第10話 グループチャット
夜。自室のベッドに仰向けになっていた。
ここまで、問題は起きなかった。
詩織はずっと部屋で荷物の整理をしていたようで、夕食時に出てきて、今日の食事登板だった俺が作った和風キノコハンバーグを黙々と食して、ごちそうさまと去っていった。
風呂は、俺が最後に入った。アニメやライトノベルにあるようなお風呂イベント的なモノはなく、つつがなく終了した。
彩音ちゃんや沙夜ちゃんとは義理とはいえ家族の仲なのでもう何も特別感はないが、詩織が入ったお風呂を意識しなかったというと嘘になる。嘘にはなるが、拍子抜けと言ってよい程、お風呂には誰も現れなかったし何も起こらなかった。
そして今、詩織の事をどうしようかと改めて仰向けになりながら考えている最中なのだ。
春菜に言おうか、言うまいか。それはともかく、さすがに学園には知られないようにしないといけないよな、と思いながらスマホに手を伸ばした。
NINEのグループチャットを開く。
片手のフリック入力でメッセージを送る。
いくと:……というわけなんだが? かいつまんでてきとうに
詩織、春菜、という固有名詞は出さないで、俺が告白された事と幼馴染と三人でグループ交際的なものに発展したことを伝える。
すぐに返信が返ってきた。
ブクマ:いくと君おめでとう。春ね。その娘のこと大切にしてあげて
Aburana:だめいくと君。女の子に悪さだめ。いくと君にはまだはやい
ブクマ:はやくないわ。「出逢い」は全ての男子女子のあこがれ。いくと君にも天から女の子が降ってきたの。天慶よ
Aburana:いくと君は身近にいる幼馴染を大切にすべき
いくと:うーん……
いくと:やっぱり女の子は幼馴染!
Aburana:そう!
Aburana:いくと君わかってるね。女の子は幼馴染がいいよね。どんどん幼馴染にアタックすべし!
いくと:でもなー
いくと:全然振り向いてくれなくて。本人の前では言わないがちょっとめげるわ
Aburana:その幼馴染だって絶対いくと君のこと好きだって
いくと:なんでわかるの?
Aburana:勘かな? 絶対だって保証する
ブクマ:ちがう男と女は出逢いが全て
ブクマ:aburanaに乗せられちゃダメ
ブクマ:つ『この夜』
いくと:ブクマの愛読書の『出逢いものライトノベル』か……
ブクマ:読むべし
いくと:よんだ。お勧めに従って
ブクマ:泣ける……
いくと:いやいい話だとは思うが……
いくと:それよりこんど三人でオフ会しようぜ。俺たちネットでこうしてもう七年だぜ
Aburana:……
ブクマ:……
二人が押し黙る。
このNINEグループにいるのは、互いに相手を知らない、でもずっと長く付き合っている「俺(いくと)」と「aburana」と「ブクマ」。互いの氏素性は知らないが、長年メッセージをやりとりしていて、かなり突っ込んだ会話も交わしている、ネット上の親友だ。
俺は、学園には仲の良い親友ポジの友人はいないのだが、このネット上の「aburana」と「ブクマ」は俺が引きこもりだったときからの友人で、俺の愚痴や泣き言に時間も気にしないで付き合ってくれた間柄だ。俺は、リアルの春菜同様に信頼しているし、感謝もしている。
現実でストレスが溜まった時、居心地の良い癒しを求めてNINEグループでの会話を楽しむのが俺の日常に組み込まれているのだ。aburanaもブクマも、そんな俺の要求に嫌なメッセージ一つ返さずに応じてくれる。
本当にありがたい。いつかリアルに会って、思い貯めてきた感謝の言葉を直に伝えると心に誓っている。
ふと、昔の事を思い出した。
いじめられて、不登校になって、引きこもっていた時のこと。
あの時は本当に苦しかった。今になったから苦しいという言葉で思い返せる部分が多くある。
大の字になって天井を見上げて目をつむる。
過去がよみがえってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます