「女に飢えてるらしい」

「朝陽、合コンがしたいんだ!!」


金曜の夕方、仕事終わりに会社へ寄って報告書を提出しに戻った際、新入社員の教育係になっていた滝沢と顔を合わせた。

出会い頭に会社の休憩室に呼び出されたので、報告書だけ提出をしてから向かう。


そして、開口一番に出会い厨が発動した。


「は?」


「いや、今年の新人6人いるだろ?」


「しらねぇよ。6人なのか?」


「そうそう、6人。んで、内1人が事務関連に配属されると思われる女の子なんだけどよ!かわいいのよ!」


「あっそ」


自販機でコーヒー缶を買い、穂乃果に滝沢に捕まったから遅くなるかもと連絡を入れる。

ケツポケに入れたスマホが震えたので穂乃果からの連絡が来たのだろう。

穂乃果のことだから遅くならなければ問題ないと結論付け、もし飲みに行くことになりそうなら追って連絡することにした。


「んで、それがどうして合コンしたい話になるんだよ?」


「だって、女の子は彼氏いるらしいし、新人5人全員彼女いるらしいぜ?まぁ嘘ついてるかもしれないが……!」


缶コーヒーを一口飲む。

口の中に広がる微糖に眉を寄せた。


「間違って微糖にしちまった……」


「聞いてっか?」


「聞いてる聞いてる。新人が彼氏彼女持ちで羨ましいから俺も彼女ほちぃ!って感じだろ?」


「なんか言い方うざいが概ねその通り!だからお願い!朝陽は顔広いだろ!それに奥さんの穂乃果さんだって美人だし交友多そうだもんな!」


まぁたしかに異性との交友も広いと言えば広い。

まぁ連絡とってないやつがほとんどだし、なんなら何人かはすでに結婚してるはずだし。


そこで、ふと明日土曜のことを思い出した。


「あー、そういや、明日穂乃果の友達が飲みに来るらしいんだけど、滝沢も来るか?俺と俺の腐れ縁の男の二人で気まずいから来れるなr……「行くっ!!!」」


一瞬で食いついたわ。

タイミングもあるがどうして俺の周りの男は女に飢えているのだろうか……。


明日のことは追って連絡することを伝えて、帰った。

滝沢はこれから散髪の予定を入れるらしい。


会社を出てすぐ、丁度出張に行っていたはずの所長と顔を合わせた。


「おつかれさまです」


「お、朝陽か。丁度いい、来週の月曜時間あるか?」


「一応今の現場は落ち着いたんで大丈夫だと思うっすけど、なんかあったんすか?」


「来週の月曜に新人を現場に連れてこうと思ってたからよ。矢野もいるし丁度いいから朝陽が1日教育してやってくれねぇか?」


「あー、そういうことは矢野さんに確認とってください。俺は大丈夫っすけど、矢野さん次第ってことで」


「わかったわ。あとで矢野にも話通しとくわ。わりぃな、引き留めて」


「大丈夫っす。では、お先に失礼します。お疲れ様っす」


「おう、気ぃ付けて帰れよ。奥さんと仲良くな~」


車に乗り込み、スマホを助手席に投げた際にロック画面に穂乃果のLIMEが表示された。

概ね予想通りの返信だったので、既読を付けずそのまま帰路についた。



~~~~~~~~~~~~~~



玄関の鍵を開け、家に入る。

リビングの扉を開けるとふくれっ面の穂乃果が立っていた。


「むふぅ!」


「ど、どうした?」


いかにも、私怒ってます!って雰囲気だ。


「既読!つけてない!」


LIMEのトーク画面をみれせけられた。

たしかに既読が付けてないが、怒るほどだろうか?


「なにかあったかと心配したんだよ!」


「あ、そういうこと……。わりぃ、全然そんなことないわ」


「ぷくぅー!今度から絶対既読はつけること!返信は求めてないけど見たっていう安心感は頂戴!」


「す、すみませんでした……」


素直に自分の非を認め、謝罪をすればすぐに機嫌は収まってくれた。

お風呂に一緒に入る約束をさせられたが、それくらいなら問題ないと思う。


準備されてた夕食を温めてもらい、すぐに食べれるものを摘まんで主食を待っていた。


「おまたせ。それで、滝沢くんと何話したの?」


「ああ、そのことで相談があるんだ。明日、滝沢も誘っていいか?」


「あ、明日のこと?いいよ!なにがデリバリーする予定だったからちょっと量をおおくするだけだしね!」


「なんか女に飢えてるらしい」


「滝沢くんって仲のいい幼馴染いるんじゃなかったの?」


「あいつ鈍感だから気づかねぇんだろ?どうせ、今日帰ってばったり出くわした幼馴染に明日のこと喋って不機嫌にさせるとこまでなんとなく予想出来るわ……」


「あー、解釈一致かもしれないね……」


穂乃果はあんまり食欲がないらしく、先に摘まんでお腹が満たされているらしい。

緑茶を飲みながら油淋鶏を食べる。


「じゃあ、明日は私の友達が3人と朝陽君の友達が2人の合計5人集まるんだね?」


「そうだな。時間とか決まったのか?」


「14時くらいがいいってみんな言ってた。女は準備に時間かかる~って嘆いてたし。他の男もいるなら手を抜くなんてしない!って言ってた」


穂乃果が俺のことを自慢しまくっているせいで俺より俺のことが詳しくなりつつある穂乃果の友人達。

俺のことをすでに穂乃果に捕まった囚人として捉えているらしく、あまり男として意識してないとか。


失礼にもほどがある。


まぁ事実でもあるが……。


「てことで、午後から集まるから午前中に朝陽君と行きたいところあるんだ!」


「行きたいとこ?」


「そう!えーっと、たしかここにしまったよな~」


小棚に入れていたものを取り出した。

一枚のチラシが俺に渡される。


「新生活キャンペーンとかで子犬子猫の販売してるんだって!見に行こう!!」


「欲しいって言ってたもんね。いいよ、行ってみようか?」


「やったー!ウキウキわくわく!」


「かわいいかよ……」


少女っぽく嬉しそうに跳ね回る穂乃果を見てついにやけ面になってしまう。

買いたいって言ってたし、生活も落ち着いたから問題ないだろ。


「朝陽君に渡されている生活費もこの時のためにやりくりしてるからご縁があったらお出迎えしてあげたいな~」


「じゃあ、いろいろと準備しないとな~。なにが必要とかまとめとけよ~?」


「もちのろんだよ!えへへ、子猫ちゃんかな~。子犬ちゃんかな~」


「楽しそうでなによりだ」


残った油淋鶏と缶チューハイを1本飲みながら、穂乃果を鑑賞しつつ時間を過ごす。

何気ない毎日だが、こうしている時間が一番幸せだと噛み締めながら。




「朝陽君は『俺の子猫ちゃん、今日も可愛がってあげるからね☆』みたいなこといって浮気したら許さないからね?」



俺は唐突に爆弾を放り込んで来た穂乃果に飲んでいたチューハイを吹いてしまった。





~~~~~~~~~~~~~~




やっばいことに気づいた。

婚約指輪の話やってねぇことに。

時系列的に2月にやろうとおもってたのに……。

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