互いに頑張りましょうと今は言っておくわ」


 たなびく髪を押さえた詩織が丘上を見上げて、俺も目をやる。


 どこまでも青い夏の空が広がっている、登校時の朝なのであった。


――――――――


 ここで一旦終了になります。

 お付き合い、ありがとうございました。

 感謝いたします。

 m(_ _)m。


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幼馴染のことが好きな貴方を、出逢いの美少女が振り向かせてあげる 月白由紀人 @yukito_tukishiro

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