「大事な話?」
結局、理央の愚痴がほとんどだった。
杏奈の愚痴は多少の不満はあれど、社会人だったら誰でも抱えているであろうものだったので、働いてる組の共感し合いでしかない。
初音に関して言えば、滝沢が面倒な客だということを認識させられたくらい。
滝沢に自覚はないようだが。
あとは穂乃果の自慢話に俺以外が嫉妬したり、唯一の大学生である啓介の普段の生活を聞いたり。
お腹が空いたであろうノアフランにおやつをあげたりとそれなりに充実した時間だった。
20時を回り、理央が彼氏からの電話で帰らないといけなくなったタイミングで解散する運びとなった。
一応女子としか遊ばないというルールの下での外出だっただけに、杏奈と初音が家まで送っていくとのこと。
滝沢と啓介は一緒に駅まで帰っていった。
「結局DVってなに?」
「穂乃果には縁のないものだからわからなくていいと思うよ」
「ふぅん……。理央の話聞いている限りすっごい依存気味だったけど……?」
「まぁ、間違っちゃいないな……」
DVしようが、されまいが、結局は共依存の関係だったっぽい。
何度か別れ話を持ちかけるたびに別れたくないと泣かれ断ることもできず、もうしばらく付き合うことで毎度DVは収まるが、最終的に元通りらしいし。
無断で同居している家を出た理央が結局心配になって帰宅することも多いらしい。
「でもさー。みんなの話聞いてると私って幸せ者なんだなーって思っちゃった」
「どうしてだ?」
「だってさ、DV?はちょっとわかんないけど、朝陽君に束縛されているわけじゃないし、何不自由なく生活できてるわけでしょ?まぁ、朝陽君と今別れるってなったら私、どうなっちゃうかわかんないけど……」
ちゅっと、穂乃果さんや。
理央のような闇な雰囲気を醸し出すのやめてもらえませんかね?
大丈夫?近くにナイフとかおいてないよね……?
「今は朝陽君の赤ちゃんを身籠ってるわけだし、今の私はかなり幸せなんだよ?」
少しだけ膨れてきたお腹をさする。
服の上からは目立たないが、今一緒にお風呂に入っているので視線を向ければ確認できる。
「楽しみだな」
「うん!男の子かな?女の子かな?」
「正直どっちでもいいけど、早く分かれば助かるな」
「どうして?」
「名前とか、下準備とか。生まれたあとだと外に出かけるのも難しそうだしな」
矢野夫婦の1人目のときは不慣れなことばかりで外へ行くのも一苦労だと言ってたしな。
2人目はノウハウがあるし、心に余裕をもてたらしい。
「育児って怖いよな」
「うん。でも怖いって思うってことはちゃんと責任を感じられていいことだと思うけどなー」
浴槽に二人で浸かっているので、背後から穂乃果に抱き着く。
なにかを察した穂乃果は俺の手を握り締めてくれた。
「二人で乗り越えよう!大丈夫だよ、いざとなったら助けを求められる人は周りに居るんだから!」
「そうだな。……よし、のぼせそうだし上がるわ」
なにか嫌な予感がしたため穂乃果から離れようと腕を退かそうとしたが、穂乃果に拒まれた。
「ダメだよ、今日はソーププレイっていうものをやってみるんだから!」
「ちっ……」
「えへへ!初音ちゃんに教えてもらった技を披露しちゃうぞ!」
「お手柔らかにお願い申し上げます……」
結果、がっつり搾り取られたとさ。
~~~~~~~~~~~~~~
翌日、庭で遊ぶノアフランと穂乃果を横目に小説を読んでいた。
心地よい風が吹き、ページが飛ばされそうになる。
チラっと見えた挿絵にふと思い出した。
「あー結婚指輪いつ渡すかなー……」
婚約指輪は結構前に渡した。
雰囲気もなにもないタイミングだったが、喜んでくれた。
その後、結婚指輪も購入したのだが、これを渡すタイミングを失いつつある。
ほとんどが家にいるか買い物で外へ行くかくらいだったので、完全に忘れていた。
「いっそ、この前みたいに渡すか?」
あ、そういえば、これ!みたいな如何にも今思い出したような感じで渡したからな。
まぁ一種のサプライズだ。
だれが何と言おうとサプライズなんだ。
「でも、結婚してくださいって言うんだぜ?雰囲気は欲しいよなぁ~」
「どうしたの、朝陽君?一人でぶつぶついってるけど?」
「聞こえてたか?」
「ううん、なんか独り言いってるなーくらいで何言ってるかは聞こえてないよー」
「ならいいんだ」
小説を閉じて、体を起こす。
「大事な話?」
「まぁ。俺にとっては大事な話」
「何々?相談乗るよ!」
相談できる相手じゃないんだよなー。
というか、今は結婚してるも同然の生活をしているせいで感覚がマヒしている気がする。
いっそのこと今言っちゃうかー。
ムードもへったくれもないが、俺っぽいだろ。
「………」
「……?」
やっべ、そう考えると無駄に緊張してきた。
横に座った穂乃果の顔をみれねぇ……。
下を向けば、なんだ?みたいな顔をしてくるノア。
遊び疲れたのか、穂乃果の膝のうえで寝ているフラン。
穂乃果に至っては俺の顔を覗き込んでくる始末。
「ちょい、トイレ」
「あ……、わかった……」
あああ、なにか勘違いさせてしまった気がする!
いや、まて冷静になれー!
今トイレで離れていったんだ。
ついでに隠していた結婚指輪を回収しちゃおう。
トイレを通り過ぎ、寝室の本棚の奥に隠していたシンプルな箱を取り出す。
シルバーリングのシンプルなデザイン。
こんなんでもそれなりに値が張ったものだ。
「あとは渡すだけ……。ふぅ、よしっ!」
自然体、自然体……。
「2.3.5.7.11……」
「どうしたの素数なんて数えて?……もしかしてなんか言いづらいこと?」
「いや、まぁ、そうだけど……」
「何でも言ってよ。……覚悟はできてる!」
なんの覚悟だよ!
不安そうな表情のどこに覚悟を決めてるんだよ!
いや、勘違いさせるような行動をしたのは俺だけどさ。
いざ、今やるってなったら誰だって緊張するわ!
「穂乃果、その……」
「うん……」
「「………」」
きっつ。
お互いの無言きっついわ!
えいっ!男は気合と根性じゃ!
「俺と結婚してくれ!」
後ろに隠し持っていた箱を穂乃果に渡した。
いや、手が小刻みに震えてしまっている。
かっこわりぃよ……。
「え……?」
「えっと……。タイミング!渡すタイミングが無くってよ……」
現状を理解できてないであろう穂乃果に必死に言い訳をする俺。
そして現状を理解してきた穂乃果の目から涙が溢れだした。
「穂乃果?!」
「あ、これは……。嬉しくって……!」
「そっか……。じゃあ改めて……」
次はちゃんと面と向かって。
涙で視界が歪んでいる穂乃果。
だが、表情は嬉しそうである。
「俺と結婚してください」
「はい、不束者ですがよろしくおねがいします!」
穂乃果の指に結婚指輪を嵌める。
それと同時に鳴り響く正午のブザー。
『クゥーン』と鳴く、お腹の空いたノアの鳴き声。
「えへへ……。ムード台無しだね……」
「だな……」
「よし、ご飯にしよっか!」
「今日はなんだ?」
「やきそば!」
「鉄板だな」
「うん!そして、急いで化粧しなくっちゃいけなくなっちゃった!」
「どうしてだ?」
「それはね……」
サンダルを脱ぎ捨て、リビングの棚から一枚の紙を取り出してきた。
オモテには婚姻届と書かれ、半分は埋まって印鑑まで押してあった。
「市役所に提出しないと!」
「今日日曜だぞ?」
「婚姻届を提出するのはいつでもできるんだよ!だから、これ朝陽君書いてて?」
「わかった」
「じゃあ、ご飯の準備してくるね!あ、ノアとフランはもうちょっとまっててね!」
パタパタとキッチンへ走っていった。
目尻に若干の涙が溜まってた気がするが、気づかなかったことにする。
「よし、お前らも足拭いてご飯にするか」
二頭を抱き上げ、足を吹いてゲージに入れる。
ノアは不満そうだが、フランは寝床に一直線。
2頭のご飯の準備をし、与えた。
「穂乃果ー、ボールペンどこー?」
「右の棚の一番上に入ってないー?」
「あ、あったわ」
しかも丁寧に婚姻届け用っていうボールペンだし。
俺は普段より丁寧に時間をかけて婚姻届けに必須事項を記入していく。
「朝陽君、それ書き終わったら食べてねー?私お化粧してくるから!」
「了解」
エプロンを投げるように椅子にかけ、寝室のほうへ駆け込んでいった。
婚姻届けを書き終え、準備されたやきそばを食べる。
「うまいなー」
市販のものなのになぜこんなにおいしく感じるのか。
普段食べるものより一段と美味く感じる。
「でも、なにも変わらないんだよなー」
日常が日常である限り、この生活は毎日続くのだろうか。
いや、続くように努力しなければいけないのだろうな。
「朝陽君ー!」
「なんだー」
「洗面台からアイロン持ってきてー!」
「ちょっとまってろー」
そして、俺は笑っていることに気づいた。
「こういうのを幸せって言うんだろうな」
食器を片付け、洗面台にアイロンを取りに行く。
「どうか、なにもない幸せな日々が続きますように……」
鏡の奥にいる自分に語り掛けた。
~~~~~~~~~~~~~~
ある意味一区切りつきました。
話を分ける予定でしたが、中途半端すぎて……。
無理矢理感ありますが、概ね予定通りです。
そして、終わったかとおもうでしょうけど、もうちょっと続くよ。
蛇足っぽくなるかもしれないけど……。
展開が早すぎると思いでしょうけど、作者も思います!
何話か続いたあとは本当の時系列バラバラな蛇足でもチマチマ書いてみます。
その間になにかラブコメ系の新作考えときます。
いまが絶好のアピール時期だと思うので!(笑)
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