「ありがとう母さん」

成人を迎えるのが18歳に変わっても成人式を行うのは20歳になる年。

俺と穂乃果も成人式を目前としている若者である。


「一緒じゃないね……」


「中学違うからな」


成人式は一般的に中学学区のメンバーが招待される。

県外に居ようと招待ハガキが届き、任意での参加になる。


当然、中学の違う俺らは違う会場である。


「じゃあクラスごとの集まり終わったら合流しよ!」


「まぁそれならいいが」


「やった!じゃあ、終わったら連絡してね?こっちが早く終わったら連絡するから!」


穂乃果は着付けのために成人式が行われる前日、つまり今日は実家に帰宅する。

家の留守を預かった俺は明日着ていくスーツを用意する。


「スーツなんて入社以来着てないもんな」


ワイシャツ等の事前準備を済ませ、啓介に連絡を入れる。


『うい~』


「明日迎えいくか?」


『まじ?じゃあ早くに集まって飯食ってからいこうぜ』


「その他、連れてくやついる?」


純也じゅんや美稲みね綾香あやかもいけそう?』


中学のときのいつメンである。

純也と啓介が俺と仲が良く、純也の彼女の美稲とその友達の綾香の計5人だ。


「たぶん。つか、美稲と綾香って着物だよな?」


『あー、純也に確認してみるわ』


通話を繋ぎながら、啓介が連絡をいれると、何分かしてミュートが外れた。


『着物だってよ。でも、お昼前には終わるから美稲と綾香と合流して成人式だな』


「俺ら3人で先に飯食っててもいいってこと?」


『ああ。着物着たら満足に飯なんて食えないからって言ってたわ』


「じゃあ、啓介のことは7時に迎え行くわ」


『あいよ、着替えて待ってるわ』


通話を切り、何着が届いていた穂乃果からのLIMEを確認する。

一通り、見終わると、スマホの表示が通話待機画面に切り替わり、表示されていたのが穂乃果だった。


『朝陽君!なにしてた~?』


穂乃果の声がなぜか反響して聞こえる。


「啓介とかと明日の話してた」


『啓介くん?……ああ、この前の!』


「つか、どこで電話してるの?声が響く感じ?なんだけど」


『お風呂場だよ!お風呂入りながら電話するの憧れてたからつい!』


ちゃぷん。と音が聞こえた。

付き合ってからほとんど一緒に居たから電話をする必要がなかったしな。

というか、仕事以外で穂乃果と離れたのはほぼ皆無だ。

どこに行く、居るにしたって穂乃果が隣にいた。


「着付けって何時からやるんだ?」


『うーん、私は予約は4時からだよ?1か月前に予約してたからすんなり予約できたけど、ギリギリで予約すると割高だし、そもそもどこも着付けばっかりで人員不足なんだって~』


「そんなに時間かかるものなのか?」


『そりゃあ掛かるよ!髪の毛のセットとか、帯だってきつく締めてもらわないといけないし!化粧もあるから余計に時間かかるんだよ?』


「大変そうだな……」


『生涯に1回きりの成人式だよ?みんなかわいくなりたいし、かわいい自分を見てもらいたいからね!』


気持ちは理解できる。

男の俺はあんまり意識する必要はないが、女は普段より意識してそうだもんな。

しかも、みんな同級生ということもあって、対抗心が煽られるっぽい。


『ん~。のぼせそうだから一旦上がるね~!落ち着いたらまた電話する!』


「あいよ」


通話を切り、穂乃果が事前に準備してくれていたご飯を食べる。

一人で食べる夕飯は何故か寂しく感じた。



◇◆◇◆◇◆◇



昨日は穂乃果が眠くなるギリギリまで話した。

俺も通話を切った後はすぐに寝た。


朝起きて、歯磨きや髪の毛のセットを真っ先に行う。

その後、スーツに着替え、無駄な荷物を持たぬように財布と車のキーだけ所持する。


車に乗り込み、啓介を迎えに。

家の前を通るため、来るのがわかってたかのように家の前では母さんが立っていた。


「朝陽、おめでとう」


「母さん……」


「これ、お祝い」


祝成人と書かれた御祝儀を母さんに渡された。


「なんで……?」


「なんでって、めでたい日でしょ?長男が成人を迎える。お母さんからしたらめでたいことよ?受け取りなさい。どうせ、お金はいくらあっても足りないんだから」


「わかった。ありがとう母さん」


感謝の意を伝え、ご祝儀を受け取る。

ちょっと涙脆くなってしまったと最近になって思う。


「ほら、啓介くんが待ってるんでしょ?いってらっしゃい」


「兄ちゃん、いってら~!」


玄関で覗いていた弟も手を振ってくる。


「おう、いってきます」


いつ以来だろうか。

こうして、俺のために家族が見送ってくれたのは。


啓介の家のチャイムを鳴らすと待ってましたとばかりに扉が開かれた。


「けいすけ……って、啓介のお母さん!」


「そう、啓介の母で~す。朝陽くん、成人おめでとう!」


「ありがとうございます」


「今朝ごみ捨てに行くときに外いったら朝陽君のお母さんと会ってね?朝陽君が家の前を通るのを待ってたのよ?ちゃんと会えた?」


「はい、無事に会えました。それより、何時ごろから待ってたかご存じですか?」


「私がゴミ捨てにいったのが6時だから1時間くらいじゃないかしら?息子想いの良い母親よね~。それに対して、うちの息子ったら……」


背後からドタバタ音が常に聞こえてきていた。

啓介の悲鳴もセットで。


「さっき起きたのよ……。だから早く寝ろって言ったのに……」


「啓介らしいっすね……」


「朝陽くん、うちの息子をよろしくね?」


「任せてください」


「よかったわ。じゃあ、これ。少ないけど有意義に使ってちょうだい」


啓介の母からもご祝儀をもらった。

返そうとも思ったが、素直に受け取ることに。


中身は啓介になにか奢ればいいだろう。


「またせた!悪いな!」


「あんたはいっつも朝陽君を待たせて!さっさといけ!」


「わーったよ!じゃあ、いこうぜ朝陽!」


「じゃあ、俺はこれで。ご祝儀ありがとうございます」


「は?俺もらってないんだけど!」


「あんたにはスーツ買ってあげたでしょ!それでチャラでいいってあんたが言ったんだから渡すわけないでしょ!」


高校までは聞きなれた親子喧嘩を聞き、少し前に戻った気分を感じた。

結局、今日の飲み代を特別に与えられた啓介はウハウハ顔で俺の車の助手席に乗り込んだ。


「変態チックなこといっていいか?」


「どうせ『氷野さんの匂いがする』って言うんだろ?」


「なんでわかんだよ……」


「わかるわ。つか、純也はどこで集合なんだ?」


「ああ、小学んとこのコンビニ。たぶんもうまってる」


さっき連絡きたからな!と自慢げに言われた。

今遅れているのはお前のせいだと文句を言い、懐かしい通学路を車で走らせていく。


コンビニに5分ほどで到着した。


すでに外では寒そうに震えて辺りを見渡している男が1人居た。


「おーい、純也ー!」


車の中から啓介が叫ぶ。

こちらの声に気づいたのか、小走りでこちらに向かってくる。


車のロックを解除し、後ろの席へ案内する。


「よ!懐かしいな、朝陽!」


「ひさびさ。美稲とはどうだ?」


「順風満帆!つい最近、妊娠してることが発覚してよ!俺もついにパパだぜ……」


啓介経由で純也と美稲が婚約したのは聞いてたが、妊娠してたのか。

めでたいことだ。


「まじかよ……。じゃあ俺だけ?彼女いないの……」


「は?え、朝陽に彼女?!」


意外そうに俺を見てくる純也。

しかし、車を走らせたため、視線は合わない。


「そうだぜ。見るか?朝陽の彼女。美稲より美人だぜ」


「はぁ?美稲のほうが美人にきまっ……あー、お世辞でもなんでもなく、まじで朝陽の彼女のほうが美人だわ……」


中学では1、2を争う美人だった美稲と綾香。

高校も同じとこに通ったらしく、1年のときだけで綾香は相当告られたらしい。

美稲とは中学の終わるくらいに付き合い始めた純也。

美稲は高校のときは純也一筋で他の男の気配を感じなかったらしい。


「じゃあ、啓介は今日告られるかもしんないぞ?」


「そうだよな!よし、なんかやる気出てきたわ!とりあえず、どっかいこうぜ!成人式前の祝賀会よ!」


「どこいくんだよ……」


「あー、しらん!適当に向かってくれ!」


「純也、美稲と綾香は何時に迎え行くんだ?」


「えーっと、11時に〇〇美容室だってよ。その前にさらっと食って合流でいいんじゃね?」


「了解。じゃあ美容室近くのどっかにいくか」


「まかせたぜ、朝陽の旦那ぁ!」


無駄にテンションの高い啓介の合図で目的地を目指すことに。

この啓介の元気が空回りしないことを祈るばかりだ……。







~~~~~~~~~~~~~





成人式編は1話で終わらせるつもりでしたが、このくだりも成人式だな~と思ったので急遽追加しました。

次、成人式終わらせて、3章行きます。


PS 日曜の競馬関係は新しく小説を書いてますので確認してみてください!

   興味なければガン無視で大丈夫です。本編に関係ありませんから!

   下にリンクあるので興味ある方はどうぞ!

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