「穂乃果の爆買いだったな」

お昼までリビングの家具配置を試行錯誤し、お昼は初めてのダイニングキッチンでうどんを煮て食べた。

アパートのキッチンより倍以上広く、物が多く収納出来たこともあり、鍋を何処に締まったのか忘れ、探すのに少々手間取った。


「やっぱり広いと料理しがいがあっていいよね!」


「違うものか?」


「全然違うよ!まず、お皿とか置く場所があるから一々片付ける必要なくなるし。そもそも、仕分けしやすいからしっかり場所さえ覚えれば嵩張らなくて済む!」


たしかにアパート時代はなにをするにもワタワタしていた気がする。

別な鍋を使わないといけない際、使い終わったフライパンなどを退かすために洗う作業が合間に挟まったりして忙しそうだった気がする。


「朝陽くんがお茶をよく飲むからすぐに出せるように収納箇所1箇所占領してたかんだよ?」


「そこまでしてたのか?」


「そうだよー?彼氏想いでしょ?」


食後のコーヒーを飲みながら小休憩を楽しむ。

疲労が溜まっているので少し甘めのカフェラテ。

久々に飲むと美味しく感じるのは何故だろうか?


休憩を終え、仮置きのダイニングテーブルで汚い部屋をどのようにするか、コピーした間取り図を見ながら少し考える。

穂乃果の希望に沿って、必要なものなどもメモを取りながら案を出していく。


「やっぱり、カーペットは買わないとね~」


「まだキレイだったから持ってきたカーペットでも、部屋が広すぎて小さく見えるしな」


「捨てるのはもったいないからクローゼットに締まってよ?」


「りょーかい」


ちなみに家具類を買う予算は決まっている。

少しくらいならオーバーしても構わないが、なるべく予算内に収めたいところだ。


「こたつはどうする?」


「2人用だったから小さいし、買っとくか?アウトレット品とかで安くなってないかな?」


矢野夫婦がアウトレット品のセールをやってる広告の写真をLIMEで送ってきた。

穂乃果が拡大して、販売店舗を確認する。


「ここからだと20分くらいだと思うから、お父さん達きたらみんなで行かない?」


「そういや、何時に着くんだ?」


「お昼をこの辺りで食べてから来るって言ってたからもうちょっとじゃない?」


今日は氷野家両親が手伝いに来てくれることになっていた。

夜に俺の親と弟も合流し、一緒に家でご飯を食べることになっている。


だから、最低でもダイニング周りは整理したいところである。


「あと30分くらいじゃない?親が来る前にコップとか片付けちゃうね?」


「お願いするわ。俺は今は必要ない段ボールを寝室に置いてくる」


「怪我しないようにね~」


お互い自分の作業を確認し、穂乃果の両新が到着するまで片付けに勤しんだ。





◇◆◇◆◇◆◇





「想像以上だったわ……」


穂乃果の両親が家に到着し、一通り家の内外を見て回った感想だった。

穂乃果の過剰な説明だと思っていたらしく、本当はもうちょっと狭いと思ってたらしい。


まぁ、たしかに誰だってそう思うだろう。

俺だって、こんな広い家を買えるなんて思ってもなかったからな。


「朝陽君!君はすごいよ!」


「あ、ありがとうございます……」


お義父さんに背中を叩かれながら、褒められた。

嬉しさより痛みのほうが強く、なぜかお義父さんの目尻には涙が溜まっていた。


「やっぱり男は家を買ってなんぼだよな……!昔と違って物価高だから正直狭くても買っただけよかったと思っていたが……!」


「俺も会社関連でたまたま知り合った不動産の店長におすすめされたんですよ」


「顔が広いのはいいことだ!うん、さすが義息子になる男だ!」


再び背中を叩かれる。まじで痛い。

手加減されていないのがよく伝わってくる。

まぁ、かなり喜んでくれているので、我慢するがっ!


「もぉお父さん!朝陽君痛そうにしてるでしょ!」


「そうか?そうだな、悪かった」


「いや、お気になさらず。本当によろこんでもらえているようでよかったです」


キッチンからお茶ともってきた穂乃果が制止してくれたおかげで叩かれるのは収まった。

全員椅子に座ってお茶休憩である。


「それで、穂乃果。買うものは決まってるの?」


「まだなにが必要か決まってないんだ……。だからアウトレット品見に行きたいからお父さん乗せてって!」


「構わんぞ。どこまでだ?」


「えっと、ちょっと遠いけど、ここから2つ離れた町?」


スマホの公式サイトを提示する。

俺とお義父さんで位置を確認し、買い物へ行く準備に取り掛かった。


「朝陽君、運転するかい?」


「いいんですか?」


「ああ、このときのために保険を誰でも運転できるようにしておいたんだ!もしも娘が免許を取った際に渡してもいいようにね」


車のキーを渡され、断るのも失礼にあたりそうなので、運転することに。

ワゴン車はかなり広く、座高も高い。

会社の車を運転しているような感覚だった。


「うお、ブレーキすごいっすね……」


「慣れない車だと余計にね。安全運転でいいからね?」


「うっす。じゃあいきます」


全員乗り込んだことを確認し、いざ、アウトレットショップへ!




◇◆◇◆◇◆◇




「安かった!」


「穂乃果の爆買いだったな」


「予算考えて、買ったからよし!」


「余るとは思ってなかったわ」


「節約だよ!」


大よそ80万くらいの買い物で済んだ。

ベッドやマットレス等、冷蔵庫、こたつセットにカーペットなど必要そうなものをとりあえず購入。

後日、組み立ても込みで配達してもらうことに。


「正直、お父さんは驚いたよ。迷わずに買うんだね?」


「まぁないと困るものだったので。一応予算は100万だったんで、むしろ安く済んだ方っすわ」


「お母さんや、私たちはなにを買ってあげればいいと思う?」


帰りはお義父さんの運転だ。

お義母さんは買い物をしたレシートを見ながら、少し悩む。


「今時、タンスを渡したところであまり使わないものね。クローゼットもかなり広いようだし、衣装室もあったことを考慮するならば、別の案を考えないといけないと思うわ」


「そんな祝儀だってもらっているので、なにもいただけなくても大丈夫ですよ!」


「そういうわけにもいかないのよ~。娘が嫁にいくのだから、祝儀とは別に渡したいものよ?それならテレビなんてどうかしら?」


昔の風習だから拘る必要はないとわかってるのだけどね~。と言うお義母さん。

お義父さんも頷いているあたり、礼儀として弁えているのだろう。


「あ、テレビほしい!おおきいやつ!」


「朝陽君がテレビでよければ、今買いに行きましょうか?」


「……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」


穂乃果は実の両親なので遠慮なく物欲を申す。

今使ってるテレビは多少古いので、買い時だね~と話していたのは年越し前である。


「じゃあ電気屋に行こうか。好きなの選びなさい」


「やった!朝陽君、選んでいいよ!」


「ええ……」


「遠慮しなくていいのよ~?」


さすがに遠慮するなってのは厳しくないですかね??




◇◆◇◆◇◆◇




結局穂乃果の希望に沿って60インチのテレビをカード一括で支払っていた。

テレビは持って帰れたので、そのまま受け取る。

その他、割引が聞くというのでテレビ棚も購入。

こちらは明日に届くようにお願いした。


途中でスーパーに寄り、夕食の材料を調達。

俺の両親も集まって、顔合わせ以来の食事会である。


穂乃果が一人で作るので、張り切っていた。


「よし!やるぞ!」


「なんかあったら呼んでくれ」


「わかった!でも、大丈夫だと思う!」


「そうか?まぁ近くにはいるからな」


家に帰ってきてすぐ穂乃果はキッチンへ立った。

俺はすこし部屋の片づけ。

お義父さんたちは再び町へ買い物に行った。


キッチンからリズミカルな音が止まったり、IHの音声が聞こえたり。

俺は料理音をBGMにテーブルまわりの整理を行っていた。


途中で、穂乃果がなにかを思い出したかのように、声を掛けてくる。


「そういえば朝陽君、今日言っていいの?」


「ああ。そのために今日集まってもらったからな。あくまで新居披露って名目だが」


「披露なのに掃除終わってないっておかしいもんね」


「まぁ、それは情けない話だけどな……」


「ふふ、じゃあご飯終わったら楽しみだね!」


「ああ~、なんか緊張するよ……」


俺、ぶん殴られたりするだろうか……。


いや、それはないな。

だって、顔合わせの際に『初孫はいる?!』と問い詰められたからな。

まだ出来てません……、とかいったらぶん殴られそうだ。


「ふふ、どういう反応するかな?」


「お祭り騒ぎじゃねぇか?」


「なんか目に浮かぶな~」


そして、穂乃果の想像は的中するのであった。






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