第21話 グループチャットその2

 その日の夜。夕食は「つかれたでしょ? お兄ちゃん」と沙夜ちゃんが気を聞かせて、かぼちゃカルボナーラパスタを用意してくれた。


 頭が上がらない。素晴らしくよく気が利く甘えんぼの娘さんで、良い意味で汚れていない、世間慣れしていない部分は守ってやらないとなぁとしみじみと思う。


 対する彩音ちゃんは家事は一切やらない(できない)で、パクパク食べ散らかすばかりなのはもうあきらめている。


 食事中、興味津々という様子の沙夜ちゃんにデートの事を色々聞かれたが、詩織とのあれこれを沙夜ちゃんと言えどベラベラしゃべるのはなんだかなーという気持ちだったので、はぐらかした。詩織も、別段何も口にしなかった。


「今日は楽しかったわ。おやすみなさい」と詩織と別れて、自室に入ってベッドに仰向けになる。スマホのNINEグループを起動させた。


 詩織とのデートに関する細々とした事は沙夜ちゃん同様に伏せて、今日こんなことあったんだよー的なぼかした会話を始める。





Aburana:それでその『出逢いの娘』とデートしたんだ


Aburana:私的には『幼馴染』の方がおすすめなんだけどなー


ブクマ:楽しかった?


いくと:ものすごく楽しかった!


ブクマ:いくと君初体験キャッ!


Aburana:こんどは私と二人でいこ


ブクマ:いや今度は私と!


いくと:どうやって行くの? つーか、七年付き合ってもう親友だと思ってるが、実際君たちはどこのだれ?


Aburana:ふふふ……正体不明のいくと君のネット幼馴染なのであった


Aburana:つーかいくと君は幼馴染ともデート行った方がいいって


Aburana:愛想つかされちゃうよ


いくと:それはマズい


いくと:でも幼馴染の許可とってあるしなー


Aburana:もうその幼馴染脈ないんじゃない?


いくと:うそっ! そんなっ!


Aburana:冗談冗談。嘘嘘。私は昔から幼馴染派だから。幼馴染、心中でむきーってなってるよ。どうして私を誘わないのっ! って


ブクマ:幼馴染を誘わないで正解。いくと君のアタックに「どうしよっかなー」とかはぐらかしている女はフラれて当たり前


いくと:幼馴染、「はぐらかして」「フラれる」ってことは、実は俺の事が好き!? ブクマはそう思う?


ブクマ:一例よ一例。いくと君のアピール放置しているんだから、いくと君からお断りしていい


いくと:ふう……


Aburana:どうした、いくと君


いくと:疲れた


Aburana:いくと君にデートは、はやかたか?


ブクマ:そんなことない、もっとドンドン出逢いっ娘攻略を進めるべし


いくと:……


Aburana:どうしたの?


ブクマ:?


いくと:いや、出逢いっ娘も、マジで俺の事が好きなんだってわかって驚いて……嬉しかった


Aburana:……


ブクマ:にっこり


いくと:俺、幼馴染絶対主義者だから困るんだが……


いくと:出逢いっ娘が俺を好きな理由がわからん……


いくと:ひとめぼれ……!? ありえるのか……!?


Aburana:どんなデートだったかわからないけど、そうなんだ……


ブクマ:出逢いっ娘はマジよ。侮ったらダメ





 俺はスマホ片手に大きく伸びをした。


 こいつらとチャットしてると、気が楽になってくる。春菜や詩織は当事者だから、相談するわけにもいかないし、かといって春菜たち以外に近しい友人はいないし。


 だから、ネット上とは言え引きこもり時代を含めて長年付き合ってるaburanaとブクマの存在がとてもありがたくて嬉しく思える。





いくと:ありがとな。少し気が楽になったわ


いくと:俺、お前たちのことマジで気に入ってるから


いくと:お前たちが男だか女だかおっさんだかはわからんが感謝してる


いくと:俺が不登校だった七年前にお前らとネットで出逢わなかったら俺、どうなってたかわからんわ


Aburana:気にしなくていい私も楽しい


ブクマ:七年前はお互い様。運命? 宿命?


ブクマ:そしてそんないくと君には、これ――つ『この夜』


いくと:ライトノベルか? お前ホントにその本好きだな


ブクマ:愛読書よ。なんならネット上で読み聞かせしてあげる


いくと:声がバレるがいいのか?


ブクマ:それはマズいだからここに書いて読み見させしてあげる


いくと:めんどくせー





「いくと」と「aburana」と「ブクマ」の夜は更けてゆく。

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