「私頑張るよ!」

引っ越してから1か月半が過ぎた。

4月に入り、温かい陽気に照らされながら仕事をしていた。


「ねみぃぃ……」


「こってり搾り取られたのか?」


「そうなんすよ……。なんで女性って性欲あんなに強いんすかね?」


「さぁな。まぁ夫婦円満なんだからいいだろ……?」


仕事パートナーである矢野さんと昼休憩をしている。

穂乃果の作った弁当とコーヒーを飲みながら木にもたれ掛かる。


スケジュールに余裕が出来てきた最近は定時に上がることが出来ており、基本は直行で家に帰る両者。

しかし、今日は家に帰るのが気まずいらしく、原因は真由美さんと喧嘩したことのようだ。


「それにしたって矢野さんたちが喧嘩するとは思わないっすよ……」


「そう思うだろ?……いや、俺が悪いんだけどさ」


喧嘩の原因は水曜日は夫婦の時間を作る日なんだという。

真由美さんもその日だけは子供をさっさと寝かしつけ、21時からイチャイチャする時間らしい。


だが、昨日がその日だったのにも関わらず、子供たちと一緒に爆睡したらしい。

起こしたが起きず、結果、朝起きたら拗ねた真由美さんが白米の弁当だけを準備していたらしい。


弁当をつい見てしまった矢野さんは文句を一言告げると真由美さんが爆発した。

真由美さんにとっては大事な夫婦の時間だという。

それをないがしろにされた上に、謝りもしない夫に腹を立てるのは当然ともいえる。


「まぁケーキとか買って機嫌を伺うしかないっすよ。今日帰るの気まずいからって飲み行く方がより一層機嫌悪くするっすよ?」


「そう思うか?……そうだな、そうするわ」


「一応聞くっすけど、ちゃんと謝ったんすよね?」


「……。謝ってねぇ……」


「あほぉ!!はよ謝ってください!今すぐ!電話じゃなくてもいいんで!」


LIMEのチャットで一言ごめんねをいうだけである。

しかし、トーク画面で止まっている矢野さんに俺は呆れてしまった。


「じゃあ午後の仕事始まる前に謝りましょう。そうすれば仕事のせいにしてチャット見れなかったって言い訳できます。真由美さんもそのあたりは怒っていても寛容的でしょ?」


「そうだな、そうするわ」


「普段は頼りになる親分肌なくせに真由美さんのことになるとこんなに消極的になるんだか……」


「仕方ねぇだろ、尻に敷かれてるんだから。それより相談なんだけどよ、おいしいケーキ屋って知ってるか……?」


「あー、穂乃果に聞いてみます」


俺は穂乃果にLIMEを入れると一瞬で既読が付き、数分待つと数件ほどおすすめの店のURLが送られてきた。

それを一軒ずつ観覧していき、最終的に真由美さんの好きなフルーツタルトがおすすめのケーキ屋に決めたのであった。




~~~~~~~~~~




「ってことがあってよ」


「あの夫婦が喧嘩するなんて……。真由美さんにとって夫婦の時間は大事なんだね?」


「まぁ子供出来ると自分たちの時間なんてないようなものだろうしな」


夕食を囲みながらお昼にあった話を穂乃果に聞かせた。

というか、聞きたそうにしていた。


「私たちも夫婦の時間作ろうね?最初は子育てに苦戦するかもだからあんまり余裕はないだろうけど、それでも水曜と土曜は二人の時間は作れるようにするね!」


「そうだな、二人で頑張ろうな」


「うん!私頑張るよ!」


3月は体調が悪い日が続き、寒いのも相まって風邪を引いた穂乃果。

ようやく治り、今週は元気な穂乃果で俺は安心している。


「頑張りすぎてまた体調崩すなよ?それより、今日病院どうだったんだ?」


「問題なし!安定期はもうちょっと先だから体調には気を付けてくださいだって~」


妊娠してから約5か月目くらいまで流産の可能性があるらしい。

それを過ぎるとようやく安定期と言われるものがくるらしい。


このへんは両親のほうが詳しく、定期的に連絡を取り合ってるようだ。


「そういえば、朝陽君に相談したいことあったんだ!」


「相談?」


「今週の土曜日家に成人式で会った友達呼んでいい?」


「いいよ。誘われたの?」


「子供出来たら気軽に遊べなくなるかもしれないし、新入社員の愚痴聞いてほしいんだって~」


そういえば4月だから新社会人が増えた気がする。

田舎でもスーツを着た若い男が電車から疲れた顔で降りてくるのを見ると懐かしく思った。

今年俺らの会社にも新入社員が入ってきたがまだ研修期間なため現場工事を担当している俺らは顔を合わせたことがない。


「あー、3年目ともなると教育係にされてもおかしくないもんな~」


「朝陽君のとこは新入社員どうなの?」


「俺はまだ顔合わせたことねぇわ」


「そうなんだ?楽しみ?」


「まぁそれなりには」


残り少ない夕食を一気に食べきり、洗い物を済ませる。

簡単な家事くらいならできるようになったし、家にいるときくらいはよっぽど疲れてない限り手伝いをすることにしている。


それが当たり前だろ、と思っているだろうが、その当たり前が割と難しい。

なにかきっかけでもないとやろうと思わないし、やったところで邪魔にしかならない。

やっても怒られ、やらなくても怒られるならやらないほうがいい。

それが男の考え方だ。


「3人ほど遊び来たいっていってるけどいい?」


「いいんじゃね?俺も男一人だと気まずいし啓介でも誘っていいか?」


「お、いいじゃん!啓介くん元気かな?」


「たぶん元気だろ。正月のときはある意味げっそりしてたけどな」


正月早々課金して爆死したってSNSで言ってたもんな。

正月以降会ってねぇから久々に会いたくなってきたわ。


LIMEで今週の土曜空いてるか確認を取るだめにチャットを開く。

だが、それと同時に啓介からLIMEが届いた。


『合コンがしたい!!!』


俺はそっとLIMEのタスクを切った。





~~~~~~~~~~~~~~




数話ほどほのぼの回の予定。

もしかしたら割と人気キャラの滝沢くんも現れたり……?




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