「なん……だと……?」

日の昇らぬ5時。

寝ぼけている穂乃果を車に乗せて、海へ向かって移動していた。

一時間ほど運転すればつく距離。


天気予報も晴れのようで暗い空でも雲がないことを月の光が証明してくれている。


「初日の出なんて雲で見れないことのほうが多いからな~」


「んん……」


「気持ちよさそうに寝やがって……」


コンビニに寄って温かいコーヒーと小腹が空いたので菓子パンを購入。

車内や室内は温かいが外に一度出れば寒気が襲ってくる。


車を動かし、10分くらい運転して海辺へ着いた。

6時ちょい前に着いたが、俺より早い奴も何組かいる。

ほとんどが車の中で話しているようだ。


俺もスマホで日の出の時間を調べておく。


「6時53分か」


まだ1時間くらいある。

年末年始イベントのソシャゲで時間を消費する。


「課金してぇ……」


どこもかしこもイベントガチャばかりだ。

福袋ガチャセットとか買ってみたい。


「課金しても別に問題はねぇけど、一回課金したら追い課金しそうだしなぁ……」


酒飲んで二日酔いになったから追い酒で具合悪いのを誤魔化す手法と同じである。

ガチャの結果が悪ければ、当たるまで引くだけだし、いいの当たれ運がいいからと追いガチャループである。


「どこもかしこも正月イベントばっかじゃねぇか……当たり前か……」


少し眠気で頭がボーっとしてきている。

まだ40分くらい時間があるので、仮眠を取ることに。

アラームを6時40分にセットして、目を瞑った。



◇◆◇◆◇◆◇



「んん……、どこここ?」


目を覚ました穂乃果が寝ぼけた視界で辺りを見渡す。

徐々に覚醒していく脳が現状を把握していく。


「……海?ああ、初日の出!」


車で寝ていたことに気づき、隣を見れば寝ている朝陽がいた。


「寝てる朝陽くん……!」


お昼寝朝陽などは見たことあるが、夜に寝ている朝陽は見たことない穂乃果。

足元にあったカバンからスマホを取り出し、写真を一枚撮る。


「ホム画にしとこ♪」


今年何度変えたかわからないホーム画面を年始そうそう変えた。


「時間は……」


スマホの端っこに表示されている時刻を確認する。

すると、朝陽のアラームが40分になったことで鳴り出した。


「ひゃっ?!」


急に鳴り出した音に肩をびくりと震わす。

隣で寝ている朝陽がもぞもぞと動き出した。


「ふぁぁ……。ねっむ……」


「あ、おはよう……?」


「起きてたのか。寒くないか?」


「車内は寒くないよ?コートとか事前準備してたから多少寒いのは我慢できるよ」


「じゃあ、あと10分くらいだから行くか」


「うん!」


車から降りて、後ろの席に積んでおいた防寒具を身に着け、海沿いへ。

寒くても手を繋ぐことは忘れない。


「さっむ……」


「寒いね……。でも、空が明るくなってきたよ!」


「日の出の時は近いぜよ」


「あ、坂本龍馬だっけ?」


「そう。まぁ台詞あってたか知らんけど」


周りもどんどん人で密集してくる。

日の出5分前になると、みんなして水平線の彼方を見ていた。


「もうちょっとだね」


「ああ。今年は綺麗に見れそうだ」


周りの雑音も徐々に無くなりつつある。

大体はカメラやスマホを片手に日の出の時を待っていた。


「あ、昇ってきた!」


穂乃果も俺も例外ではなく、スマホを片手に日の出を見ていた。


「きれい……」


「初めてか?」


「うん!初めて!」


「じゃあ満喫しとけ」


それから穂乃果はハイテンションで写真や動画を撮り続けた。





◇◆◇◆◇◆◇




日の出を満喫し、いまは渋滞の帰り道。

来た道とは違う方向へ帰っていた。


「緊張するよ……」


「大丈夫だって。出迎えるのは母さんじゃないと思うからな」


今は俺の家に向かって移動していた。

海岸から30分くらいで着くのだが、渋滞のせいもあり1時間くらい掛かる。

ようやく一番混む信号を次でいけるくらいまで進んだ程度だ。


「やっぱり着物のほうが良かったかな?!」


「堅い印象しか与えないからやめとけって……」


「でもぉ……」


「不安になるのはわかるが、変に気を遣ってると相手も気を遣うからいつも通りでいいと思うぞ」


俺も気を遣ってはいたが、最後のほうは普通に話せるくらいにはなったしな。

穂乃果の両親は普通にいい人だ。

お義父さんはちょっと変わった人かもしれないが……。


「お、信号いけるな」


「じゃあすぐ?」


「だな。緊張するか?」


「そりゃ緊張するけど……。でも、頑張るよ!」


「その意気だ。じゃあ、ちゃちゃっと向かうか」


それから数分運転すれば、すぐに家に着いた。

母親と兄弟2人の3人家族だが、母方の親戚が使っていた家を売り払うときに買い取ったらしい。


車を庭に雑に止めて、玄関のほう歩いていく。


「ふぅ…。よしっ!」


「じゃあ入るぞ~」


俺がドアノブに手を伸ばし、扉を開く。


「ただいま~」


「待ってたぜ、兄ちゃん!」


「出待ちするな」


「今年こそは勝たねばならぬ!」


「そういうのはいいから、上がらせろ。こちとら寒いんだよ」


「それもそうだな。じゃああがれよ」


「うざい。あ、そういや、彼女連れてきてるんだわ」


「は?……母ちゃん!兄ちゃんが女連れてきたぁぁぁぁぁ!!!」


「うっさいわね……。知ってるわよ。ほら、早く上がりなさい」


家に着いて早々、めんどくさい弟に絡まれ、あげくの果てに彼女を連れてきたことに発狂されるとは思わんかったわ。


穂乃果も予想もしてない展開にキョトンとしていた。


「ほら、あがれよ」


「あ、うん。おじゃまします……」


「穂乃果ちゃんね?朝陽から話は聞いてるわ。ゆっくりしていってね?」


エプロン姿の俺の母はしっかり化粧していた。

一応、初日の出のあとで連れていくとは言っていたが、化粧までしているとは思わんかった。


ささっと、リビングに戻っていく親子。

俺も靴を脱いで、リビングへ。


「どうした?そこに突っ立てたら寒いだけだぞ?」


「う、うん。なんかあっさりしてたな~って……」


「そんなもんだろ。ほら、あがれよ」


穂乃果も靴を脱いで、廊下に立つ。


「じゃあ、一番緊張する挨拶済ませるか」


「う、うん!」


気合を入れなおすタイミングを与え、手を握ってやった。

そして強引に引っ張ってリビングへ連れていく。


「ちょ!朝陽くん!!」


穂乃果の決意は固まってなかったが、たぶん大丈夫だろう。

俺は穂乃果を信じて、リビングへ入っていった。




◇◆◇◆◇◆◇



「おりゃ!」


パコん!


「ほらよ」


ぱこんっ!


「おりゃああ!」


スカっ……


「あああああ……!」


「へたくそ」


「練習してたのによおおお!」


羽根つきを初めて30分。

5-0で俺が圧勝していた。


「ごめんね、うるさいバカ共で」


「いえ、にぎやかで羨ましいです」


「そう?穂乃果ちゃんって一人っ子だっけ?」


「はい。兄弟欲しいって思ってたんです」


普通に母さんと仲良くしゃべっている穂乃果を横目に6勝目を飾った。

すでに弟の顔は油性ペンでのいたずら書きが増えていく。


「兄ちゃん、手加減!ハンデをくれ!」


「お前負けすぎたからって懇願してくんなよ……。これでも手加減してやってんだよ」


「なん……だと……?じゃ、じゃあ!代打!穂乃果さん、やりましょう!」


「え?私?」


「いいんじゃね?こいつ弱いし」


俺の羽を穂乃果に渡し、場所を変えた。

軽く素振りして、重さを確認している。


「結構重いね?」


「そうか?まぁバドのラケットと比べると重いかもな」


「え?穂乃果さんってバド部だった?」


「ちょっとだけやってたことあるくらいだからそんなに上手じゃないけどね?」


それから3試合ほど行った。

全部、穂乃果の圧勝で、弟は手も足もでなかった。


「俺って弱い……?あんなに練習したのに……」


「結構楽しいね!朝陽君もやろ!」


「ああ、いいぞ」


弟から羽を奪い取り、穂乃果と打ち合う。

長いラリーを経て、俺が勝った。


「俺の1年は無駄だったのかよ……」


なんで羽根つきに一年の修行してんだよ……。

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