「先輩ママに任せなさい!」

穂乃果が妊娠したと分かったが、日常が大きく変わることはなかった。

多少の変化はありはしたが、変わったことといえば朝陽が積極的に家事の手伝いをするようになったことだ。

だが、基本的に忙しい身である朝陽があまり手伝える時間を作れてないのも事実。


帰る時間が多少早くなったくらいでは特に大きな変化はなかった。


そして、数日が経過すれば待ちに待った引っ越しの日である。

朝陽と穂乃果は新居のほうへ移動していた。


「楽しみすぎていっぱい寝ちゃった!」


「体調は大丈夫か?」


「うん!いつも通り微熱っぽいけどこれが通常みたいなものだし無理しなければ問題ないよ!」


「ならいいけど、無理だけはするなよ?」


車から降りて玄関の前に立ち、鍵を開ける。

視界に映るのは既に運び込まれた段ボールの山々。

これを片付けていくのは骨が折れそうだ。


「うわぁ……。これ整理するの……?」


「そうだな。引っ越しがあるからちょっと急いで仕事したこともあって疲れが残ってるし、怪我しないように気合入れ直さねぇとな……」


「みんなでがんばろ!整理しちゃえばキレイで広いお家なんだから!」


「まぁ二人で使うにはまだ広すぎるけどな」


「いいの!家族は増えるものだしね?」


穂乃果がお腹を触って優しい声音で告げる。

朝陽も釣られるように視線を穂乃果のお腹へ向けた。


「そうだな……。とりあえず、矢野さんたちが来る前にある程度片付けるか」


「そうだね!じゃあ荷物運びお願いね?」


「おう。仕分けは頼むわ」


玄関で靴を脱ぎ、一歩目は穂乃果が踏み入った。


「あ、ふふ。朝陽君にちょっとだけお願いがあるんだけど?」


「どうした?」


靴を脱ぎかけのままだった朝陽に声を掛けた穂乃果。

なにか車に忘れ物でもしたのだろうか?


「ちょっと玄関から入ってくる工程をもう一回やってくれない?」


「ん?出入りするだけか?」


「うん!お願い!」


「わかった」


靴を履き、一旦外へ出て一呼吸おいて再び玄関を開ける。

目の前の光景は変わっておらず、唯一穂乃果がたっていたことくらいだ。


「おかえり、朝陽君パパ!」


「っ!……ただいま、穂乃果」


「えへへ、言ってみたかったんだよね~!」


いつも通りのはずなのに、新鮮味があった。

朝陽が父親になるということも含めて今日から日常が少しずつ変わり始めるんだと思い知らされた一コマだった。




◇◆◇◆◇◆◇



午前中は軽い衣服関係の段ボールを寝室予定の部屋に持ち込み、穂乃果が仕分けていく作業でほぼ終わった。

矢野夫婦に昼食を買ってきてもらうように事前にお願いしていたこともあって、お昼はみんなで食べた。


少し食後の休憩を取り、俺と矢野さんは重いものを持つ準備を始め、穂乃果と真由美さんは子供たちの世話をしながら部屋の片づけが進んでいく。


「それで、朝陽君とはどうなのよ?」


「どうって、そんなに変わってませんよ?家事の手伝いはしてもらってますけど、日常は変わらないですね」


「まぁそんなものよね。うちも最初はそうだったわ~」


視界に子供たちを入れながら衣服類を纏める二人。

寝室の外では朝陽と隆司さんが荷物を運び入れる掛け声が聞こえてくる。


「それより、結構大事なことなんだけど、性欲処理はどうしてあげてるの?」


「えぇ?!朝陽君は我慢するって言ってましたけど……」


「ダメよ!私の友人で結構いるんだけどね?子供出来たから我慢してもらってると浮気しやすくなるし、仮に我慢できてもその後はレスることが多いのよ?」


「う、浮気はダメです!」


「でしょ?だから、どうしてるのかなって思ったわけですよ」


事前に運ばれていたタンスへ服を仕舞いながら真由美さんが話を続ける。

穂乃果は手が止まった。


「でも、どうしたらいいんですか?」


「口でしてあげるとかでいいんじゃない?さすがに本番は出来ないけど、ヌイてあげるだけでも変わるものよ?……わぁ、大胆な下着だね」


「ちょっと!恥ずかしいのでその段ボールは見ないでください!」


「いいじゃない、女性同士なんだから。なんなら、3月に旦那たちは出張あるみたいだからパジャマパーティでもしましょうよ!」


穂乃果は恥ずかし気に段ボールを回収し、部屋の隅っこへ移動させた。

真由美さんに笑われながらも、話の続きをしながら片付いてきた段ボールを見て続きを行う。


「でも、性処理はしっかりしてあげたほうがいいわよ?結構大事なコミュニケーションだからね。特に結婚前なんだし、大事で大変な時期だからね」


「真由美さんも似たような経験が?」


「私より先に結婚した友達がいたから相談されたりして結構知ってたんだ。なんなら子供が出来て浮気されたっていう友人のほうが多いくらいよ」


「そうなんですね……」


「朝陽君だから大丈夫じゃなくて、私たちが支えてあげなくちゃいけないものよ。これからは穂乃果ちゃんが体調崩したりして大変になるけど、その分、朝陽君だって仕事による疲労と家庭内の事情で精神的にストレスがたまることになると思うし」


真由美さんも1人目のときは同じ苦労を隆司さんにさせていたっぽい。

やはり1人目は大変らしい。

慣れない体調の変化や気を遣わないといけない相手がいたりと、どうしても周りを優先するばっかりで自分のことを後回しにしてしまいがちだと。


たしかに朝陽君には数日とはいえ、かなり気を遣わせたのは事実。

普段より早く帰ってこようとしてくれているし、いつも笑ってくれている。

それが当たり前になってしまっていた。


「まぁ気を張ってても仕方ないわ!とにかく性処理くらいはしてあげることね?口でも手でも、やりようはあるわ。経験はあるでしょ?」


「ありますけど……」


「じゃあよし!毎日じゃなくとも、週3くらいでやってあげるのがおすすめ。あとは適度に二人の時間を取ること!」


「わかりました、ありがとうございます!」


「いいのよ、かわいい後輩ですもの!先輩ママに任せなさい!」


そういって、穂乃果は止めていた手を再び動かし始めた。

真由美さんも子供たちも眠たげに泣き始めたので、寝かせるために抱っこして落ち着かせることに専念した。


「真由美!ちょっと手伝ってくれ!」


「わかったー!今行くからちょっと待ってて!」


ちょっとして寝かしつけた子供たちを簡易ベッドで寝かせ、片づけをしていると居間のほうから声が掛かった。

真由美さんが呼ばれたので、穂乃果は子供たちの様子を見ておくことに。


そっと顔を覗き込んでみる。

うっすらと真由美さんの面影が残っている。


「かわいい……」


寝息を立てながら、眠っている子供の頬を突いてみる。

柔らかい頬。

触ったら折ってしまいそうな腕や足。


可愛いの中に怖いが詰まっている。


「ううん、今年中に私も母親になるんだから……。大丈夫、私たちなら出来るよ」


自分に言い聞かせるように決意を胸に抱く。

なにがあろうとお腹の子は産んでみせる。


「朝陽君のために」


決意を胸に引っ越しの片づけへと戻っていく。

リビングのほうからは、騒がしい声が聞こえてきていた。





~~~~~~~~~~~~~




妹2人が話していた内容をすこし弄ったくらいです。

リアル会話はとても小説にできませんね。



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