第28話 詩織の告白①

 その日。俺が、騒動の後に登校した日、先に学園に向かった春菜とはクラスで合流した。春菜はいつも通り明るく朗らかで、朝俺の家で乱れた余韻は全く感じさせなかった。


 そして、教室がにぎやかになってからの詩織の登場。俺と春菜がしゃべっている場所にきて、いまだに残る周囲の注目もなんのそので会話に加わる。


 詩織の態度からも、二人に早朝の影響は残っていないと感じさせた。


 朝、家に突然春菜がやってきたときは驚いて困惑してどうなるかと思ったが、詩織の大人の対応と、俺が飛び出した春菜を追いかけてなだめた事で、全て丸く収まった感がある。


 安堵が胸に広がった。


 以前と同じような春菜との他愛のないやり取りと、そこに絡みながらの詩織のアプローチ。


 もしかしたら、二人だけで何かNINEでのやり取り的なものがあって仲直りしたのかもしれない。そんなことがあってもいいと思うほどの春菜と詩織の普段通りのやり取り。


 うん。変わりなく心地よい。


 いつの間にかこの三人の関係が構築されて、安定の三角形を形作っていたのだ。


 『幼馴染』春菜との彼氏彼女の関係を目指していて、詩織にも惹かれて近しく感じながらも、早く春菜と結ばれたいという気持ちに揺らぎはない……と思うのだが、俺も加えての三人でのグループ交際が続くのも悪くはないと思ってしまう俺がいるのも事実だった。





 午前の授業もつつがなく終わり、お昼のカフェテリアに場所を移して、姦しくも仲の良い会話が続く。そんな折、詩織が――


「明日の昼に私の部屋に来てくれる。大事な話があるから。明日は土砂降りで好都合だし」


 少し ん? と思う様な……ちょっと意味深な言葉を発したのだった。


 春菜も聞いているが、その春菜に格別の反応はない。明日は休みだから問題はなく、雨がいいというのはなぜ? と思ったが、「わかった」と安請け合いをして、再び三人で日常の会話に戻る。昼休みも全く全然看過なく過ごした俺たち三人なのであった。





 ◇◇◇◇◇◇





 そして翌日の昼になった。外はドジャブリの雨が降っていて、出かける気分じゃない。お昼の用意をし終えて、そろそろ詩織と約束した時間だなぁ~と階段を上がってゆく。


 詩織の用事とやらはわからない。期末テストが近いからその相談だろうか? と当たりをつける。いつもは春菜の面倒を見ているから、詩織と二人を抱えるのはちょっと時間が取られるだろうが本人にやる気があれば問題ないなと思いながら詩織の部屋をノックする。


「どうぞ」という言葉に従って、詩織の部屋に足を踏み入れた。


 詩織の部屋に入るのは初めてで、少しドキドキする。シックなテーブルと机。ベッドにカーテン。シンプルな室内。全体的に薄ブラウンに彩られた落ち着いた趣に、詩織らしいなぁと一種の感動があった。


 その俺の目の前で、背を向けてすっと立っている詩織。流れるような黒髪がいつも通り印象的で、何故着ているのかはわからないが制服の青も似合っていて。


 初めて放課後の校舎で告白された場面が思い起こされた。


 その詩織がゆっくりと、無駄のない動きで振り返ってきた。


 凛々しくて雄々しくて美しくて。


 映画の主人公の登場場面のごとき様と、その造りの美しさに魅入られて思わず息をのんでしまった。


「よ、用事って、なに?」


 詩織の存在の圧に押されながら、詩織の見姿に目を奪われながら、途切れ途切れに言葉を発する俺。


 詩織はそんな俺を真っ直ぐに身じろぎ一つせずに見つめてくる。


 吸い込まれそうな漆黒の瞳。


 真剣そのもので、笑み一つ浮かべない口元。


 やがてその薄紅色の唇が開かれる。


「貴方のことが……好き」


 一音一音、織る様な旋律に、俺の背筋が震える。


「いや、それは、前からわかってることで……」


「私は本気で貴方の事が好きなの」


 その真剣で揺るぎない抑揚に、息が止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る