第24話 発覚①
翌日。
いつもの平穏な朝。
普段通りの流れの中、俺はこのまま日常が進んでゆくことを疑いもしていなかった、折――
玄関のチャイムが鳴った。
詩織と沙夜ちゃんとの三人での朝食が終わって、今日の食事当番だった俺は後片付けをしていた。沙夜ちゃんは自室に戻っているし、詩織は浴室でシャワーを浴びている。
アメゾンだろうか?
でも宅配の白猫ヤマトが来るのは午前九時過ぎになってからだ。
宣伝勧誘?
でも戸建ての一軒家が密集する新興住宅地区にある我が家には、その類はほぼ来ない。町内会の回覧板だろう、とあたりをつけて玄関に出て扉を開くと――
「おはよう。いくと君」
明るく朗らかな陽だまりの様の声が飛び込んできた。
え? と驚いてドアを全開にしてしまった。
満面の笑み。彩雲学園指定の制服。青のブレザーとミニスカートに身を包んだ芳野春菜が、そこに立っていたのだった。
瞬間、真っ白になった。
何も考えられない。目の前に現れた春菜の存在に、思考が止まっている。そんな俺に春菜が晴れた声を続けてくる。
「おはよう、いくと君。一緒に学校に行こうと思って」
春菜が以前の様に、慣れた感じで玄関に入ってくる。
ちょっとまってくれ!
それはまずい!
何故って、今家には詩織がいるから!
とは言っても、俺と春菜の関係はそれを断れる間柄ではない。詩織と同居を始める前までは、春菜は家への出入りは自由、フリーパスだったのだ。
俺の親たちもそれを知っていて迷惑がるどころかむしろ歓迎しているし、彩音ちゃんと沙夜ちゃんも春菜の事を気にする素振りは全くない。
俺たちにとって春菜は家族同然だし、春菜にとっては幼稚園時代から慣れ親しんだこの家は我が家も同然なのだ。むしろ、詩織が来た為に理由をつけて春菜に遠慮してもらっていた方が異常事態なのだ。
「親戚の気難しい方に挨拶したいな。ご機嫌を損ねないよう注意するから。上がってもいい?」
「ごめん。ダメっ! つーか、マズい!」
「なんで? 私、丁寧に応対するよ」
「ちょっと、今は、ダメっ! お願いだから! 申し訳ないけど家の前の歩道で待ってて!」
春菜がふらっと家にやって来ることは当初は想定していて、警戒もしていた。でも春菜は俺のお願いを守ってくれて二か月間家に姿を見せなかったから、すっかり安心しきっていた。
まずった!
なんとかこの場を切り抜けないと!
と慌てふためきながら春菜を押し出そうとする俺の背中から……
ガラーとスライドドアが開く音がして……
「誰かきてるの、郁斗? 私は何も買ってないわよ」
端然とした女性の声が響いて、俺の全身が凍り付く。背筋が怖気だった。
そして、スローモーションの様な絵がそれに続く。
春菜の笑顔がゆっくりと動き。
その目が驚きに見開かれて、まるで自分が見ているものが理解できないかのごとく、表情が石膏の様に固まる。
空間に静寂が流れ……
世界の時間が――止まった。
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