番外編〜ハッピーエンドのその先へ〜

「良い両親になりそうね」

俺は急いでいた。

仕事を抜け出し、車で向かっている先は産婦人科。


事の発端は数時間前。

穂乃果の予定日が近いこともあっていつ生まれてもおかしくない状況だった。


遠くはないが出張先にいる間はスマホの着信一つ一つに機敏に反応してしまうほど。

そして、いつも通り仕事をしていると着信が入った。


当然、仕事の手を一旦止めてスマホを確認する。

すると電話相手は母親だった。


「もしもし?」


『穂乃果ちゃんに陣痛が来たのよ。いま産婦人科にいるのだけど仕事抜け出せそう?』


「わかった今から向かう!」


『そう、事故だけは気を付けなさいよ』


至って冷静そうな母親だが、少し声が緊張している。

かく言う俺は今にも心臓が爆発しそうだが。


近くで作業していた矢野さんに声を掛けようと近寄ると。


「早く行ってやれよ」


「……あざっす!」


「今度、子供の顔見せろよ?」


「うっす!」


なにか言う前に察してくれた矢野さん。

男前に俺を送り出してくれた。

作業道具もすべて捨て置き、車に乗り込む。


産婦人科に付いたのは着信が鳴って3時間くらい経過したくらい。

高速でぶっ飛ばしてきた俺は受付に行くと、部屋番号を教えられた。

2階に上がり、奥のほうへ行く。


扉をノックすると返事が返ってきた。


「空いてるよー」


「穂乃果っ!」


「えへへ、産まれちゃった!」


駆け寄って穂乃果の寝ているベットの横の椅子に座る。

腕の仲には生まれたばかりの赤ちゃんがいた。


「女の子だって」


「かわいい……」


目元は俺に似てる気がする。

でも、将来的には穂乃果に似てほしい。


絶対美人になれるからな。


「よく頑張ったな……」


自然と目頭が熱くなってきた。

出産の痛みは男には分からない。

かなりの激痛だと聞くが。


「近くに居てやりたかった……」


出張を断ることは出来た。

さすがの上司も仕事の依頼をしてきた時は遠慮気味だったからな。


穂乃果と各両親と軽く話して仕事なら向かうべきだと後押しされた結果である。

3日間だけだからと油断したのが運の尽きである。


「不思議だよね、この娘がお腹の中に居たなんて……」


「そうよね、私も二人出産してるから気持ちは分かるわ」


「ほら、朝陽くん!抱っこしてみなよっ!」


「お、おう……」


穂乃果の腕の中にいた赤ちゃん……、娘を初めて抱っこする。

想像より軽い。

そして、柔らかくて、軽く力を入れるだけで折れてしまいそうなほどである。


「お、おぉ……」


「どう?自分の娘は?」


「感動……通り越して、親になった恐怖を感じ始めてる」


「わかるっ!自分の娘って思うだけでママになったんだなぁ〜って思っちゃうよね!」


「そしたら、私は祖母よ?もぅ嫌だわ〜、まだおばあちゃんって言われたくないわ〜」


「「ぷっ……!」」


まだ目の開かない赤ちゃん。

いつになったら認識してくれるのか、戸惑いながらもこれからの楽しみの一つになっていくのだろうか。


自然と振り子のように身体を揺らす。

病室の笑い声から一転して、赤ん坊の寝息だけが聞こえてくる。


「そうだ!朝陽くん!名前っ!名前決めたっ?!」


「そうよ、父親としての一番最初で最も大事な部分よ。女の子らしい名前を付けてあげなさいよ?」


「名前……」


かなり悩んだ。

仕事中も余裕があったら考えていた。


名前は一生変わらない。

女の子だから苗字は代わるが、名前だけは一生モノ。

だから、後悔はさせたくない。


「かえで……。木偏に風で〝楓〟にしようと思う」


「日向楓……。うん、いいねっ!明るくてお転婆になりそうなら気がするけどっ!」


「いいんじゃない?両親共に明るい名前だし、連想しやすいわ」


「異議はなしか……。か、楓〜?」


腕の中で寝ている我が娘に呼びかける。

当然、返事はない。


だが、一瞬だけ目が開いた気がした。


「今、目を開いた……」


「えっ!」


穂乃果が立ち上がり覗き込んでくるが、既に目は閉じていた。

もしかしたら気の所為だったのかもしれないが。


「朝陽くんばかりズルい!」


「そんなこと言われても……」


穂乃果の嫉妬口撃を喰らいながらも、視線は楓に向ける。

この子がどんな子に育つのか。

俺らが導かなければいけないんだ。


そんな口論している俺らのことを写真に収め、母さんが穂乃果の両親に連絡を入れた。


『二人の子が無事産まれました。娘のことで二人仲良く口論中です笑』


スマホをバッグに仕舞い、改めて俺らのことを見る。


「良い両親になりそうね」


母さんは感慨深く、自分の子育ては間違ってなかったと思えた瞬間でもあった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



久しぶりの更新ですね。

纏まった時間が取れそうなので、色々と中途半端になってるものの整理をしようと思ってます。

この小説も最後の部分が無理やり感強いので補強しつつ、矛盾点がないか読み直しします。

もし、この話を読んで頂いた皆さんにもう一度読み直して貰い、ここが気になる!みたいな部分があればコメント頂けると幸いです!


まぁ、無駄な話も多いのでなんとも言えませんが…笑




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